25

 学校が終わって、俺と沙里さりちゃんは樹亜羅きあらちゃんと一緒に彼女の家へと向かう。

琴未ことみ』は何回か樹亜羅きあらちゃんの家を見たことがあるかもしれないが、俺としては初めての経験となる。

 一体彼女はどんな家に住んでいるというのだろうか。

 一軒家? アパート? マンション? 借家?

 樹亜羅きあらちゃんはとても高級感あふれる衣服を着ているから、家もそうとう凄いのだろう。

 もしかして、どこかのお姫様のような豪邸に住んでいる可能性も捨てきれない。

 何で普通の小学校に通っているのかという疑問が浮かび上がってくるがな。

 そんなマンガ・アニメのような展開があるのだろうか。

 ちょっと期待してしまう俺がいる。


琴未ことみちゃん、琴未ことみちゃん)


「へっ?」


 そんな妄想全開でいる俺に、沙里さりちゃんがそれとなく話しかけた。

 思わず先導している樹亜羅きあらちゃんを見るが、彼女は沙里さりちゃんと楽しく会話をしていてまだ気がついていないようだ。

 またこの間のひそひそ話が始まるのだろう。

 俺は沙里さりちゃんと会話しようと彼女の姿を探した……。ってどういうことだよおい!!

 沙里さりちゃんは俺の目の前で樹亜羅きあらちゃんとお話してるじゃねーか!


(ねえ、今話すことできる?)


「え? え?」


 一瞬腹話術なのかと彼女を疑ったが、全然そんなことない。

 沙里さりちゃんは関係なく口を動かし、そもそも腹話術なら樹亜羅きあらちゃんにも聞こえるだろう。


(もしもーし! 琴未ことみちゃーん!!)


「ど、どうすればいいんだ……!?」


(念じて、話すの)


 沙里さりちゃんの必要最低限のアドバイスに基づき、俺は心を込め始めた。

 念話。確かに魔法少女ならその程度の技術わけない。

 だが、俺はどうだ?

 出来るのか、俺に?

 うーん……。沙里さりちゃん聞こえるー?

 さーりーちゃーん!? もっしもーし!!

 ……ダメか? いや、無心になればいいのか?

 …………。

 ………。

 ……。

 …。

 沙里さりちゃーん。聞こえてるよー。


(やっと通じた。遅いよ琴未ことみちゃん)


 アハハ。ごめんごめん! ちょっと念話の使い方忘れちゃって☆


(もー、琴未ことみちゃんらしいといえばらしいけど……)


 で、何かあったの?


樹亜羅きあらちゃんが怯えてる原因だけど……。またコバルダンが絡んでるのかな?)


 あー。あのウザイやつ? 毎回あと一歩ってところで逃げられるからストレス溜まってんのよねー。

 それに、沙里さりちゃんの予測が正しいなら樹亜羅きあらちゃんにまで迷惑かけてるんだから許せないよ!


(うん。今日で確実に倒そう! 多分、怪物を指揮しているのはコバルダンだから、倒したらきっと怪物が出現する数も少なくなるよ!)


 よーし。待ってなさいよコバルダン! かわいい琴未ことみちゃんがけちょんけちょんにしてやるんだからー!


(これ以上念話すると疲れるし、ここで終わるね)


 …。

 ……。

 ………。

 …………。

 ……ハッ!?

 俺、今何喋ってたんだ!?

 念話しなきゃならないと思って無心で唸ってたのが、いつの間にか時が進んでいた。

 無意識だと、この体が琴未ことみとして行動してくれるってことなのか?

 でも、俺の記憶には残らない……。

 念話、あまりしない方がいいかもしれない。

 念話をするということは秘密の話を沙里さりちゃんと共有するってことだし、それを知らないとなると沙里さりちゃんは怪しむし記憶障害を疑われてしまう。

 いくら琴未ことみがいたずら好きなやつといっても、真剣な場面でふざけるような子どもじゃない。

 そう言えば、こういうことは何度かあった。

 最初は無意識に沙里さりちゃんの行動を不思議に思ったことだ。

 あの時は念じて記憶を読もうとしても出来なかった。

 次にミリカと戦って重症を負って沙里さりちゃんに助けを求めた時だ。

 あれは言葉が頭に浮かんで自然と琴未ことみとして振る舞うことができた。つまり、意識がもうろうとしたからの無意識だ。

 ……とりあえず覚えておこう。無意識になれば、俺は琴未ことみになることができる。

 でも、同時に恐れを抱いてしまう。

 俺の中で『かける』という存在が消え去り、『琴未ことみ』として生まれ変わっていく感覚。

 俺はその恐怖に打ち勝つことができるのか……?

 ……いや、やってみるさ。琴未ことみ沙里さりちゃんを救うために。

 見知らぬ小学生でもここまではしなかっただろうが、琴未ことみ沙里さりちゃんとなると話は別だ。

 なんたって、あの二人は教え子なんだからな。……家庭教師として、だが。

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