39

「くっ……琴未ことみ


「ミリカ……一つ提案があるんだ」


「な……何?」


「俺とミリカの魔力……一緒にはできないか?」


「一緒……ですって?」


「ああ。俺だけの魔力じゃない。ミリカのも合わせて、強力になったストライクヒットを魔王に放つんだ」


「……そっか。そうね……!」


 ミリカも俺の考えが理解できたようで、勝ち気な笑みを向けてくれた。

 そして、俺が持っているエンジェルロッドに向かって手のひらをかざしたのだった。


「私の魔力を……エンジェルロッドに注ぐわ」


「ああ」


「だから……絶対に勝って。かける!」


「ああっ!!」


「私の魔力……全部……持ってけぇー!!」


 彼女の叫びと共に、手のひらからは光の束が出てくる。それは俺のエンジェルロッドへと吸収されていった。

 魔力が尽きたのか、ミリカは元の姿へと戻った。つまり、かけるの姿だ。

 疲労感に満ち溢れた表情で、ミリカは膝をつく。


「こんくらい……か。後は任せたわよ……かけ……る」


 そのまま、かけるの姿をした琴未ことみは地面へと倒れていった。

 死んだわけじゃない。ただ気絶しただけだ。

 ……後は、俺の役目か。この光を集めたエンジェルロッドを、魔王が憑依されている沙里さりちゃんの体に叩きつける。


 ミリカの正体が分かったためか、魔王は一応目を丸くさせて驚きを示してはいた。


「ほう……一人の魔法少女の正体は男だったか。これは……沙里さりの記憶を辿っていくとかけるという人物か。あの教え方の下手くそな」


 ピキッ!


「何故普通の人間に魔力があるのかは沙里さりも知らないようだが……。彼女の記憶によれば、この世界の人間は魔力が溜まらないという調査結果があるのだがな」


「……言いたいことはそれだけか? あぁ!? 魔王!!」


「……何?」


「今度こそ、終わりだ」


 俺もエンジェルロッドの先に力を集めていく。この体に残っている全魔力をエンジェルロッドの先に込める。

 それは変身能力が保てず元のデニムジャケットやスカートに身をまとっている姿に戻ってしまうほどだ。

 ただ一つ、エンジェルロッドだけは残っているが……。

 俺と琴未ことみの力が集結したおかげか、エンジェルロッドの先には巨大な光の球が出来上がっていた。


「巨大だな……だが、それも無意味!」


「やってみなきゃ分からないだろ? せっかくだから……喰らってけ!!」


 俺自身も意識が朦朧としてくる。

 これは琴未ことみと同じ疲労感がつきまとっているからに違いない。だけど、ここで倒れるわけにはいかない。

 高校生の精神力……見せてやるよ!

 俺はエンジェルロッドを魔王に向ける。そして、大きく振りかざして薙ぎ払った。


「おらああああああ!!」


 ロッドの先に集まった巨大な光球はまっすぐ魔王へと向かっていく。

 避けることも可能だった。だが、魔王はそれを自ら受け止めたのだ。きっと、自分の力強さを誇張するための行動だったに違いない。

 それが墓穴を掘るってことも知らずに……な。


「こんなもの! 受け止めてくれるわ!」


「……これで、お……わりだ」


 エンジェルロッドを振ったので最後の力を使い果たしたのだろう。俺の体は無意識のうちに地面へと倒れていってしまう。

 だけど、まだ意識を失うには早すぎる。魔王の最後を見届けないと……安心はできない。

 魔王は沙里さりちゃんの小さな体を二倍にも三倍にも大きな光球を受け止めている。

 瀬戸際で食い止めているが、時間が経つにつれて沙里さりちゃんの体を包んでいく光。

 魔王の表情も次第に余裕が消えていく。


「ふ……ふざけるな! たった二人の魔力に……我が……!!」


「たった二人か……。そりゃ、琴未ことみの力がそこまで凄いってことだよ……!」


「何だと!? 沙里さりの記憶によれば琴未ことみの力なぞ……!!」


「……あいつは、ちょっとスランプだっただけだ。本気になれば……」


 口を開くのも億劫になってきた。

 抵抗しても目を閉じてしまう。もう、指を動かすことさえできない。

 巨大な光球は沙里さりちゃんの体を完全に包み込んだ。その中で、沙里さりちゃんの体から邪悪な光が湯気として出てきていた。


「ぐああああ……!! わ、我の意識がぁ……!!」


「俺たちの力をナメたこと……。敗因はそれだ、魔王」


「くそっ……! せっかく復活したというのに……がああああああっ!!」


 その断末魔の叫びの後、沙里さりちゃんの顔に変化が起こった。

 まるで憑き物が落ちたような顔つきを彼女がしたのだ。何が起こっていたのかを理解できないのか、沙里さりちゃんは周りを必死に見回して状況を把握しようとする。そして、自分が光の球に包まれていることを理解し、その下に琴未ことみが倒れていることに気づくのだった。


「……ほえ。私……何やってたの……? って、こ、琴未ことみちゃん!? どういうことなの!?」


「説明すると長くなるんだけど……魔王を浄化したよ、沙里さりちゃん」


「え? 魔王……?」


 キョトンとしている沙里さりちゃん。そりゃそうかもしれない。彼女は魔王が憑依されたあの時からの記憶がないのだろう。

 光は魔王の消滅を確認して飛散していく。すると、彼女はすかさず琴未ことみかけるけ寄るのだった。


琴未ことみちゃん! 大丈夫!?」


「えへへっ……あんまり大丈夫じゃないかも」


琴未ことみちゃん……。え? か、かける先生も?」


「ああ……。そっか」


 説明することが多すぎる。頼む。せめて、一眠りさせてからにしてくれ。

 そう思った俺は沙里さりちゃんの言葉を無視して目を閉じることにしたのだった。目を閉じてしまえばもう沙里さりちゃんの声も遠くなっていく。

 最後に聞いたのは、何かが崩れ落てくる音だった。

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