沙里ちゃんを救え! 琴未とミリカのタッグバトル!

34

琴未ことみちゃん……)


 沙里さりちゃん? 俺の目の前に見えるのは本当に沙里さりちゃんなのか?


(私を救えるのは琴未ことみちゃんしかいない……)


 琴未ことみ……それは多分俺のことではないだろう。この体の本当の持ち主。それが沙里さりちゃんを救う手がかりになるはずだ。


(でも……例え琴未ことみちゃんでも私を助けられないかもしれないの)


 何故?


(エンジェルロッドを使っても、魔王は浄化できない。それはさっきも見たよね?)


 ああ。


(私の予測だと、琴未ことみちゃんのフルパワーじゃあ、まだ魔王の力には敵わないわ)


 だったらどうすればいい!? 沙里さりちゃんを救う方法は、琴未ことみしかないんじゃないのか!?


(ねえ、もし……魔王を浄化できない時は、その時は私もろとも消滅させてほしいの)


 消滅!? そんなこと……出来るわけがない!


(魔王がこれ以上暴れると、本当に世界が終わってしまうわ。だからその前に……ね?)


「ダメだ沙里さりちゃん! ……? ゆ、夢……か」


 急に目を見開き、俺は天井を見つめていた。もう、夢の内容も思い出せない。

 衝撃的だったような気もすれば、何てこと無い夢だったような気もする。

 だけど、沙里さりちゃんが出てたってことは覚えてる。

 目覚めたのは、夢の中の沙里さりちゃんが『いつまで寝てるんだっ!』って喝を入れてくれたからなのかもしれない。

 とにかく、俺はベッドで寝ていたようだ。


「くっ……痛ったあ……」


 ベッドから起き上がろうとすると、体の節々が悲鳴を上げる。

 確か、沙里さりちゃんに憑依した魔王が俺を叩きのめしたんだっけか。

 意識を失う最後の方は記憶が曖昧になってしまっている。

 俺はそれほど強く殴られたのだろうか。


「う、動くだけで骨が軋んでるような気がする……!」


 体だけでなく頭もズキズキと痺れるように痛く、俺は頭を抑えながらベッドから降りて立ち上がった。

 ここは樹亜羅きあらちゃんの部屋だった。

 部屋に長い間いるせいか、最初の時のようなほのかに香っていたポプリの匂いはしない。

 そして、もう隠す必要がないのか姿見は再び日の目を見ていた。

 そっか。コバルダンから完全に開放されたってことなんだな。

 良かった。まずは樹亜羅きあらちゃんが救われて……。

 でも、まだ救わなきゃいけない子が二人いる。それを救うまでは、俺の戦いは終わらない。

 ……それにしても、こんなに体が傷んでいるのは琴未ことみと入れ替わってから初めてだ。


「今まで……沙里さりちゃんが治してくれてたってことか。本当に凄かったんだな。沙里さりちゃん……」


 最後に着ていたパジャマのままの服装の俺は、傷の状態みるために上着のボタンを一つずつ外していく。

 そして露わになる琴未ことみの体。そこには幾つもの痣が痛々しく体に刻み込まれていた。


「……くそっ。琴未ことみになんて言えばいいんだよ」


 この体の傷もそうだが、最大なのは沙里さりちゃんが魔王に憑依されてしまったということだ。

 アイツのことだ。それを知ってどんな行動を取るかも分からない。

 ……だが、この状況になってしまったことは事実であり、変えられない。

 正直に話し、できれば琴未ことみにも協力してもらうしかないだろう。


「よし、そうとなれば――」


 目的が決まれば行動は早い。

 目的に向かって突っ走り始めた俺は、いつしか傷の痛みなど忘れてしまっていた。


 俺は樹亜羅きあらちゃんの部屋にあった自分の普段着を手に取り、着替えを始める。

 パジャマのままで外出するわけにもいかないし、このキャミソールとデニムジャケット、そしてデニムスカートの方が動きやすいからな。

 本来なら、次の日に着るはずだった衣服だ。これを着て学校へと向かうはずだったが、今は別の場所へと行こうとする。

 崩れかかっていたポニーテールも結び直した俺は勢い良く樹亜羅きあらちゃんの部屋のドアを開けようとした。

 しかし、その奥には樹亜羅きあらちゃんが立っていたのだった。


「あ、樹亜羅きあらちゃん」


琴未ことみ! やっと起きてくれたんだね」


「ごめん樹亜羅きあらちゃん。俺、行かなきゃいけないんだ」


「待って琴未ことみ! まだ傷も癒えてないのに……!」


「でも、沙里さりちゃんを救う方法を見つけないと!」


「……琴未ことみ


 悲しそうな表情をする樹亜羅きあらちゃん。

 彼女は俺に抱きついてきた。


「えっ……き、樹亜羅きあらちゃん!?」


琴未ことみも……沙里さりみたいになっちゃうの? 沙里さりみたいに……悪い子になっちゃうの?」


「な、ならないよ! だから安心して!」


「私……沙里さりとは友だちなのに、何もできなかった。沙里さりは私のことを心配して守ってくれるって言ってくれてたのに……。私は何の声もかけられなかった……!」


樹亜羅きあらちゃん……」


「だから琴未ことみだけは守りたいの……! 沙里さりは守れなかった。だから琴未ことみだけは私の手で――」


「ありがと、樹亜羅きあらちゃん。でも……その気持ちだけで十分だよ」


琴未ことみ……!」


「私にしかできないことがあるの。それは多分、沙里さりちゃんを救えるはず。だから、行かせて?」


「…………」


 俺は努めて笑顔で樹亜羅きあらちゃんに笑いかける。

 琴未ことみの意思を尊重してくれたのだろう。友だちとして。

 だから樹亜羅きあらちゃんはすっと後ろに下がってくれたんだ。


「ありがとう樹亜羅きあらちゃん」


琴未ことみ……。沙里さりが憑依されてから、外はずっと曇りなの。海の上には変な建物まで出来てるし……」


「多分、そこに沙里さりちゃんがいるんだね」


「うん……沙里さりがそこに飛び立ったところまで見てたから……」


「分かった。その情報だけでも嬉しいよ、樹亜羅きあらちゃん!」


「……何もできないのに厚かましいかもしれない。けど言わせて。……頑張って琴未ことみ! 絶対に沙里さりを救い出して!!」


「もちろんだよ! 樹亜羅きあらちゃん」


 俺は樹亜羅きあらちゃんに別れを告げ、自分の家へと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る