その女、聖職者につき

殉教の日々

―――ドカン!!


「クソが!なぜ我への信仰が集まらぬのだ!!」


 男が苛立ちを抑えられずに机を殴打した。机はただの一息で真っ二つとなった。男の怒気に当てられ、周囲の人間は息を飲む。


 大きな会議室には10数名の男女が輪を作り、それぞれの前に机が立ち並んでいる。男が叩き割ったのはその一角である。


「我らが主神よ、どうか怒りをお納め下さい。」


 男の横には女が座っていた。年の頃は二十歳前後の様に見える。髪は短く切り揃えられ、肌は化粧をしているようには見えない。

 しかし、それでも尚溢れんばかりの美しさがそこにはあった。


 「あぁん!?これのどこが怒りを納められると言うのだ!今年に入ってからあのアバズレに信仰を大きく離されて居るのだぞ!?」


 男は、そんな美の化身の様な女の言には耳も貸さず、尚も怒りが衰えぬとばかりに語気を荒げた。

 そんな怒気に当てられてか、男の正面に座っていた女が失神してしまったらしい。机にうつ伏せに寝るような格好になり、椅子からはポタポタと雫が落ちている。



「どうか、どうか怒りをお納め下さい。これ以上神気に当てられては身体が持たぬ者もおります…何卒…」


 「…ふん、興が削がれたわ。」


 男が怒りを抑えると、場の空気が落ち着いたものになった。しかし、依然ひりついた空気感である。


「で、我に怒りを納めよと言うのであれば。何かしらの良い報告が出来るのであろうな?」


 男が隣の女に視線を送った。その血走った目からは狂気を感じる。

 しかし、その視線を受けても尚、怯える仕草を全く見せること無く、女は言う。



「はい。神々の遊技場であった寄木市に住み着く怪異について…あれを討滅したものには、これから1世紀に渡って、人類種を支配する権利を与える、と大神が」


「おお!遂にか!!それは良き事を聞いた!!さぁ!早う討滅に向かうのだ!我に支配権を寄越せ!!我は神界に戻るゆえ、良き知らせを待っているぞ!」


 男は言い切るやいなや、その場から消え去った。忽然と。豪奢な会議室に残るのは、男が座っていたあとが残るきらびやかな椅子と、散々な有り様の面々である。


 「…はぁーあ。」



―――カミサマ、変えてくんねーかなぁ


 女が呟いた。

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