第二章 第9話 ピンチ、救世主
デスクに詰まれた山積みの書類たちに、花蓮はげっそりとため息をついた。やってもやっても終わる気がしない。
今日は待ちに待った『花影朱璃』の配信日で、しかも珍しいことにゲーム配信のコラボ企画だ。
基本雑談と歌を売りにしている『花影朱璃』は誰かとコラボなんて企画はほとんどやったことがなく、それこそ奇跡といってもいい。サプライズゲストという体で相手の名前は伏せられているためわからないが、彼女曰く学生時代からの友人の一人で、プライベートでは二人を含めたグループで現在も遊んでいるらしい。
因みにコラボ相手は男だが、今そういう事にお互い興味がなくそういった関係になる可能性は微塵もないため心配するな、と釘を刺されていた。兄弟同然の相手に恋愛感情抱けるか? だそうだ。
朱璃の普段の姿が見られるのではないかとリスナーも楽しみにしている。
だというのに。
「くっそあの上司め、いつもいつも大事な時に押し付けやがってぇ……!」
ぐるる、と唸りながら猛烈な勢いで仕事を捌いていく花蓮の姿は般若と等しい。コラボ相手の時間に合わせて普段よりもいくらか遅めに時間を設定してくれているらしいが、それでも死ぬ気で急がないと間に合わない。
逸る気持ちをなんとか抑えながら手を動かしていると、目の前の山が半分消えた。
「……え」
「確か今日、桜城さんの推しの配信日なんだよね。手伝うよ」
そういってにこりと笑った翠依は、自分のデスクに紙を運んでパソコンを開いた。
持つべきものは神より頼れる同僚である。
「水無瀬くんんんん! まじ助かる、今度なんか奢るわ!」
「え~、やったぁ。何食べよっかな」
ゆったりとした口ぶりで超スピードで仕事を熟す同僚に涙を禁じ得ない。本当に彼がいてよかったと感謝していた時、また書類が半分消えた。
「……え」
「ふぅん、そんなんでいいなら私も奢ってもらお」
翠依と反対側の花蓮の横に腰を下ろして、美茜は涼しい顔で仕事に手を付け始めた。慌てて小声で彼女に話しかける。
「ちょ、ちょっとミア⁉」
「なに煩いな、黙って手ぇ動かしなよ」
どうやら親しくなると態度が冷たくなるタイプだったらしい美茜は、うざったそうに花蓮に吐き捨てる。
「いやでも、すぐ帰らないといけないんじゃないの⁉」
「三人もいればこんなのすぐ終わるって。十分間に合うってば」
私ってばほんとに出来た後輩、なんて嘯く彼女に脱力する。美茜は出来ないことは出来ないと言うことはできないが、きちんと認識できるタイプだ。そんな彼女がわざわざ手伝ってくれるからには、きっと問題ないのだろう。
「二人ともまじでありがとう……叙々苑でいいかな?」
ぐすぐす泣く勢いで提案された高級焼肉にびっくりしたように顔を見合わせた翠依と美茜は、ぴったり息を合わせて頷いた。
「「喜んで!」」
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