第一章 〝霊媒師〟

第一章其ノ一 新たな春に

 春の日差し差し込む美しい桜並木の道を、制服を着た高校生たちが歩く。


 今日は、私こと松野まつの悠里ゆうりが通う咲嶋高校の進級式。

 私は今日から2年生になるのだ。


「あ、悠里ちゃん。おはよう」

「萌乃、おはよ」


 校内に入って上靴に履き替えた後、体育館に向かっていた私に声をかけたのは、幼馴染の白河しらかわ萌乃もえの

 中学2年の時にクラスメイトになって友達になって以来、クラスは同じになったりならなかったりだけど、高校も近所の公立に一緒に進学したのでなんだかんだ言ってずっと一緒で、仲がいい。次もクラスメイトになれたらいいね、って話してたんだけど、どうかなぁ。


「クラスは一緒がいいけど、クラス分けは進級式が終わってからだし。まぁ、一緒になれなくても一緒に帰れるだけでもいいよね」

「本当にそうだねぇ。」


 私たちは喋りながら体育館へ向かう。前年度のクラスごとに決められた席に座ると、すぐに進級式が始まった。


 ♢


 進級式が終わり、それぞれがぞろぞろと教室に向かう。教室前の壁に張り出されたクラス分けの紙をみて、同級生たちはわいわいと言いながら自分の新しい教室に入っていく。


 私も、萌乃と一緒に張り紙を見る。自分の名前を下の方から探すと、私は3組だった。


「私、3組だけど。萌乃は?」

「そっかぁ。私は4組だよ。バラバラになっちゃったねぇ」


 萌乃は4組になったようで、今年はクラスがバラバラになってしまったみたい。


 私たちは手を振り合って別れると、自分の教室に入る。


 私は3組だから、ちょうど真ん中の教室に入った。教室の黒板に座席表が書いてあったので、それに従って私は窓側から2列目の、後ろの方の席に座る。

 カバンを机の横にひっかけ、頬杖をついてぼーっとしているうちに、席がどんどん埋まっていった。


 私の左隣の席、一番窓側に近い席にも生徒が座った。私が頬杖をついたままチラリと見やると、艶やかで長い黒髪を下ろした少女が視界に映る。


「あ…」


 思わず口からこぼれた声に気づいて、その少女もこちらを向く。一瞬だけ、視線が交差する。でも、すぐに少女は手元のハードカバーの本に視線を落とした。


 月山つきやま香久耶かぐや。この少女の名前だ。

 某総合商社の社長令嬢。成績優秀かつ才色兼備。誰かと一緒にいるのはあまり見たことがない、一匹狼みたいなところがある。

 別に癇癪持ちだとか、自慢ばっかりとか、そういうわけではないんだけど、冷たいオーラ?みたいなのを纏ってて、近寄りがたいっていうか…。しかも、私は知っている。いつもはカバーを外したり、裏返したりして隠してるけど、読んでるのはスペイン語とかイタリア語とか、そういう言語ばっかりであることを。


 まさしく万能。ほんと、なんでもできるんじゃないだろうか。苦手なこと、ないんじゃね?とすら思う。


 その日、月山さんとの接触はそれぐらいしかなかったけれど。

 この出会いは、のちに大きな意味を持つ事になるのだった。


 当然、この時の私はそんな事、知らない。


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