第10話 神罰
月明かりの中、街道へ抜ける森の小道を3つの人影が足早に移動している。
あれから神官助手は捕らえらた。教会の一室に閉じ込められ、交代で住人が監視に付いているはず。
しかし、月に照らされた顔は、あの神官助手だ。監視に付いた住民が、買収されたのか・・・それとも共犯者だったか。
わたしは、3人の前に立ち塞がった。
「・・・!」
待ち伏せは、意外だったようだ。神官助手は口をパクパクさせて震えている。後の2人は皮鎧に剣を下げた傭兵らしい。街道に出るために護衛を雇ったんだろう。
野盗なら、この場で斬り殺しても問題にはならない。しかし、教会に僧籍を持つ以上、処罰を下せるのは教会か領主だけ。
「口の中が切れる程度に殴るのは構わないでしょう」
わたしの後ろからイリヤが言う。サクヤも側にいる。
「それで我慢しなきゃいけないの?コイツは、サクヤを魔女にしようとしたんだよ」
「裁きは神に任せるしかありません」
サクヤのために教会と事を構える気概はないのか?イリヤにも腹が立つ。
その怒りを込めて、神官助手の顔面をぶん殴ってやった。吹き飛んだ神官助手の口の端から血が流れていたら、本当に口の中を切ったと思う。
辺り一面に神官助手が持ち出そうとした荷物が散らばる。財布の中から銀貨や銅貨も飛び散った。
イリヤは水筒代わりの革袋を拾い上げて、神官助手に手渡した。
神官助手と、雇われた護衛2人。
その3人は町に帰るために今来た道を戻ってゆく。わたしたちはその後ろを見送るだけだ。わたしたちの姿が見えなくなったら、また逃げ出すかも知れないのに。
「あんたを見損なったかもね」
イリヤは何も答えない。とは言え、わたしも同じだ。月明かりに映る人影が、革袋の飲料水を回し飲みしているのを黙って見送るしかできることはない。
・・・だが。
少しすると、護衛の2人がアタフタと走ってくる。そして、わたしたちに助けを求めた。話を聞くと、神官助手が急に痙攣して倒れたそう。
「毒ヘビですね」
既に動かなくなった神官助手を見て、イリヤはそう診断した。しかし、毒ヘビに噛まれたような傷は見当たらない。
「!」
思い出した!
毒ヘビの毒は、弓矢の矢毒に使われる。この毒は、傷から入ると致死性だけど、口から食物と一緒に摂っても大丈夫なんだ。もしも・・・革袋の飲料水にヘビ毒を混入させていたら?
3人が革袋を回し飲みしても、口の中に傷を作った神官助手だけが毒に侵される!
神官助手の遺体の側に落ちていた革袋に入った水を、イリヤは道ばたに捨てていた。
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