魔女を狩る者~女戦士、放浪の薬師を拾う~

星羽昴

第1話 悲鳴

「だから、怪しい木の実なんて食べちゃ駄目なんですよ」


 さっきから婿のイリヤが、ネチネチと同じことを繰り返してる。イラつくから文句の十や二十言い返したいんだけど、口を開いてる間に吐き出しそう。

 白状すると・・・胸と腹の間辺りがムカムカして本気で気持ち悪い。

 そろそろ旅の保存食が少なくなったからと、魚や木の実を獲るようにしていたのだけど・・・木の実のつもりで、妙なものに手を出してしまったらしい。


「一応、僕は植物に関しての知識なら、他人より持ってるつもりですよ。僕の助言を信じなかった貴女の自業自得です」


 そうだった。イリヤの実家は田舎町で薬屋を営んでいて、イリヤ自身も教会で薬の調合を手伝っていた専門家だ。

 イリヤの後ろで、フードから眸だけを覗かせている少女サクヤ。心なしか、その眸が冷たい。サクヤの眸も「自業自得」と言ってる気がする。



 保存食の残りは、心配しなくて良かったらしい。思いのほか直ぐ近くに町があった。決して大きくない町だけど、宿屋や店もあるようだ。

 木造の家々の路地の先にある共用の井戸からイリヤが水を貰ってきた。


「取り敢えず、お腹を落ち着かせる薬です」


 イリヤは、その水に少し青みがかった粉末を溶かして手渡してくれる。

 わたしは女戦士マグナオーン。少し前に戦争が一段落して、傭兵の仕事がなくなった。それで、気ままな旅のついでに婿捜しをと考えていたら、このイリヤと出会った。

 イリヤは田舎町で起こった事件のために、少女サクヤを王都へ連れて行く途中。この二人が気に入ってしまったので、わたしも一緒に旅をすることにした。

 生っ白くて頼りないイリヤではあるが、実家の薬屋で修行してるから薬に関しては信用できる。

 井戸の側で半時くらい休んだら、気分も落ち着いてきた。落ち着いてくると、ガヤガヤと騒がしい。何十人もの人声が、神経を逆撫でしてくる。


「何かあったの?」


「ちょっと見てきます」


 サクヤをわたしの側に置いて、イリヤは一人でザワつく声の方へ歩いて行った。

 サクヤは、イリヤの住んでいた町の側で事件に巻き込まれて、一人だけ生き残った異国人である。わたしたちとは言語が違うらしく会話ができない。黒い髪と黒い双眸の容姿は、一目で異国の者だとわかってしまう。

 無用の混乱を避けるために、皮膚病を騙って、普段はフードで顔を隠してる。


「いやぁぁぁー・・・」


 女の悲鳴?

 腰に吊した剣に右手をかける。声の方へ駆け出そうとするところに、ちょうどイリヤが戻ってきた。

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