第5話:勇者トリスタンご一行とご対面。

 俺と陽葵は女神アフロディーテを降臨させてゴブリンの群れを撃退したあと、身なりの整っている3人のパーティーが、こちらに近寄ってきたので冷や汗をかいていた。


『ちくしょう、陽葵とのアーン♡と激しいキスを他人に見られてしまったか…』

 陽葵が女神アフロディーテを降臨することについて、あれこれ他人から言われるのは構わない。


 ただ、人前で陽葵と熱いイチャイチャを見られてしまったことに俺は激しい後悔を覚えていた。

『これなら超凝縮魔道弾でゴブリンの巣を破壊してしまったほうがマシだった…』


 俺が相当に後悔していると、そのパーティーのリーダーと思われる男から声をかけられた。

「私は勇者トリスタンと申す者。君たちはもしかして、メリッサの遊撃自警団にいるAランクの夫婦かね?」


 『なに?、勇者?マジか?』

 まさか魔王軍を追っている勇者が、メリッサに予定よりも4日も早く入るとは思わなかったからだ。


 慌てて陽葵と一緒に片膝をつくと、俺は勇者トリスタンに名乗った。


「そっ、それは失礼しました。勇者トリスタンさま。わたしは、メリッサに所属する遊撃自警団のキョウスケといいます。そして隣にいるのは、妻のヒマリです。申し訳ない、いまは女神アフロディーテさまの魅了によって妻は私に離れられない状態ですし、落ち着くまで会話も無理でしょう。」


 陽葵は顔を赤らめながらも、俺の右腕をギュッと抱きしめたまま片膝をついている。

 少し女神アフロディーテの影響が残っているので、目がうつろのままだ。


 勇者パーティーにいる、もう一人の男が立つように促すと俺に言葉をかけた。

「私は隣国のアルラン帝国の聖騎士イジスといいます。キョウスケ殿、ヒマリ殿の力が強大である噂は隣国まで聞こえています。それにくわえて貴殿の魔力の強さにも驚嘆しているのです。」


 聖騎士イジスの話を聞いて俺は冷や汗をかいた。


 陽葵の胸チラを見たお陰で魔力の制御をミスって山ごと吹き飛ばしたなんて事は絶対に語れないし、勇者の目の前では下手な嘘もつけないので、適当に誤魔化した。


「イジスさま、勇者殿や聖騎士さまや隣にいる賢者さまには到底、及びません。私の魔力なんて、たかが知れております。先日、山ごと吹き飛ばしてしまったのは、私の不注意と未熟さの表れでありますので…」


 これ以上の追求は面倒だったので、素直に認めつつも下手に出て上手く逃れることにした。


 しかし、その誤魔化しは無駄に終わった。

 勇者パーティーの女性が前に進み出て、屈託のない笑顔で俺に話しかけた。


「へっへ~ん☆。わたしは賢者シエラといいます。キョウスケ殿は謙遜しないでください。私は賢者ですよ?。相手の魔力なんて、この場にいただけですぐに分かりますわ。わたしと同じぐらいの魔力を持つ魔法剣士なんて、どの国を探しても滅多にお目にかかれないわ…」


 俺は慌てて話題を変えて、その場を誤魔化した。


「ところで、トリスタンさま、私達はギルドの命令でこのゴブリンの巣を叩きに来たのです。勇者さま達が、半分以上、撃退して頂いて恐縮です。ギルドへの報告もあるので、落ちている魔石を回収させて下さい。無論、勇者殿が倒した魔石はお渡ししますので…。」


 トリスタンさまは俺の言葉にうなずくと、少し笑顔になった。

「キョウスケ殿、それは構わない。私たちも急遽、予定を変更して貴殿も所属しているメリッサのギルド長のセシル殿に会う用事があって…。では、魔石を拾うとしますか。」


 勇者トリスタンが近くに落ちている魔石を拾おうとしてるので、俺は慌てて止めた。

「トリスタンさま、少し待って下さい。私の小細工魔法で全ての魔石を回収しましょう。」


 俺はオリジナルの術式を展開すると、勇者パーティーの3人は目を見張った。

 賢者シエラが興味深そうに見ている。

「キョウスケ殿、これは面白そうだわ。何か誘導の術式なのは分かるけど、なんでそうなるのか、すぐには分からないわ…」


「賢者様なら、この術式を発動すれば、すぐに分かりますよ。最後は収納魔術の仕分けの術式に近いコトをやりますが、魔石を私の魔力で共鳴させて判別した後に、すこしだけ時空の狭間を作ってあげて瞬間移動させるだけですよ。」


 賢者シエラに俺は簡単に説明しながら魔力を込めて幾つかの術式を展開した。

 その術式に反応して俺の目前に幾つかの魔方陣が浮かび上がる。


 すると、俺の足元と、勇者トリスタンさまの足元に山になって魔石が積みあがった。


「お~~~」

 3人は驚嘆の声をあげると、賢者シエラがニコッと笑って俺の方を向いた。


「キョウスケ殿は複雑な術式を操れるのね。わたしもできるけど、貴殿には少し劣るわ。わたし達が撃退したゴブリンの魔石と、あなた達が消し去ったゴブリンの魔石を綺麗に分けるなんて普通は無理だわ…」


「いえいえ、私はこんな小細工魔法ばかりですので、たいしたコトはできないです。」

 そんな話をしているが、陽葵はまだボーッとしたまま、俺の右腕に抱きついたままだった。


 それを見ていたイジスさまが少し深刻そうに陽葵の様子を見ていた。

「ヒマリ殿は、女神アフロディーテ様を召喚されたので、精神が少し神格化されたような感じでしょうか?」


「イジスさま、その通りなのですよ。それに、皆様に謝りたいのは、女神様の魅了にかかってしまうと、私達の愛の力が勝ってしまって、周りのコトは気にせずに妻との愛情を爆発させてしまうので、周りがその様子をみて恥ずかしくなってしまう状況になります。先ほどは申し訳ありませんでした…。」


  俺は苦笑いしながら皆に謝罪をした。


「キョウスケ殿、それは仕方の無いことでです。私もポセイドン様を召喚した場合は、戦闘中に戦うことに高揚してしまって、周りも弁えずに突進してしまう場合がありまして…。そのたびにトリスタン様やシエラ殿に助けられています…。」


『だいいち、神様の器になる精神力と魔力を持ってる時点でスゲーことなんだよ…』


 俺はイジスさまの話を聞いて少しホッとしていた。 

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