第4話 財布のヒモ

「それで・・・申し訳ないんですが、お願いがあるんです」


「なあに?」


「ここの宿代と、これから旅に備えての保存食とか買い物の代金。出して貰っていいですか?」


 サクヤを連れて王都への旅をしてるイリヤだけど、路銀はほとんど持ってない。旅の途中で、その町や村の教会で薬の調合を手伝ったりして細々と稼ぐのが精一杯。

 わたしの方は、前の戦争で傭兵としてかなりの報酬を貯め込んでる。これでも『クルセイド砦の女戦士』と言えば、傭兵崩れの野盗は逃げ出すだろう。


「ああ、いいよ」


 承諾したが、ちょっと違和感。

 イリヤは、できるだけ自分で何とかしようと無理をする。教会の薬の調合の仕事を律儀に請け負って小銭を稼いだり・・・。まあ、報酬が小銭程度なのは、真面目にやってる教会は裕福になれないからなのだが。


「珍しいね。あんたがアッサリわたしの財布当てにするなんて」


「この町では、教会の仕事はできないと思いますので」


「そうなの?」


「・・・」


 何やらまた煮えきれない顔で言葉を濁す。


「自らの罪を認めない魔女は生きながら火刑に処されますが、堕落を悔いて自白した魔女は『苦しまない死』の後での火刑です」


 苦しまない死・・・ああ、そうか。

 魔女狩りが行われる土地での教会の仕事だったら・・・苦しまないで死ねる毒薬を調合させられるかも知れない。



 翌朝。昼食を早めにして貰って、わたしは町の入口にあった厩舎へ向かった。サクヤもフードで顔を隠してついてくる。

 武具を運ばせている馬を預けたので、その様子を見るついでに町の様子を聞いてみた。


「チーズや燻製とか買いたいんだけど、どこに行けばいいかな?」


「西通りに店が何軒かありますよ」


 若い 馬丁ばていが教えてくれる。顔を隠してるサクヤが気になるのか、チラチラ見てる。


「ごめんよ。わたしの婿の妹なんだけど、皮膚病でさ。うつる病気じゃないから安心してよ」


「あ、そうなんですか。こっちこそ悪かったですね。ジロジロ見ちゃって・・・」


 腰をかがめてサクヤの目線に合わせてから、 馬丁は頭を下げて謝罪をする。割と気さくな若者のようで、ちょっと雑談でいろいろ話をしてくれた。


「町の東の外れに、移民の連中の土地があります。店とかはないけど、住人と直接交渉すれば珍しいものを買えますよ。オレらは行きにくい場所なんだけど・・・」


「行きにくい?」


 何でも他の土地から移り住んだ者達なので、元々の住人とは少しイザコザがあったらしい。

 そんなところへイリヤが戻ってきた。

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