第2話 火刑

「何があったの?」


 イリヤに問いかけたが、暗い表情のまま返事を渋ってる。サクヤの身体を、自分が羽織っているローブに包んで歩き出そうとした。


「見ない方がいいです」


「何を?」


「特に女性は・・・」


「・・・?」


 煮え切らない返事に、ちょっとイラついた。イリヤの身体を押し退けて、悲鳴のした方へ向かってみることにする。路地を、喧噪のする方向へ進む。何度か曲がった先で町の広場に出た。



 20から30人くらいが広場で人垣を作っている。路地を歩いていた間は、その湿った臭いで気付かなかったが、広場には薪が燃える臭いが拡がっている。

 広場に立てられた木柱を囲むように、人垣はできていた。その中央の木柱からモクモクと煙が上がり、弱々しい炎が燻っている。


「・・・!」


 木柱には女が縛り付けられていた。やつれて埃にまみれていて年の頃はわからない。

 女の胸元まで薪が積み上げられていて、その薪には火が放たれている。薪と薪の隙間からチロチロと炎が見えるが勢いはなく、灰色の煙をモクモクと吐き出している。


「・・・ゴホッ・・・ゴホッ」


 煙に咳き込みながら苦しげに首を振る。薪の焼ける臭いに混じって脂の焼ける臭いが混じる。咳き込む女の顔が苦悶に歪む。


「・・・火を・・・もっと・・・」


 ゼイゼイと咳き込みながら、女の懇願する声はそう聞こえた。

 女の首がガクリと垂れた。やっと楽になれたのかも知れない。



 側にいた黒い聖祭服キャソックに身を包んだ男が、長い火掻き棒を持って動かなくなった女に近づく。手にした火掻き棒で、女を胸まで埋めている薪をどかし始めた。

 女の足下から少しずつ薪がどかされて、どす黒く焼けただれた女の脚が衆目に晒される。脂の焼ける臭いに噎せ返りそうになった。更に薪がどかされて、女の下腹部までが晒された。

 黒い聖祭服キャソックの男が何かを叫んだ。それに応じるように、集まった群衆も声を上げた。

 女の下腹部から下が衆目に晒されている・・・今、処刑された者が、だったことを確認して皆が歓声を上げているんだ!

 ・・・オェ・・・ゲェ・・・

 胸と腹の間辺りが、またもムカムカして・・・口に中が酸っぱくなると同時に吐き戻していた。



 膝がガクガクとなって立っていられなくなり、その場に蹲ってしまった。悪寒がして全身が震えている。


「マグナオーン!」


 イリヤの声が、わたしの名を呼んでくれた。駆けつけたイリヤに肩を抱かれて少しホッとする。サクヤの小さな手が、わたしの手を握るのもわかった。

 そこで意識が途切れた。

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