31

 夜中に浮いている俺の姿。出来るだけ他人に見られないようにしないといけないが、コバルダンを探す必要もある。

 ここはすぐに見つけて始末する方を優先するべきだろう。

 俺は宙に浮きながら前へと進んでいく。


「どこだ……どこにいる……!?」


「あら、私を見つけるなんて結構やるのね。琴未ことみ


「――っ!」


 声のした方向に振り向いたのが功を奏した。

 俺の目前には弓矢が接近していたのだ。

 魔法少女の動体視力に助けられ、俺は間一髪で弓矢を回避する。

 しかし、そのせいで気が乱れてしまい、俺は地面へと落ちていくのだった。


「いってぇー!!」


 尻もちをついて地面に着地する俺。

 ヒリヒリするお尻を擦りながら、俺は弓矢を飛ばした人物を睨みつける。

 だが、その人物は俺の想像を超える存在だった。

 俺の真上にいたのは、他でもないミリカだったのだ。


「ミリカ……? どうして……」


「私はあの程度で倒れない。琴未ことみ、あなたの気持ちを叩き潰すまでは」


「違う! 今は沙里さりちゃんと一緒にいるはずじゃないのか!?」


沙里さりちゃん? どうして彼女がここで出てくるの?」


「どうしてって……沙里さりちゃんが君を守ってたじゃないか!」


「……っ! 私は守られるんじゃない。ふざけないで!」


 もしかして、コバルダンの方が一枚上手だったというのか!?

 俺が外に出ている隙に沙里さりちゃんを倒し、樹亜羅きあらちゃんをミリカに覚醒させたというのか!?

 ……く、沙里さりちゃんが戦えないのは分かっていたけど、こんな作戦を立てるなんて!

 何が『樹亜羅きあらちゃんを守ってみせる』だ! 結局守れないんじゃかっこ悪いじゃないか!


 俺は自分の無能さに腹が立ちながらも、樹亜羅きあらちゃんであるミリカを見つめた。

 彼女は友達だということも忘れて、琴未ことみを嘲笑しながら弓を構えている。


「ミリカ……気づかないのか? 私は琴未ことみだよ! あなたの友達の琴未ことみなんだよ!」


「何を言っているの? ……私には関係ないわ」


「関係あるよ! 樹亜羅きあらちゃんは琴未ことみの友達なんだ! それを救うために俺は戦う……! 沙里さりちゃんや琴未ことみが平和な日常を送れるようにな!」


「そういうところが嫌いなのよ……琴未ことみ!!」


「ミリカに変身はさせちゃったけど、守る気持ちは消えはしない。絶対に説得してみせるから……!!」


 俺の言葉に逆上したミリカは次々と弓矢を放っていく。

 俺はこの間と同じく弓矢を見て回避していく。

 今までの俺だと、飛び道具がないから接近するしかなかった。

 だが、今回は違う。特訓の成果があるんだ。

 俺は手に持っているエンジェルロッドを二つに分解する。

 そして、ちょうど『く』の字になるように二つをくっつける。

 そう、ブーメランの完成だ。


「何!? その形は!」


「こいつをくらいなミリカ! そして目覚めるんだ!!」


 最後の弓矢を回避した俺は勢い良くブーメランをミリカに投げつける。

 ブーメランは横に回転しながら異常なスピードで敵に近づいていく。

 意外だが、これはミリカが放った弓矢よりも早かった。


「そんな――あっ!」


 弓を構えたミリカだが、それは遅すぎた。

 彼女は胸にブーメランを直撃させてしまい、そのまま力なく真下の地面へと落下していった。

 ドサッと体重の軽い音がして、ミリカは地面と接触する。

 強く背中を打ったのだろう。彼女はうめき声を上げながらよろよろと立ち上がった。

 依然として彼女の目には復讐に満ち溢れた憎しみが感じ取れる。

 それは表情も同じく、眉間にしわを寄せているほどだ。


「バカね……琴未ことみは」


「バカ? どういうことだ!」


「私は樹亜羅きあらちゃんじゃ……ない……!」


「それは君が操られているだけで――」


 俺が反論をしている時に、それは起こった。

 恐らく樹亜羅きあらちゃんと沙里さりちゃんがいる方向で、大きな叫び声が響き渡ったのだ。

 無意識にその方向に体を向けた俺。しかし何が起こったのか理解できずに驚くだけだった。


「な、何なんだ!?」


「……琴未ことみのバカ……」


 言うが早いか、ミリカは胸を抑えながら立ち上がり、空へと飛び立っていく。

 彼女の向かう先はさっき叫び声が聞こえた方向だ。

 彼女はなぜ樹亜羅きあらちゃんたちの元へ向かうんだ。やっぱり、樹亜羅きあらちゃんとしての記憶が薄っすらと残っているのか……?

 いや、それを考えている暇はない。今、俺がやらなきゃいけないこと。

 それは沙里さりちゃんと樹亜羅きあらちゃんを助けることだ!

 俺も跳躍し、空を飛んでミリカを追いかけていった。

 すぐに樹亜羅きあらちゃんの家を発見し、俺は出ていった窓から顔を出して中の様子を伺った。

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