敵か? 味方か? ってか誰だお前ら!

11

 今日も、俺は魔法少女となって戦いを挑む。

 それも数日前は単なる普通の高校生だったのに、いつのまにやら小学生と入れ替わって魔法少女として活動しているとは……。

 しかし、今の時間帯に俺は文句を言いたい。

 現在、深夜三時。

 小学生はとっくに寝てる時間だろう。

 何で魔法少女だからってこんな時間に現れた怪物を退治しなきゃならんのか……。

 ああ、こういうことが嫌だったんだろうな。

 俺はどうして琴未ことみがあんなに魔法少女としての生活が嫌がっていたのか、少し分かったような気がする。

 だけど、文句を言ってる場合じゃない。

 目の前にいる怪物は恐ろしい相手というのは昼も夜も深夜も変わらない。

 それに、俺はまだ魔法少女としては新米。

 下手に油断すると一気にやられてしまうだろう。


 沙里さりちゃんはこの間と同じく光の壁を作り出した後、俺と目を合わせた。

 彼女は普段と変わらず目をしっかりと開けて覚醒している。

 魔法少女としての仕事に真剣に打ち込んでいる証拠だ。

 彼女がいなければ、琴未ことみを含めて俺も無理して戦わないだろう。

 化物を倒した数も少なくなっていたかもしれない。


琴未ことみちゃん! 変身だよ!」


 沙里さりちゃんが横で、俺に合図を送る。


 俺は沙里さりちゃんに頷いて、恥ずかしき台詞を言い放った。

 その瞬間、光の球が俺を包み込む。

 その中で着替えが始まるのだ。

 いつの間にか裸になって、頭上から落ちてくるフリフリのドレスを身に被る。

 今回からは逃げないようにする。

 ドレスを着るのは恥ずかしいが、無駄に時間を消費するのももったいないしな。


「魔法少女コトミ、参上!」


 俺はエンジェルロッドを振り回しながら怪物に向かって啖呵を切る。

 怪物は俺が最初に戦った相手、触手の化物と同じだった。

 同じ種類が量産されているらしい。

 だが、同じ敵ならば対処も簡単なはずだ。

 俺はエンジェルロッドに力を込めて、先端を光らせる。

 これはこの前怪物を倒した時と同じ光だ。


「行くぜ……化物!」


 俺の言葉の後、沙里さりちゃんが壁を解除してくれる。

 俺はそのまま怪物へと走っていった。


「いっけええええ!」


 怪物に近づいた瞬間、俺はロッドを薙ぎ払って怪物の胴体に向かって先端を突き刺そうとした。

 しかし、怪物は胴体を曲げさせ始めたのだ。

 ぐにゃりと曲がった怪物の胴体は、まるでくの字のようになってエンジェルロッドを完全に回避する。


「なっ!」


 勢い余った俺は簡単に体勢を立て直すことができない。

 よって、怪物が俺に向かって伸ばした触手に捕まるしかなかった。


琴未ことみちゃん!」


 沙里さりちゃんが注意を呼びかけるが俺ではどうにもできない。

 簡単に巻き付いた触手に持ち上げられ、俺は縛り付けられてしまう。

 体にまとわりつくねっとりとした感触が異常に気持ち悪い。

 決して肌と合致しないため、逃げない限り嫌悪感と卑陋感ひろうかんが付きまとう。

 そう、汗だくのおっさんに触られるというのは、こういうことを言うのかもしれない。

 そりゃ、女の子も嫌だよなあ……。

 そして、しばらくあんかけ焼きそばは食べられないだろう。

 このぬめりがどうしても嫌になる。

 これが沙里さりちゃんも味わっていたかと思うと、彼女が不憫に思えてしまう。

 ……が、今は俺が捕まっているんだ。

 何とかして逃げないと……!

 最初の戦闘時に感じたことだが、沙里さりちゃんはサポートが得意だ。

 だけど、戦い関係では俺に任せっきりになってしまう。

 だからこの間の化物からも逃げることができなかったんだ。

 ……待てよ。これって、俺が何もできなかったら積んだってことか?

 あと、この化物の触手って、服を溶かすんじゃ……。


「嫌だああああ! 服は! 服だけはご勘弁をおおおお!」


 更に、化物は余っている触手を俺の顔面に近づけてくる。

 こ、これはまさか……。

 俺の嫌な予感は大当たりし、触手は俺の顔めがけて突き出してきたのだ。

 こいつ、琴未ことみの口の中に入れる気だな……!?

 琴未ことみの動体視力に頼って、俺は必死に触手の追撃を回避していく。


「エロ同人みたいにされてたまるかっての! くそっ! うわ、来るなバカっ! こっちは頭しか動かせないんだぞ!」


琴未ことみちゃん! 落ち着いて!! 私が何とかして助けてあげ――」


 そこら辺は化物も抜かりがなかった。

 沙里さりちゃんが呪文を唱えようとした瞬間、俺を捕まえていない方の腕を伸びたのだ。

 沙里さりちゃんの反応も早かった。

 だが、一度彼女が回避しても、怪物の柔軟に動く触手に捕まってしまったのだった。


「きゃああああ!」


沙里さりちゃん!」


 再び捕まってしまった沙里さりちゃん。

 可哀想だと思ったが、触手に縛られて身動きがとれない俺に出来ることは正直ない。

 だからと言って諦める気もさらさらないが。


「くそっ! 離せこの化物!!」


 体をしきりに動かして粘着質の触手から逃げだそうとするが化物の締め付けが強い。

 思わず歯ぎしりをしてしまった俺だが、そんな俺を笑い飛ばす声がこの空間に広がった。

 始めて聞いた声色だった。

 俺は周りを見渡して声の持ち主を探す。

 すると、空中に浮いている人物が、いつの間にか俺の目の前で立ち塞がっていた。

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