『繋ぐ季節』の感想

繋ぐ季節

作者 幸まる

https://kakuyomu.jp/works/16818093075228673514


 神竜は世界に四季の妖精を置くも、冬を嫌う人間の声をきいて冬の妖精は消え、世界のバランスが崩れてしまう。春の妖精は神竜に冬を返してもらうようお願いするが、どうするかは世界を生きる者たちが選び取ることだといって去っていく。冬があってこその四季だと、春の妖精は凍った冬の妖精を目覚めさせ、命をつなぐ四季として共にあろうと誓い、仲を取り戻す話。


 文章の書き出しは、ひとマス下げてほしいけれども、気にしない。

 新たな始まりと終わり、再生の象徴である春のテーマを、多面的に表現している。

 季節の繋ぎ手としての四季の妖精を通じて、自然バランスと人間の願望を織り交ぜながら、現在世界で起きている異常気象を題材を神竜と妖精という視点で描き、四季の妖精が仲直りする結末からは、現代を生きる読者へ強いメッセージを投げかけている。


 三人称、神竜視点と春と冬の妖精視点、神視点で書かれた文体。季節を比喩した妖精を用いた対話と内省、詩的で感情的な表現で綴られいる。

 恋愛ものの構造で書かれているので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の流れに準じている。


 絡め取り話法と、メロドラマと同じ中心起動で書かれている。

 世界を創造した神竜は、四つの季節を置き、司る四季の妖精は信頼関係にある。世界に満ちた人間が、冬がもっと短ければいいのにとつぶやいた。春の妖精は冬の妖精に気にしてはいけないというも、夏の妖精が冬を短くしてはどうだろうといい出した。

「春だって、冷たい種から芽吹かせるのに難儀しているだろ」

 それを聞いた冬は、自分が疎ましく思われていたことを知る。冬が短くなって人間は喜び、もっと短ければと言い出す。涙した冬の妖精はある日、「きっと冬はいらないの」と春の妖精に言い残し、消えた。

 冬が消えたおかげで動植物は狂い、冬が戻ってこない事実に三人の妖精は慄く。冬の大切さを知った妖精たち。冬を迎えに行こうと、春の妖精はいい、竜神のもとへ行く。

 冬に続いて春も我が元に還るかという竜神に、世界のために冬を連れに来たと話し、戻すようお願いする。竜神は、世界に必要なものは最初にすべて与えてあるから、どうしていくかは世界に生きる者たちが選んでいくことで、神が手を出すものではないと言い残して消える。

 春の妖精は、冬の妖精に声をかけて謝り、冬がいてこその四季の妖精だとわかったと話す。命を休ませ春の芽吹きをつなげるために冬は必要だと手を取って、冬と春は駆け出していく。竜神は静かに見つめる。世界の選択は、生きる者たちにかかっているのだ。


 三幕八場の構成で書かれている。

 一幕一場の状況の説明、はじまりでは、神竜は世界を想像し、一年を四等分にし、四季にそれぞれ春夏秋冬の妖精が司らせた。世に満ちた人間は、冬が近づいた頃、厳しい冬が短ければいいのにとつぶやいた。

 二場の主人公の目的では、人間の声が冬の妖精に届くも、気にしてはだめだよと、春の妖精が気遣う。季節を秋の妖精から受け取り、春の妖精に手渡せるのは、自分だけだという歓びと自負が、冬の妖精を支えてきた。

 二幕三場の最初の課題では、夏の妖精が冬を短くして残りの季節を少し長くするのはどうだろうといい出す。秋も同意し、春はどうかと聞いてくる。「はっきり言えばいい。冷たい種から芽吹かせるのは難儀していると、以前ボヤいていただろうに」

 春の妖精が冬を疎ましく思っていたなんてと知って、冬はみんながそう思うならばそれでいいと答えて去っていった。

 四場の重い課題では、その年、冬は短くなり、人間は喜んだ。短くなっても冬のために力を尽くすも、もっと短ければいいのにと人間は嘆き、冬の妖精は涙を流した。ある日、春の妖精を連れ出して、「もう、きっと冬はいらないの」と涙を落とし、消えた。

 五場の状況の再整備、転換点では、世温泉の冬の終わりに、いつもより早い春の訪れに世界は追いつけない。植物の成長は不十分で、動物たちの繁殖も狂わせた。暑さに耐えきれず花は枯れ、実りは少なかった。冬が来ない事実を三人の妖精は知り、生ぬるい風が流れ過ぎ、世界は混乱していく。気温は上がり、氷は溶け出し、湖は干上がり、虫は大量発生し、動物たちは人間の住処へ迷い出る。

 暑さを下げることもできず、世界中眠っていないのに目覚めさせる必要もない状況に、冬をなくしてはならなかった、どの季節がなくなってもいけなかったし、神竜が四季四人を揃って置いたのは世界に必要だったからだと知る。

 六場の最大の課題では、春の妖精は冬の妖精を迎えに行こうと言った。竜の頂と呼ばれる神の座、雲に届く程の峰には、季節狂いにあっても白く雪が残っている。あそこに冬の妖精がいるはず。「冬の妖精の心に一番近いのは君だろう。君達が帰るまで、世界は私達がなんとか保ってみせる」夏の妖精の言葉を聞いて、春の妖精は竜の項へ向かう。神竜に冬の妖精を戻してほしいと頼むも、冬は自ら還ったので、乞い願うものではないと言われてしまう。世界に必要なものは最初にすべて与えたのだから、どう広げ発展させるかは、世界に生きる者たちが選び取るものであり、神はただ見守るのみと言い残して、消えてしまった。

 三幕七場のどんでん返し、最後の課題では、神竜がいた場所に冬の妖精が膝を抱えるように体を折って目を閉じている。春の妖精は声を掛けるも、すべてを拒んで冷たい種と化していた。目覚めを促すのは春の妖精の務めだとして、自分たちの非礼を詫び、冬がいてこその四季だと語り、「春になって、冷たい種を芽吹かせるのは、とても大変だよ。でも、その瞬間を導けるのは僕だけで、それがどれ程誇らしかったか、君は知っている?」自分竹が目覚めさせることができる。夏には夏の、秋には秋にしかできないことがあり、冬の君が誇らしいことは何かとたずねると、「生命を休ませること。一年頑張った生命を、また春の芽吹きに……繋げるために」答えた冬を閉じ込めていたからが割れて、二人の手が重なる。

 八場のエピローグでは、世界が消え去るその日まで、共にあろうときつく手をつなぎ合って、冬と春は駆け出していく。その姿を神竜はしずかに見つめる。世界の選択は、神の手にはない。選ぶのは、世界に生きる者たちにあるのだった。二人が駆けたしたから、芽吹きの春が訪れていく。


 世界を創造した神竜が四季を置いた謎と、四季の妖精たちや様々な生き物が存在する世界に起こる出来事の謎が、どのように関わり合いながら、どんな結末を迎えるのかに興味が惹かれる。

 現実世界で起きている環境問題を、神竜や妖精を持ち出し、童話的にわかりやすく書かれていることで、読者が物語に入り込みやすくしているところがよかった。

 人間の視点を入れつつも、気が付かないところで起きている世界の出来事を、妖精の感覚や視点で描くことで、わかりやすく共感を持って読み進めていける。

 直接、語りかけているわけではないけれども、読者と内容に強い共通点が描かれている。

 現実に存在する季節がおかしくなっている危機が身近にあるので、ファンタジーとはいえ、読者は気になって引き込まれてしまう。


 冒頭の導入部分は、客観的な状況の説明からはじまり、本編では主人公の意見や考えなどが主観で密に描かれ、終わりはまた客観的な視点で粗く書かれている。

 神竜が世界を創造したという状況説明が粗く語られ、先へ先へと誘ってくれているので、苦も無く読み進めていけるのがいい。

 本編では、四季の妖精が世界の季節を司り、増えてきた人間の言葉に影響されて冬の長さを短くしていく様子が、妖精視点で書かれている。しかも、妖精同士のやり取りは具体的な動作、行動で書かれていて、場面を想像しやすい。

 結末では、客観的視点である神竜からのまとめの流れをしているから、読者は納得して読み終えることができる。


 妖精たちに、共感できるキャラクター付けがされているところもいい。

 神である世界を作った神竜によって、世界の四季を司る妖精という存在である彼らは、人間をはじめすべての生物のために季節を繋いでバランスを取っている存在であること。

 冬の妖精は寒いからと人間に嫌われているところは、かわいそうに思える。夏の妖精の言葉から傷ついて閉じこもってしまうところや、三人の妖精が冬がいてこその自分たちだと気づき、反省するところ、春の妖精が自分たちの非を認めて冬の妖精に謝り、手をつないで駆けていくところなど、人間味を感じられる。


 一文が短くて、読みやすいところもいい。

 説明的になりすぎない自然な会話を意識されているところも、読みやすさにつながっている。説明的すぎると頭に入ってこなくなる。どうしても伝えた情報でも、読みやすさとリアリティーを優先して、要点を絞った、自然なやり取りがされている。

 神竜のセリフは、難しいかもしれないけれども、重要な場面であり、ここぞというところなので、引き立っているので問題ない。

 会話文の中に、それぞれのキャラクターの性格、色を感じる書き方がされているところも効果がでている。

 妖精の描写はされていないけれども、それぞれに役割が与えられている。それに見合った性格付けがされており、会話の端々に感じられて、誰がなにをしゃべっているのか迷うことなく読める書き方がされている。おかげで、物語へ素直に入っていける。


 冬や春の妖精の内面の感情が口語的に書かれており、仲間外れにされるショッキングな場面を読みやすくしている。

 

 読者との共通点が持てることが書かれているのが、なおさら共感と感情移入を生むところ。

 寒いから早く冬が終わらないかなと、誰しも思ったことがあるはず。仮に思ったことなかったとしても、友達やまわりの誰かが口にしているのを見たり聞いたりしたことがあるだろう。

 そんな人間の願望の姿が描かれているので、読者も自分のことだと捉え、親近感を持って受け止めるだろう。


 仲間はずれにしたことを反省して謝り、仲直りする行動を読者にさせ、そのとおりに冬の妖精を迎えに行く構図はわかりやすい。

 微笑ましく終わっているのもいい。

 だけど、本作の良さはそこで終わらないところにある。


 作品を読んで満足するだけでなく、本作の内容から学び、教訓とし、日常に活かせるところが素晴らしい。

 集団で生活していると、同調圧力に流され、長いものに巻かれがちなことは多い。みんなと一緒の行動をしていれば大丈夫だろうと、あまり深く考えずに行動したことは、大なり小なり誰しも覚えがあるだろう。

 日本人は外圧でしか変わらないと思いこんでいるところがあるけれども、決してそうではない。

 自分たちのいる場所をよりよく変えていける力は、自分たちの中にあるのだと自覚することで、他人や機械や道具、制度やシステムのせいとする考えを改め自省し、変わることができる。登場した妖精たちのように。


 夏の妖精のように、自分で考えることなく他人の意見を聞いて、鵜呑みにして、自分に利があるからと相手を貶めるようなことをしたことに覚えのある人は、ドキリとするのではないだろうか。

 秋の妖精のように、自分は困らないだろうからと深く考えもせずに、他人の意見に同調するようなことに覚えがある人は、自分事だと思えるはず。

 春の妖精のように、気にしてはダメと味方になって上げつつも、別の場所では周りの子たちの同調圧力に負けて、ボヤいてしまったことがある人は、あのときは良くなかったかなと反省するかもしれない。

 冬の妖精のように、自分が誇りにしていたことをけなされ、信じていた相手に裏切られて、みんなからのけ者にされて、引きこもってしまったことがある人は、春の妖精が謝って迎えに来てくれたように、心の中では期待しているのではないだろうか。


 世の中の問題は何が原因か、みんなわかっている。身近な人や親しい相手を攻撃することではなく、仲良くすることからはじめて変えていく。変えていく力は、持っているのだから。


 新しい始まりと終わり、再生をくり返す四季の妖精の姿は、テーマである春を良く描き、物語だけにとどまらないところに良さがある。

 物語では、春が冬を迎えに行き、再び四つの季節が世界に戻ることを暗示している。だけれども、現実を生きているわたしたちの世界は、物語のように簡単にはいかないかもしれない。

 それでも、世の中を良くしていく力は、わたしたちがもっていることに気づけたのならば、あとは実行すればいい。

 本作はそのことを教えてくれている。

 子どもから大人まで、今を生きるみんなに響く作品だ。

 ぜひとも、四季の巡る世界を、次の世代へと繋げていきたいものである。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る