12
大口を開けて俺の状態を嘲笑っているその男。
体格はいい大人といった感じか。
服はあちこちに宝石の意向を示した、金持ちの嫌なところ全開だ。
顔つきはイケメンだが、これでは女の子にモテないだろうな。
……これは俺の願望だ。頼むからモテないでくれ。
「フフフ……ハーッハッハッハ!! 無様だな魔法少女よ!」
「お前は……誰だ!!」
すると、男は驚いたように目を見開く。
そして、余裕そうな態度を崩してしまった。
「な、何だと!? 今まで何度会ったと思っているんだ!」
「うるさい。知らないったら知らないんだよ!」
「……クックックッ。そうやってこのオレを油断させる作戦か。面白い……! 面白いぞ魔法少女よ!!」
「いや、本当に知らないんだが……って当たり前か」
「何を一人で納得しているのだ魔法少女よ!」
「うるさい! こっちの事情だよ!」
「ハーッハッハッハ!! 触手に縛られてついに魔法少女もおかしくなってしまったようだなぁ!!」
「その高笑いは相変わらずなのね……コバルダン!」
なるほど、いけ好かないアイツの名前はコバルダンというのか。
ありがとう
でも、そんな強気でも状況が悪いよ。
俺と
コバルダンと呼ばれた男は舌なめずりをしながら、俺と
間違いなく、どっかのエロマンガの悪男のそれだ。
どちらを選ぼうか、コバルダンは迷っている。
だが、彼は指を指した……よりによって俺に。
いや、
「よし! 長年の屈辱を晴らす時だ! まずはお前から死んでもらおうか!」
そう言うと、コバルダンは剣身が青いロングソードを手に持った。
青い煌めきが少しだけ格好いいと思ったが、今から俺の体がその剣に切断されてしまうことを考えるとゾッとする。
彼は空中に浮かびながらゆっくりと俺の近くへと移動してくる。
こっちに来ないで欲しいが、
「クックックッ……! ようやく邪魔者を始末することができる……!! これで魔王様もお喜びになる!」
「ま、魔王!? そんなのもいるのかよ!」
「御託はあの世で言うんだな魔法少女! 死ねぇ!!」
「
「クッ!」
……いや、今の性別を利用すればいけるか!?
一か八か、やってみるか!
「コ、コバルダンさん……どーしても私を殺しちゃうの?」
「コバルダンさん!?」
恐らく、
俺はなるべく可愛さ全開にさせるために、目に涙を溜める。
何故だろうか。悲しいことを考えると普段よりも涙の排出量が多い気がする。
これは体が
まあ、今はそんなことはどうでもいい。この状況を切り抜けるのが先だ。
目をウルウルにさせて、まるで土砂降りの天気、ダンボールの中に入っている子犬のような可愛さを醸し出そうと必死になる。
これにはさすがのコバルダンも硬直していた。
「な、何の真似だ!」
「……だって、私を殺しちゃったら……何のメリットもないよ?」
「メリットだと!? お前という邪魔者がいなくなるメリットがある!」
「そ、そりゃごもっともで……。って違うよ! ほーら、ヒントは『薄い本』♪」
コバルダンはあらぬ事を考えているようで、顔を赤面させる。
何を考えているのだろうかこのエロ男は。
そしてコイツ、思ってた以上に
「……な、何!? このオレがそんなことを!?」
「そーよ。ここで私が血みどろに殺されたら薄い本展開もできなくなっちゃうぞ♪」
「いや、
「な! た、確かに……」
「そういうわけだ。お前を殺すのには大いなるメリットが潜んでいる! だから早く死ねぇー!!」
「ちっくしょう! ここまでか――」
くそ、色仕掛けもダメだったか……。
今の俺は、ただ目をつむって剣の痛みから早く開放されるよう願うことしかできない。
「ガァァ!?」
しかし、コバルダンのおかしな声の後で体の痛みが走ることはなかった。
何が起こったのか確かめるためにそーっと目を開ける。
すると、そこにはもう一人の来客がいた。
背丈は
小学生でセーラー服ってけっこう良いところの学校しか着ないだろうと思うんだが……。
いや、あれが彼女の魔法少女としての姿なのか?
俺を助けてくれた彼女は、自分が宙に浮いているのにしたり顔だ。
これが魔法少女でなくて何なのだろうか。
「た、助かった……」
しかし、鋭い目が俺とコバルダンを射抜く。
中分けされた前髪から見えるその目は、まるで俺を責め立てているようだ。
原因は何だ? 俺が弱いからか?
とにかく、彼女がボブカットだったということも相成って、かなり負けん気の強そうな印象が見受けられる。
また、片手に弓を持っており、これが彼女の武器のようだ。
「クソっ……! 抜けねぇ……!!」
一方のコバルダンは右腕に光の矢が刺さっており、引き抜こうと必死に力を込めている。
それは顔に血管が浮かぶくらいことから分かる。
どんなに深く刺さってるんだよ……。
てか、コバルダンに謎の魔法少女とか何なんだよ……。
頭がついていかないよ……。
色々とツッコミを入れたくなるが、今はこの状況から抜け出すことを優先しなければ。
だが、今の俺は化物のせいで身動きが取れない。
「……っ!」
その時、少女が俺に接近してくる。
もし、俺を攻撃してきたらどうしようと思ったが、彼女は意外と親切だった。
俺を捕縛している化物を手首から弓の弦で切り落としたのだ。
彼女は、その勢いで
俺の時とは違って、
掴んでいた敵の意識が消え去ったことで、俺は簡単に手から抜け出すことに成功。
地面に着地し、即座にエンジェルロッドを構えた。
「コイツで終わりだ! 化物!」
エンジェルロッドの先に光を集め、俺は化物の腹部にエンジェルロッドをぶち当てる。
すると最初の戦闘時のように、化物は爆発した後、光となって消え去った。
後はコバルダンとかいうフザけたヤツだけだ。
俺はエンジェルロッドの先をコバルダンの方へと向けて威嚇していた。
「……ってえ! く、状況はこっちが不利か!」
ようやく矢を引き抜けたが、コバルダンは相変わらず苦痛の表情を浮かべている。
そりゃそうだろう。
矢を引き抜いても、痛いものは痛いもんなあ。
部下? の化物を倒されたことに気がついたコバルダンは、俺と謎の少女を見比べてこれまた苦痛の表情を浮かべる。
痛みと悔しみ、両方の顔を携えながら、コバルダンは空高く舞い上がった。
「こ、今回は見逃してやる! また会おう!! ハーッハッハッハ!!」
威勢だけはいいようで、コバルダンは高笑いをして空の彼方へと消え去ってしまった。
あの笑い声が人をバカにしているようでムカつく。
今度出てきた時は確実に仕留めてやる。
「逃げやがったな……アイツ……」
逃げたコバルダンにムッときながらも、俺はすぐに感情を謎の少女へと向けることになる。
誰か分からないけど助けてくれたし、お礼を言わなくちゃな。
そう思って、俺は少女に顔を向けた。
「あの、助かったよ。ありがと――」
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