33
「空、怖かった?」
「そ、そりゃ怖いわよ。
「ごめんね
「別に悪い意味で言ったんじゃないよ、
「えへへ、
「
二人の代わり映えしない会話。だけど、今はそれが心地良い。
ふと俺は空を見上げる。そこにはまだミリカが残っている。
ただ佇んでいるその姿は、こちらを羨ましそうにも見えた。
でも無視だ無視。アイツ、今日は攻撃してこなさそうだし、さっさと寝て明日に備えなきゃだしな。
「
「
「うん!
その瞬間、俺たちの周囲が異様な暗さに支配された。
ただ暗いというわけじゃない。何か緑色の気色悪い光に照らされているのだ。
「な、何!?」
「まさかコバルダンがまだ……!?」
「そんなことないよ
「じゃあ……コバルダンの言ってたことが……!!」
全てを言い終わらない内に、俺たちの地面に何やら呪文らしき文字が浮かび上がってきた。
それが何を記述しているか分からないが、俺たちを取り囲むような円状に記述されている何かに嫌な予感がしてくる。
コバルダンの言っていた魔王。それが目覚めるってことなのか!?
とりあえず、俺は
「
「分かったわ
「
呪文を唱えて空を飛ぼうとした
目を見開いて、ビクンと体を跳ねさせた
彼女はそのまま膝をついて手をだらんと地面の方に向けている。
口元もだらしなく開けて、目もとろんと上の空だ。
一体どうしたんだ
「
「…………」
「さ……
「
ちゃん付けを止めてしまうほど動揺している俺を差し置いて、ミリカが
彼女は緑色の呪文が描かれている地面に着地すると、すかさず
「ねぇ
「
「はっ……わ、分かった!」
まさか、
俺は心の中で彼女に礼を言って、ミリカの後を追うようにして地面に降り立とうとする。
しかし、その瞬間、緑色の地面の光が強くなった。
呪文が描かれている部分が光として浮かび上がり、辺りは異様な雰囲気を醸し出している。
その光は一点に集中していき、やがて大きな光の球へと変化した。しかし、深い緑色だから不気味さは拭えない。
そして、その緑色の光は一直線に向かっていった。
「や……止めて! こっちに来ないで!!」
ミリカが必死に弓矢で光を撃ち抜こうとしているが、当たらない。
直線で向かっている光なのに当たらないのは、彼女の精神も混乱しているからだろう。
俺もエンジェルロッドをブーメランに変形して加勢するが、光はブーメランを回避する。いや、俺の投げ方が下手くそなんだ……!
悔しくも、光はミリカの直前へと差し迫った。
「このっ……! あっ!!」
弓を振り回して光を薙ぎ払おうとするミリカ。しかし、光は彼女の攻撃をかわし、更に強い光を放った。
その衝撃で、ミリカは遠くへと吹き飛ばされて壁に激突する。彼女の姿が分かるほどめり込まれた壁が、その威力を物語っている。
「ぁ……ぅ……ぅぅ……」
「
光は
そして、彼女の小さな口を経由して彼女の中へと入っていった。
光が強いため、彼女の中へ入っても光は健在だった。
光が移動する度に、
その光が
「くっ……! なんて風だ!」
その嫌な風が終わった時、俺は
いや、
服装はパジャマ姿で変わらない。髪型だって少し乱れているけど普通だ。だけど、何かが違う。彼女の中に、異物が紛れ込んでいる。
ゆらりと不安定に立ち上がった
そして、ある言葉を吐いたのだった。
「ここが……我の新たな世界となるのか」
言葉を発した後、
まるで、久しぶりに声を出したから感動しているようだ。
「フッ……少女の姿というのが不服だが長生きできるという点で良しとするか」
「さ、
「コバルダンがこの少女に我の因子を打ち込み、我を目覚めさせた礼をしたいと思ったのだが……貴様が倒したのだったな」
「
「フフフ……なるほどな。そちらの方が望みか。……こほん。ねえ
突然元の口調に戻った
それでも、俺は嫌な予感しかしない。
むしろ、状況が悪化したのではないかと錯覚させられる。
そんな焦燥感が俺の心を焼き尽くしていた。
普段の
彼女の変貌ぶりに俺は金縛りにでもあったかのように動けない。
彼女は親指を使って俺の顎をクイッと上げた。
「
「そ……それは……」
「ブー、時間切れ。正解はね、魔王様と一心同体になれたから♪ 心が融合した今……私は魔王様の力で何でもできるの。世界を支配することも、
「さ……さり……ちゃん……本気……なのか……?」
「うん♪ 私、魔王様に体乗っ取られちゃったんだ♪」
「そ……そんな……!!」
俺は力なく地面に膝をつく。
コバルダン、いつ因子を打ち込んだんだ。もしかして、あの触手の怪物が
何で攻撃しなかったのか、それは因子を打ち込むことに真剣になってて攻撃の暇がなかったからか?
でも、
「んなこと……あるわけないじゃない……!!」
「え?」
「
横を見て、その言葉を出したのがミリカだと気づく。
彼女は真剣そのものの表情になって、
ボロボロの体だが、ミリカは一歩ずつ
「
「ミリカちゃん、だっけ? この口調は記憶が融合してるからなんだよ? ふふっ♪」
そう言うと、
それは彼女が絶対に取らない行動を取ってミリカを挑発しているようだった。
「ハァァ……ちょっとは大きいけど、やっぱり大人には負けるなー……あ、あなたも
「……
激情したミリカが弓を持って
刹那、今まで
そう、あれは魔王としての顔つきだ。
魔王は片手をかざす。すると、それだけで魔王の手のひらに無数の刃が出現し、ミリカに襲いかかっていくのだ。
「きゃあああああ!!」
頭に血が上って回避という選択肢を忘れたミリカが、刃をモロに受けてしまう。
衣服を破かれ、その上から赤い血が滴るミリカは、その痛みから気絶して地面に倒れてしまった。
……俺は何をやってるんだ! バカか。
「
「あれ? さすが
「
俺はエンジェルロッドの先端に光を集めていく。
これには浄化効果があるってさっき
だが
「知ってるよ? それが?」
「
「コバルダンと同じだって思われちゃった……。だから
「うるさい! だったら試してやる!! 効き目があっても後悔するなよ!」
エンジェルロッドを振り回して魔王へと当てる。
意外にも、魔王は抵抗をしなかった。魔王の胸の辺りにエンジェルロッドは当たる。後は浄化を待つだけで――。
「そんなの効かないよ。私、魔王だから」
「どうせハッタリだろ……? 時間が経てばいずれ――アガッ!!」
「効かないって。ちゃんとお勉強した方がいいよ
魔王は苦しむそぶりさえ見せず、エンジェルロッドを片手で掴み取った。
そして、もう片方の手で拳を作り、俺の腹部を殴りつけたのだった。
俺の体は無残にも地面に叩きつけられる。そして、ミリカの時と同じように地面には大きな人形の穴が出来上がっていた。
「ふふっ……どう? 今まで全然力になれなかった私が
「ガハッ! グッ!!」
魔王は両手で拳を作り上げ、地面にめり込んでいる俺に向かってその拳を振り上げる。
そして、俺の体に次々とパンチをしていく。
その一撃が重く、俺の意識が一瞬にして吹っ飛ぶ。だが、次の衝撃によって俺の意識は無理やりに目覚めるのだ。
それの繰り返しが延々と行われていく。
もう、意識があるのかないのかさえはっきりしなくなっていく俺。
痛すぎて痛みが感じないというおかしな状態になっている俺の体を、魔王は片手で持ち上げた。
「……どうだ?
「覚悟しとけ……! ……絶対に……許さな――」
俺のなけなしの言葉を聞き終わらないうちに、魔王は俺の体を再び地面へと叩きつけた。
俺が倒れたら、
ここで倒れるわけにはいかないのに……。
そこで、俺の意識は完全に潰えたのだった……。
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