13

「――あなたには、魔法少女の資格がない」


「はい?」


「もう一度言ってほしい? 魔法少女の資格がないって言ってるの」


「あ……あのー……」


 沙里さりちゃんをお嬢様抱っこしながら彼女が言った言葉は、実に辛辣なものだった。

 眉毛を逆八の字にして怒っている彼女は、俺にそう言った後で更に目を細めて睨みつけてきた。

 彼女の怒りの原因が分からず、俺は困惑するしかない。

 それは沙里さりちゃんも同じようで、抱っこされているのもあってか相当慌てていた。


「ほら、沙里さりちゃんもこんなになっている。あなたのせいよ」


「いや、それはキミが沙里さりちゃんを抱っこしてるからじゃないのか?」


「どうして?」


「どうしてって……恥ずかしいんじゃない?」


「……なるほど」


 真剣な眼差しのまま、少女は沙里さりちゃんを地面に下ろす。

 キッチリしてそうな風貌なのに、彼女はどこか間が抜けている。

 なんともシュールな光景だが、笑ってしまったら彼女に殺されそうだ。

 堪えるために、逆に俺は彼女を睨みつけていた。


 地面に足がついた沙里さりちゃんは一応少女にお礼を言ってから、俺の元へと駈け出した。

 沙里さりちゃんが困惑しているのは、今も変わらない。

 彼女は意を決して、口を開いた。


「あの……あなたは誰?」


 俺は驚いた。

 なんと沙里さりちゃんでさえ少女の正体を知らないというのだ。

 意外だと思った。

 沙里さりちゃんや琴未ことみを助ける人物なら、彼女らと親しいのだと思ってた。

 そして、俺を睨んでいるのはまーた琴未ことみがやらかしたのだろうと思ってたからだ。


 少女は沙里さりちゃんの言葉にただ沈黙を貫いている。

 妙に目が泳いでいるように見えるのは俺の気のせいなのだろうか。

 両者とも喋らず時間だけがゆったりと過ぎていく。





 うん。

 そろそろ話を入れた方がいいかなと思った俺は口を開けようとした。

 しかし、タイミングが悪かった。

 少女も一緒に口を開いたのだった。


 口ごもってしまう俺と少女。

 俺は手でジェスチャーして、少女が先に言うように仕向ける。

 ムッとさせながら、少女は咳を一つした後に改めて言葉を喋った。


「……私はミリカ」


「ミリカ? やっぱり知らない名前だ……」


 ミリカと言った彼女の名前を聞いても、沙里さりちゃんは困惑した表情を浮かべて首を横に振るだけだった。

 そして、沙里さりちゃんは更に情報を聞き出そうと前に乗り出した。


「ねえ、私と琴未ことみちゃんを助けてくれたのは味方だから……?」


「……少なくとも、琴未ことみとは敵同士ね」


「え?」


 ミリカは俺に向かって人差し指を突き出した。

 名指しで非難されるなんて、琴未ことみは一体彼女に何をやったんだよ。

 てか、沙里さりちゃんが知らないのに琴未ことみが知ってるのか? この子のこと。

 色んな考えがぐるぐると頭の中を駆け巡る。


琴未ことみ、諦めてランダミット王国に帰りなさい」


「ら……何だって?」


「……くっ」


琴未ことみちゃーん……」


 沙里さりちゃんはタレ目になってため息を吐いている。

 な、何だ。俺が何かやらかしたのか……って、あ。

 そうだった。

 ら何とか王国は、確か琴未ことみ沙里さりちゃんの故郷だったはずだ。

 あっちゃー……マズかったか?


「……とにかく、今度会った時は容赦しないから。そのつもりで」


 そう言い残すと、ミリカと名乗った少女は俺たちの前から消え去ったのだった。

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