16
数十分の沈黙の後、俺はようやく自分の体と対面することができた。
俺の体になっている
口調もクラスメートといる時は俺の言葉遣いそのままになっている。
アイツ、本当に魔法で記憶が読めるみたいだな……。
学生カバンを脇に抱えながら、
「やあ
「……ちゃんとやってるか見に来たんだよ」
「そっかそっか。可愛いやつめ」
そう言いながら、
くっ、嫌悪感しかない。
同時に敗北感も味わいながら、俺は無理くり
こんなところでそんな顔をしたら、俺が変質者と思われちまう。
それに、魔法少女の話題をこんな場所でするわけにもいかない。
頭のおかしい人間と認定されないため、場所を変えなければ……。
「……さて、どうする?」
「……ここだと話しにくい。どっか人目につきにくい場所に行こう」
まるでアイツが人気のない場所を知っているかのように。
かといって、俺が知っているわけじゃない。
ここは
俺は
「おい、
「何だ?」
「ここのどこが人目につきにくい場所なんだ?」
「……いいじゃん。ここが私のお気に入りの場所なんだからさ。
ようやく、
うう、女の子が男の子のような口調で話しても元気のあるボーイッシュとして見られるけど、男の子が女の子のような口調だと気持ち悪い……。
しかも、それを喋っているのが俺の体なんだから、キモさ倍増である。
俺は心の中でため息をつきつつ、
「ちゃんと高校には行ってるのか?」
「そりゃあね。だって今は
「変なことしてないだろうなあ……!?」
「してないよ。記憶が読めるし、問題ないって」
「そうか……」
コイツは面白いと思ったら即実行に移すタイプだと思っていたからだ。
一応、約束は守ってくれているようで安心する。
「それと、家庭教師のことだがな」
「うん。行かないほうがいいのかな?」
「そうしてくれ……」
想像する。
俺となった
間違いなく
そうしたら入れ替わっているのがバレる。
それに、いくら俺の記憶が読めるからといって人に勉強を教えるのは並大抵の苦労では言い表せない。
これはいくら
俺は頭を抱えながら、
「ま、私も面倒くさいしラッキーだね!
「勘弁してくれ……」
「そうだ! ねえ、
「元気? ……って、元気だぞ。ってかお前な、ちゃんと服を洗濯しろよ。大変だったんだぞ」
「アハハ、ごめん。ついうっかり」
俺の体で容赦ないテヘペロをかます
殺意が湧く。
だが、ここで怒ってもしょうがない。
俺は今日の目的を話すことにしたのだった。
「なあ……お前、自分以外の魔法少女を見たことあるか?」
「え? あるよ普通に」
もしかして、
「ホントか!? 実は、お前以外の魔法少女が出てきたんだ」
「ええー? ほんとー?」
しかし、
彼女は……肉体は俺の体だが、ここは彼女としておこう。
彼女は、俺が言い放った事実を嘲笑うかのように、口元に手を当てて引き笑いをしていた。
だったら、何で最初の質問は肯定したんだ?
俺への嫌がらせか!?
「確かに、魔法少女は見たことあるよ。だって、私の世界は魔法少女がたくさんいるんだからね」
「そうなのか? だったら、お前以外の魔法少女がこの世界に来たんじゃないのか?」
「いや、それは無いねえ。だって、私は特別だったからね」
「……へ?」
「……っと、それは今は関係ないか。とにかく、私以外の魔法少女はいないよ」
あっさりと言い捨てる
だったら、昨日の三時に会ったのは魔法少女じゃないのか?
……また
そう思った俺は、とりあえず名前だけでもと言葉にした。
これで何らかの動揺を見せれば、何か知ってることになる。
「おかしいなあ。名前はミリカって言ってたんだが、
「ミリカ……フフン、いい名前ね」
「あのな、お前そんなこと言ってる場合かよ。ミリカって奴はな、お前に魔法少女の資格がないって言ってたんだぞ」
「いいんじゃない? 資格がなくても」
「……え?」
再びあっさりととんでもないことを吐き捨てる
資格がなくてもいい……?
何を言ってるんだコイツは。
確か、
つまり、
「そーだ。
「な、何だって?」
「それを言って
提案する
表情の裏に隠されている感情は読み取れない。
しかし、彼女は俺に嫌なことを押し付けるつもりなのだろう。
最初からそのつもりなのか、もしくは今思いついたことなのか。
どちらにしても、彼女はとんでもないことをしでかしそうになっている。
それは……その言葉は自分で言わなきゃ意味がないんだ。
「……違う。今すぐ元に戻せ」
「それじゃ約束が違うよー」
「
「今は
「体はな。でも、心はまったくの別人だ。きっと
「……どういうこと?」
「嫌なことは嫌って言わないと、そのうち自分が潰れていくぞ」
すると、
自分の作戦が通らなかったことがよほど不満だったのか、彼女はぷいっとそっぽを向いてしまった。
だが、こんなところで折れる俺じゃない。
それじゃ意味が無い。逃げてるんだ。
「
「……
「え?」
「才能がない私に無理やり特訓させるんだもん。どうせ、私なんて才能のない魔法少女なんだから……。早く元の世界に帰りたいのに」
「
お前、そんなこと思ってたのか。
俺は彼女の意外なる一面を見た。
魔法少女としての才能が、何を意味しているのか俺には分からない。
しかし、彼女は
……才能なんて、誰が決めるんだろうな。
そんな二文字で自分の人生を決めるような人間に、
だから、俺は立ち上がって
「そんなこと言うなよ。
「ないよ! どうせ、私なんて……!!」
俺の強い口調が
彼女が立ち上がることで、俺は自然と彼女を見上げる体勢になってしまう。
そして、男子高生が冷淡に見下ろす光景で、俺の体は自然と萎縮してしまう。
それが
「
「あ!
「どうせ私のことなんて誰も……誰も……!!」
彼女は河川敷より駈け出し、そして奥へと消えていってしまった。
今の俺は女子小学生なため、走って追いつけるわけがない。
もどかしさを覚えながら、俺は黙って彼女を見送るしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます