第6話 疑惑

 東の土地のリーダーは、彼女が魔女であることに納得していない。きっと、この地の人々全て同じ気持ちだろう。


  馬丁ばていが言った「オレらは行きにくい」はそう言うことか。


 魔女とされてしまった彼女は、むしろ積極的に町の人々と交流を深めようと務めていたそうだ。

 東の地の人々は、移住に際して教会の一神教に改宗してる。多分、強制されたのだと思う。その中でも、彼女は自らの意思で熱心に教会に通った。

 前司祭からも信頼され、新しくこの地へ来る司祭への歓迎の挨拶を頼まれていたらしい。


 魔女として処刑された以上、葬儀すら許されない。既に彼女の暮らしていた家は、教会に関わる者たちに物色され荒らされてしまっていると言う。

 魔女は、黒死病より残酷な疫病だ。不用意に彼女を庇ったら・・・庇った人に感染してしまう。



 東の土地を離れて、宿へ戻る道行き。

 イリヤは一言も喋らなくなる。何か気になることがあって、考えごとに集中してしまっているんだろう。サクヤもイリヤの側を離れて、わたしの側へ来ている。


「さっき、買ったものを見せて下さい」


 薬草を見つけた草むらの辺りで、わたしの方を急に振り返った。そして、わたしの担いでいた革袋を奪い取るようにして中身を確認する。

 魚の燻製やピクルスが気になるのか、ジッと眺めてる。

 東の土地からもう少し進むと大きな河がある。多分、その河で漁をやってるんだろう。土地が痩せていて、農作物の収穫が少ない分を補ってんだと思う。


「魚とか貝とかを食料にするんですね」


 海や河川から離れた場所では馴染みがないか。腐りやすいから、燻製とか干物とか保存の技がないと食べられないかも知れない。

 イリヤはしゃがみ込んで、革袋の中を覗き込んだまま動かなくなる。考えごとも結構だけど、早く帰らないと日が暮れちゃうんだけど。


「!」


 イリヤの後ろの草が揺れた。サクヤを、わたしの後ろに下がらせて剣を抜く。


「イリヤ、動かないで!」


 わたしの緊張した声に、驚いたイリヤの身体が硬直した。何が起こってるのか・・・全くわかってない様子だが、とにかくそのままの体勢で止まっている。

 手にしたロングソードを軽く振り上げて、イリヤの背中より少し後ろの草むらへ叩き付けた。

 湿った土が、剣に弾かれて宙に舞う。

 そして、胴体を潰された毒ヘビが死体になって草の中に転がった。


「・・・あ・・・」


「ありがとう、じゃないの?」


 いや・・・お礼の言葉より、ビビって草むらから飛び出る方を選びやがった。

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