第7話 教会

「KYAAAAAA!」


 背後から悲鳴が聞こえた。振り返ると、尻餅をついてガタガタ震えてるサクヤ。


「・・・HEBI・・・HEBI・・・」


 わたしが近寄ろうとしたら、痙攣するみたいにビクッとして後ずさった。サクヤの視線は、わたしの右手のロングソード。

 ・・・あ!

 ロングソードに付いた毒ヘビの血を拭って鞘へ納めると、少し落ち着いたよう。


「HEBI・・・DAME・・・YADA・・・」


 言葉の意味はわからないが、毒ヘビを怖がってるのはわかる。まあ、当たり前だ。女戦士の国でもヘビに愛情を注ぐ少女は珍しい。

 毒ヘビにビビったと思ったイリヤは、いち早くサクヤに駆け寄っていた。ビビって逃げたわけではなかったらしい。

 カタコトでの会話ができるくらい、わたしたちの言葉を憶えたサクヤも、悲鳴をあげるのはやはり母国語か。

 そのままサクヤが落ち着くのを待っていたら、空が暗くなってきた。日が落ちるだけじゃなく雨雲も拡がってるようだ。


「早く宿に帰ろうよ。雨具の用意はしてないんだから」


 サクヤは、イリヤのローブの中に入って渋い顔をしてる。微妙に可愛いのだが・・・わたしが頭を撫でようとすると身体を硬くしてしまう。

 しばらく、サクヤには触れないかも知れない。



 翌朝。昼食の頃になっても、部屋に食事が来ない。それで一階の厨房に降りると、女将さんの様子が少しおかしい。


「連れの女の子は、何なんだい?」


 唐突にサクヤのことをかれた。どうやら、昨日の毒ヘビに悲鳴をあげたところを住民の誰かに見られたらしい。

 ・・・あの女の子は聞き慣れない言葉を発していた。

 女将さんのところへ、そんな告げ口があったそうだ。一応「喋るのが不自由な娘」とは言ってあるが、魔女の火刑があったばかり。皆が疑心暗鬼になるのも無理もない。

 女将さんの代わりに、わたし1人で3人分の食事を2回に別けて部屋へ運んだ。



 この町の教会。地味な色の修道服を着た神官助手は、魔女の火刑の時に火掻き棒を持っていた男に間違いない。

 年齢はイリヤと同じか、それより少し若いくらい。この年齢で、新しい司祭が到着するまでとは言え一人で教会を任せられるのは凄い。


「何度来られても、私では対応致しかねます」


 神官助手は、如何いかにも迷惑そうだ。それはそうだろう。イリヤだけではなく、わたしとサクヤもついて来たんだから。

 今回、イリヤはあたしに一緒に来て欲しいと言った。わたしは、女将さんの様子から「サクヤを一人にしたくない」からと、結局3人で押しかけた格好だ。

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