異世界転移で性別を紛失した
ふうこ
第一章 転移、転移、出会い
第1話
なんと異世界転移してしまった。なんてことだ。
私はこっそりと心の中で頭を抱えた。なぜか度が合わなくなってしまったメガネを外して胸ポケットにしまい、目の前を見た。そこには困惑した様子で周囲を見回しながらお互いの手を握り合っている女の子が2人いる。同じクラスの仲良し2人組で、美少女で家庭的な
私は彼女達のクラスメートではあるけれどクラスメートでしかない地味眼鏡オタクの
成績普通運動音痴特技なし、顔面偏差値は平均……は盛りすぎだろうか。うぬぼれじゃなければ、一応平均。
黒より若干茶色寄りの地毛は天パでいつもふわふわ。きっちり結んだ方が良いのは分かってるけど、手先が不器用だから割と適当。後ろは1つに引っ詰めてる。最近は無精して前髪を伸ばしてたから、髪で顔が半分くらい隠れちゃいそうな勢いだ。今日は寝癖ありでさらにふわぼさってる。身長は普通……少し低めかもしれないけど、ぎりぎり普通範疇……! 年齢は15歳、高校一年生。
今は夏休み直前で、期末試験が終わってあまりにヒドい点数に意気消沈しながらの学校からの帰路、最寄り駅まで歩いている途中だった。
なお私のすぐ後ろを歩いていた美少女2人組はよく聞こえないけど、なんだかすごく楽しそうに話しながら歩いていた。成績も良かったらしいし、たぶん夏休みの計画とかなんだろうなぁ……。
天って二物も三物も与えますよねー知ってるー……。
良くないことは重なるもので、おこづかいを頑張って貯めて買った大好きなゲームのキャラのキーホルダーも落としてなくしてしまっていた。キーホルダーにもなるアクスタで、すっごく大事にしてたのにね……。
そのキャラは主人公を助けるサブキャラの男の子なんだけど、髪の毛のふわぼさ具合が、私の髪のふわぼさにちょっと似てて、親近感、だったんだ。
いつも通りの通学路。駅へと通じる少しだけ遠回りのその道は、表通りから外れた裏道だ。いつもなら多少なり人が歩いているはずのその道は、時間が少しずれていたから、ひどく人通りが少なかった。成績が悪かったからと先生から呼び出しくらったのが原因だ。
道の真ん中に大きな水たまりがあった。そう言えば午前中雨が降ったっけ……と灰色の空をちらりと見上げた。今は曇っているけど雨は降ってない。――それなのに、奇妙なことに、水たまりは風もないのに波打って、うっすらぼんやり発光していた。あ、これなんかヤバそうだなー、と思った私は手前で止まった。
そこに、彼女達が追突したのだ。多分話に夢中で突然止まった私に気がつかなかったんだろう。私は後ろから押される形で、水たまりに頭からどぼんした。後ろから来ていた彼女達は私にさえ気がついていなかったのだ、当然彼女達もどぼんと足を突っ込んだ。
そして今ここ。
「なに……これ、ここどこ? 芽依ちゃん」
「だ、大丈夫だよ桃花、私が付いてるから」
震える美少女2人は絵になるね。対する私は水たまりに頭から突っ込んだから顔をすりむくわびしょ濡れだわで良いとこなしだよ。髪の毛にゴミもくっ付いてる。
気持ち悪くて、濡れた前髪をざっと後ろにかき上げた。
衝突された時振り向いたから2人とは顔をつきあわせてるような状況なんだけど、見えてないのかな?
「ちょっと! あなたがなにかしたの!? 止めてよね、変な嫌がらせ!」
見えてた。そして私が加害者な認識だった。私のこの惨状はまるっと無視か……。
しかしそれにしたって。私はどんな魔法使いだってーのよ。異世界転移させちゃうようなすごい魔法や超能力なんて持ってないよ。持ってそうに見えるのか?
したというより、私の方が一方的にされた側だよ。あなたたちに突き飛ばされたよ。水たまり回避しようとしてたし一応運動音痴なりに直前で止まって、実際に回避出来てたのに。
とは言うものの、そんなことは声には出せない。陽の女子2人に睨まれて普通になんて喋れないよ。あうあうと「あの、いえ、その、ちがくて」と蚊の鳴くような声で呟くのがやっとだった。
その時、周囲に灯りが灯った。薄暗かった周囲が一気に明るくなった。
美少女2人も驚いたのだろう、私から視線を外して周囲を見回していた。私も彼女達につられるようにぐるりと視線を巡らせば、そこはなかなかどうしてファンタジーな空間だった。結構広い。
壁面は石積みの壁に綺麗なタペストリーが飾られていて、以前アニメで見たファンタジーのお城の中みたいだ。
足下には複雑怪奇な魔方陣、そして黒いフード付きのローブを着た人物が周囲を囲む。ざっと……20人くらいは居そうだな? 誰もがフードを目深に被っているせいで、顔は見えない。跪いてる人や、倒れている人もちらほらいるから、正確に何人くらいいるのか、ちょっとよく分からない。
ああもうこれは確定だ。異世界召喚だ。割と好きで良く小説で読んでたヤツだ!
「聖女様」
声を掛けられそちらを見れば、黒いローブの人達の間から豪奢な衣装をまとったイケメンが進み出てきた。なんと、声までイケメンだ。歳は……いくつだろう? 二十代? 金髪碧眼の美青年だ。王子様っぽいイケメンだ。
「我等が召喚に応じて下さり、感謝致します」
「せ、聖女さま……? 私達が?」
「桃花だよ、きっと! それっぽいもん!」
イケメンは当然のように私の横を通り過ぎ、美少女2人に跪いた。
………………うん。まぁ、分かる。私でも多分そうする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます