18
「――行くわ!」
ミリカは弓を使って矢を放つ。
さっきは一瞬で地面を貫いていたかと思っていた矢だったが、今は違っていた。
魔法少女となったことで動体視力が上昇したのか、矢の軌跡は見切ることができていた。
幸運だと思いつつ、俺は矢を回避していく。
「これならいけるかもしれない……!」
独り言を言うのははばかられるが、動いて考えているのだから勘弁して欲しい。
矢の軌道が分かれば話は別だ。
かわして、ミリカに近づいてエンジェルロッドを叩き込む。
これが俺の作戦だ。
ミリカが放ってくる弓矢を、
そして、その行動を応酬しているうちに、俺はミリカの眼前にまで迫ることができていた。
今までで一番遅い弓矢を顔を少し動かすことで回避し、ミリカに向かってエンジェルロッドを掲げる。
「ミリカ! エンジェルロッドをくらえ!」
「――だから、才能がないのよ」
「なっ――!」
その瞬間、俺の背中に激痛が走った。
エンジェルロッドを落としそうになるが、ここで武器を落としたら完全に負ける。
相変わらず、ミリカは不敵な笑みを絶やさない。
こんなに近くで俺が攻撃しようしても、だ。
「私の弓矢が速攻タイプしかないと思った? 残念、遅行タイプもあるのよ。そしてそれは相手を追跡する」
「……っ!」
「さ、これで終わりね」
ミリカは弓を構えて、弦を俺に向かって振り下ろす。
日の光で怪しく煌めく弦に斬られれば、ただじゃ済まないだろう。
だが、俺にも負けられない理由がある。
「な……なんですって!?」
ミリカの予想を裏切るように、俺は自ら弦に体を差し出した。
つまり、俺の方からミリカに近づいたのだ。
腹部と弦が接触し、俺の体は切り刻まれる。
弦は魔法で作られたドレスでさえ斬ってしまうようで、俺の腹部に激痛が走った。
だが、これで俺はミリカの体に抱きつくことができたというわけだ。
そして、絶対に離さない。
「才能がないなんて……お前が勝手に決めるなよ!」
「あなたに才能はないの! 今の戦いでもそれは明らかじゃない!」
「……
「……っ!」
そう。それなら俺が行動して示せばいい。
魔力がない俺がどんなに強くなれるのかを、この体で。
それが……アイツに勉強を教えている俺の役目だと思った。
だから、俺は目の前の悪意ある才能信者に向かって、啖呵を切ったのだった。
「でもな、俺はそんな
片手に持ったエンジェルロッドに力を溜めることで、矛先が光る。
俺はそのエンジェルロッドをミリカの胸部めがけてまっすぐ突いた。
「がっ!」
ミリカは弓矢を落として後ろへと吹っ飛んでいった。
彼女は近くの土手へと背中を打ち付け、その衝撃で砂埃が上がった。
ミリカと距離が離れてしまった俺は、彼女に近づくために歩き出す。
さっき傷ついてしまった腹部を手で抑えながら、俺はよろめきながら歩く。
土手に叩きつけられたミリカも重症のようだった。
彼女は頭から血を流し、その場に張り付けにされているように固まっている。
痛みで動けないのだろうか。
そんな彼女の最期の抵抗なのか、ただ俺を睨みつけていた。
「うっ……不覚だわ……
「お前が誰だかは知らない。……だけど、
「勝手に言ってなさい……この借りは……必ず返してやるんだから……!」
ミリカはそう言うとよろめきながらも立ち上がった。
まさか、まだ戦いを挑むつもりなのか……!?
そう思った俺は思わず身構えたが、彼女のダメージも深刻なものらしい。
彼女は俺を口惜しく睨みつけながら、危なげな足取りでこの場から去っていった。
そんな彼女に向かって、俺は決意を新たにする。
「今日はご挨拶だ。今度俺を襲ってきた時は容赦しない……! 絶対に倒してやる……!!」
こんな格好いいことを言っているが、本心はもう体力がないに近かった。
歩くだけで精一杯。
ミリカに止めをさす余裕もない。
といっても、まだ幼い体つきのミリカに止めを刺す気にもなれないというのもあるが。
「……っ。俺も、か……」
ミリカばかり気にしていたが、俺もそろそろヤバイかもしれない。
目が霞んできて、意識がもうろうとしてきている。
魔法のドレスでも防げなかった弦の斬撃は、確実に俺の腹部にダメージを与えている。
その証拠に、腹部に手を当てていたのを見てみると、その手は真っ赤に染められていた。
腹部が傷ついている。
それを認識しただけで、痛みは数十倍にまで膨れ上がった。
「くっ……!」
最後の気力を振り絞って、俺は
いつも
『どうしたの?
「アハハ……ちょっと、こっちに来てくれないかな……」
『こっち? ごめんね
「場所……」
何か目印になりそうな物を見つけるために辺りを見渡す俺。
だが、ここが河川敷だということぐらいしか分からない。
夕日が見え隠れして、情景的には絵になるが……。
そうだ。
「私の……お気に入りの……場所なんだけど……」
『あの河川敷かな?
俺の息切れ気味の会話に
彼女は当然の事のように俺の体調を心配している。
もう、頭で考えることができない俺だが、自然と脳内で言うべき言葉が浮かんできていた。
俺はそれをただ声に乗せる。
「えっへへ……ごめん……ヘマしちゃって……。テヘペロ……って感じかな……ハハ」
『――!? 待ってて! 今行くよ!!』
声色だけで分かる、
それが見られないのは残念だけど、しょうがない。
俺は通話が切れた瞬間、意識を失って河川敷の草むらに倒れてしまったのだった。
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