第2話
私は置いてきぼりかなぁ、と思っていたらイケメンさんが振り向いた。
「こちらの者はあなた方の従者かなにかでしょうか?」
「し、知りません! 他人です!」
「むしろ私達、被害者で! その人のせいで、こんな――」
…………。わぁ。
いや、一応クラスメートなんだけど。………………認識されてなさそーだ……?
なんとも敵意のこもった視線が向けられ、思わず俯いて顔を逸らした。美少女たちのそれを受けて、無関心そうだったイケメンさんの視線にも険が宿る。……ちらりと見上げると3対の目が私を睨んでいた。怖い。
結局そのあと、丁重にイケメンさんに連れて行かれる2人をよそに、私はその場に置いて行かれた。付いていこうと立ち上がりかけたらまた睨まれて、竦んだ隙にさささっと立ち去られてしまった。途方に暮れた。
こういうの、説明とか色々あるんじゃないの? あの2人だけなの? 私は一体どうなるの?
これ、いわゆる「おまけで召喚されちゃった」とか、そういうやつ?
言葉普通に通じてたし、……あ、でもそれはあの子たちもか。
やっぱり私、ここでも、どこへいっても、おまけでいらない子、なんだ……?
「くしゅ!」
くしゃみが出た。そりゃそうだ。水たまりで濡れた身体が冷えて寒い。なのにすりむいた頬と膝はジンジンと火照った様に痛んだ。
「大丈夫かい?」
「あぅ、あの、……だ、だいじょぶ、……です」
黒ローブの1人が声を掛けてくれた。意外に優しそうな声だ。男の人……? いや、声の低い女の人……?
「大丈夫って顔じゃないし姿じゃないよ。立てる?」
「は、はい……たて、ます……」
よろよろと立ち上がれば、黒ローブさんは「着替えを用意しよう。こちらへ来て」と先に立って歩き始めた。慌てて、その後を追う。……うう、ちょっと足痛い。見下ろせば、すりむいた膝は血が滲んでいた。
いくつも並んだ扉の内の1つを開けてついてくるよう促される。部屋を出しなに振り向けば、他の黒ローブさんたちは部屋の後片付けを始めていた。周囲に張られたタペストリーを外したり、足下の魔方陣を消すためか、モップで床を掃除したりしていた。
黒ローブさんに連れられるまま歩く。人が余裕ですれ違えそうな廊下は薄暗いけれど、壁にぽつぽつとランプが灯っていた。ゆらゆらと揺れるオレンジの光が私と黒ローブさんの前に後ろに長い影を幾重にも作り出す。コツコツと響く2人分の足音の他は何も聞こえなくて、なんだか異世界に紛れ込んだみたいだった。
いや、そういやここ異世界だった。紛れ込んだも何もないわ。そのまんま異世界だよ。
今更ながらだけど、私、この人についてきて良かったんだろうか……?
「ここだ」
右へ行ったり左へ曲がったりした廊下の先にはずらりと扉が並ぶ場所があった。その内の1つを開けて、中に入るように促された。素直に従い中に入ると、黒ローブさんもまた部屋へと入り――ガチャン、と鍵が下ろされた。音にぎょっとして振り向けば、黒ローブさんの手に握られた小さな杖の先が発光していた。その光に応答するかのように、扉の上部に据えられた鍵が次々とガチャンガチャンと下りてゆく。ちょっと待って、なんでそんなに沢山鍵が付いてるのその扉!? ついでに、私じゃ絶対手が届かない位置だよ上の鍵全部!
「ここまでくればもう大丈夫だよ」
いや、何が大丈夫!? あんまりだいじょうぶ要素なくないですか!?
密室に二人きり! あまりにもがっつりしっかり掛けられてしまった鍵! 不穏と不安の要素しかないんですが!?
しかし声には出せない。
びくびく震える私をよそに、黒ローブ氏はそう言いながら、さらりとローブを脱ぎ捨てた。
ローブの下から現れたのは、背の高い女性だった。中性的な容姿の彼女は、黒く長い髪を後ろで1つにくくっている。ローブの下はこざっぱりとしたシャツとズボンという軽装だった。脱ぎ捨てたローブを部屋の真ん中に置かれていたテーブルに放り投げると、片隅のタンスを漁り、何枚かの服を取り出した。
「これ、多分着れると思うんだけど、サイズ的にどうかな?」
複数の内から選んで差し出されたのはシンプルな茶色のワンピースだった。スカートの裾と襟元に小さなレースがついている以外は飾りらしい飾りもない。加えて、下着代わりだろう袖なしの白いランニングシャツとウエストをヒモでくくるタイプの短パンも。
「あ、ありがと、ございます……?」
「あっちの扉の先がシャワー室になってる。温水も出るよ。頭泥だらけだし、浴びとく?」
「あ、えと、その……は、はい? 出来れば」
「了解。じゃあ、タオルも、と――付いてきて、操作教える」
彼女に連れられて、部屋の隣にあったシャワー室へ。いや、普通にシャワー室だな? ビジネスなホテルについてるヤツみたい。
お湯の出し方を教わり、しみるかもしれないけど傷も洗ってね、と注意される。出たら治療するから、って。なお、普通に蛇口を捻る方式だった。
現代的だな……? 水道、あるんだ???
しゃわしゃわと温かいお湯を浴びながら、少しだけ深めに息を吐いた。濡れて冷えた身体に温かいお湯が気持ち良かった。髪にしみてしまった水たまりの泥水も髪に付いてた汚れと一緒に洗い流して、貸して貰ったタオルで身体を拭いてワンピースを着た。……うん、若干サイズが大きいけど、しっかりした厚手の生地で温かい。
シャワーから出ると、彼女は笑顔で迎えてくれた。
「大丈夫だった?」
「あ、はい。だいじょぶです。ありがと、ございました。使い終わったタオルとか、濡れてる服、とかは、どうしたら」
「貸して」
言われるままに全部手渡すと、彼女の手の上に大きな水の珠が出来上がった。服もタオルもその水の珠の中に閉じ込められ、ぐるりぐるりと回り始めた。
「はい、洗濯終了」
珠はぱちんと弾けるように消えて、後には綺麗に洗い上げられ乾燥までした服とタオルが残されていた。乾いた制服を手渡された私は震えた。
魔法だ……! いやしかし、それよりも……!!!
「こ、この服、水洗いしちゃダメなヤツ……!!!」
「え?」
どういう理屈か分からないけれど服は綺麗に乾いていた。染み込んだ泥汚れも綺麗になってる。ありがたいけど、ちょっと泣きそう。
取りあえず、ワンピースの上からさっと手渡されたブレザーの上着を羽織ってみた。……まだ1年生ということで、ちょっと、かなり、大きめのサイズを買っていたはずが、ピッタリサイズになっていた。これは……ぎ、ぎりぎり、致命傷……!!!
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