第3話 魔女

 朦朧もうろうとしていたが、イリヤがわたしを抱きかかえて近くにあった宿屋へ運んでくれたのはわかる。あの生っ白い腕で、わたしを抱き上げて二階への階段を上ってくれた。

 部屋に入るなり、ベッドに投げつけられたのもしっかり覚えてるぞ。


「大丈夫ですか?」


 ここは1階が飯屋で、2階が宿屋になってるらしい。下の階から貰ってきた水を器に注いで差し出してくれる。


「魔女狩り・・・だよね?」


 イリヤは頷いた。

 魔女とは、教会の教えから堕落した異端者。教会によると「女は心が弱くて誘惑に屈しやすい」から、異端に落ちるのは女が圧倒的に多いと言う。


「・・・ったく。女の裸を見るために、いちいち火焙ひあぶりの刑にしてたら女がいなくなっちまうだろうに」


 女であるのを確認するために、火刑の最中さなかに、魔女は裸を見物人の前に晒される。

 薪には、火を勢いよく燃やさないために水気を含ませてる。魔女にためとされてるが・・・本音は、女の裸を少しでもきれいな状態で見たいだけじゃないのか?



「取り敢えず・・・異教徒の貴女は、魔女にされることはありません。だから、ゆっくり休んで下さい。慰めにはなってませんけど・・・」


 教会は、変な寛容さがある。

 わたしみたいな、別の神々に造られた国から来た異教徒には割と優しい。教会の騎士にはなれないが、傭兵としてなら仕事をくれることもある。

 しかし、一旦教えに帰依した後の宗旨替えは絶対に許さない。特に、悪魔とやらの誘惑に負けた堕落は死で贖う。



 ふと、わたしを見るイリヤの視線がいつもと違うことに気付いた。


「なに?」


「いや、ちょっと意外で・・・荒事には、慣れてるはずなのに」


の質が違うよ」


 目の前で何百人いや何千人が死んでも気にしない。直接、この手で殺してもいい。わたしはそう言う仕事を、自分で選んだんだから。

 しかし、はごめんだ。

 あそこに集まっていた野次馬ども・・・手は汚さず、責任も負わないで他人の不幸を面白がる。

 ここが戦場なら、味方であっても叩き斬ってやる!

 わたしが普通に喋るようになって、サクヤも安心したらしい。ベッドの脇に座り込んで、ニコリと微笑んでくれた。


「そう・・・サクヤにあんなものを見せちゃ駄目だよ。シッカリしてよ、イリヤ!」


 イリヤの顔が曇った。細めた双眸から、わたしに向けられる視線が急に冷たくなる。


「だから、移動しようとしたんじゃないですか。貴女が、わざわざ見に行かなければ、この娘にだって見せなくて済んだんです」


「・・・」


 えーと、返す言葉がなくなった。

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