第7話
お風呂から上がると、下着を着て、服を着た。……今度はワンピースではなく普通にズボンとシャツ。
昨日ワンピースを用意されたのは、元々着ていた服が女性服だったから、らしい。下着については……うん、まぁ、……うん。
服については、一応どっちが良いかは聞かれた。どっちでも大丈夫だよ、と言ってくれた。だから男の子の服を選んだ。
元々私服はズボンばっかりだったし、こっちの方が落ち着くので。
「こうして見るとツムギ、本当に男の子だねぇ」
「ですね……。髪は元から短かったんですけど、前はそれでも一応、かろうじて、女、には見えてましたが……」
残念ながら癖毛は癖毛のままだった。色も髪形も変わっていない。どうせ変わるならストレートになりたかった。ふわぼさで中途半端な長さのままだった。
声の感じは変わってない。気をつけて聞けばちょっとだけ低いかもしれない? 元からそこそこ低かったからあまり変わってない気がする。年齢は……ひょっとするとだけど、少しだけ若返ったのかも? だって声が変わってないってことは、声変わりしてないってことだろうし。そういう声質なだけかもしれないけど。
身長はちょっとだけ伸びてるようなそうでもないような……元の身長は155センチだからそれよりはありそうな気がしなくもないけど、計ってみないと分からない。
そう言えば、改めて彼女に名乗った。あちらでの自分のことも軽く話した。家族は母親が1人であることや、高校生――学生で、あそこにいた彼女達2人は同じ学校に通う生徒同士だったことなどだ。
無難に過ごす、が日常だったから、私が居なくなっても向こうで困る人や心配する人はごく少数なことも。……学校、友達いなかったしな……。それよりも向こうに連れて行かれた彼女達2人のほうが騒ぎになりそうだし心配している人も多いだろう。
母は……悲しんでくれるだろうけど、私がいない方が捗るだろうからな、主に再婚とか。仕事も忙しいだろうし、たぶん、だいじょうぶ。面倒臭くて足手まといな私がいないなら、その方がきっと母は生きやすいと思うから。
……そう考えると、なんか、すごく……さびしいな。
「ツムギはこれからどうしたい?」
「どう……?」
「やりたいこと、なりたいもの、行動の指針、方向性、将来、……まぁ、色々?」
「やりたい……こと……」
やりたいこと。……なんだろう? 何かあるだろうか。私にも出来ること。
何をやってもドジで愚図で、料理も上手に出来なくて、「もう良いわよ私がやるから」って、母さんからは何も任せて貰えなかったしやらせて貰えないままだった。
練習しても「その程度しかできないの」って叱られて、材料を無駄にするな、タダじゃないんだって、正論でしかない言葉でたくさん怒られた。
勉強も、運動も、鈍くさくて、頑張っても人より出来ない。人よりたくさん努力して、人並みのちょっと下がやっとだった。
やっと出来た! って思って周りを見ると、いつだってみんな軽やかにそんな程度は出来ていて、「今頃?」「その程度?」って目がたくさん返ってきた。
得意なことなんて、何もない。
好きなのは本を読むことだけど、本なんか読んだって何にもならないって、そんな無駄なことしてどうするの、何の意味があるのって、よく母さんには怒られてた。
実際、母さんの言うことはその通りだ。本を読んで楽しくても、それで勉強が出来るようになるわけじゃないし、運動が出来る様になるわけでもないもの。
「もちろん焦らなくて良いよ。今は混乱してるだろうし、この世界や国のことも学ばなきゃだし。取りあえず今日はこれから、手続き関係で動くのに付いてきて貰うけどね」
「手続き、ですか?」
「そう。君がこの国に滞在するための手続き。リングも正式な指輪型にしよ? その方が色々便利だしね」
「リング」
手首にはまった銀色を見た。水に濡れてもお湯に濡れてもびくともしない不思議な輪っかだ。触れても金属な感じはなくて、むしろ銀色に染まった肌に触れてるみたいな感触だった。
タオルで拭いてもこすってもびくともしなかったんだよ……。
「リングがあれば魔力量も量れるし。魔力がどれくらいあるか分かれば魔法も使えるようになるし、適性がよさそうだったら、そういう学校や塾に行くのも良いね。あとは言葉も勉強しないと」
「……ことば? でも今、しゃべれてますけど」
「しゃべるだけ、ね。しかもそれ、召喚魔方陣によるただの言語理解付与だから、永続付与じゃないよ。1ヶ月もすると切れちゃうよ」
「い、いっかげつで切れちゃう!?」
「永続にする方法もあるんだけど、必要魔力量が膨大になり過ぎちゃうから普通は使わないね。それでも、何も分からないところから始めて学ぶよりはずっと早くに習得出来るよ。大丈夫!」
ほんとにそれ、だいじょうぶなんだろうか!?
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