第4話:わたしとあなたの愛の力♡

 勇者トリスタンは魔王から世界を守る絶対的な使命がある。


 ゆえに、自分の目の前でいちゃつきながら、お弁当を食べている遊撃自警団のカップルを救わなければいけない。


 仲間がゴブリンの巣に襲撃をかけているから、そこから逃げてきた複数のゴブリンが彼らに襲いかかるのは時間の問題かと思われた。


 トリスタンは急いで2人の元に駆け寄った。

 しかし、2人に近寄ろうとした瞬間、足が勝手に止まってしまった…。


『なんだ?これは、何が起こったんだ??』

 

 勇者トリスタンは困惑した。

 彼らは自分に対して足止めするような魔法を発動したわけでもないし、目前でラブラブになってイチャイチャしているだけだ。


 体が動けないから、彼らの様子を見ざるを得なかった。


 齢はともに20歳前後であろうか?。


 男は少し小柄だが、中肉中背で均整の取れた体つきをしていて、温和で穏やかそうな優男という雰囲気だ。


 男のかたわらにいる女性は、とても可憐で可愛げで、愛くるしい姿をしている。多くの男が言い寄ってくるような、異性ならドキッとするような端麗な顔つきだ。


 ここから先は他人が踏み入れてはいけない絶対的な空間があって、2人から強すぎる愛が自分に向かって激しく迫ってくるような感覚をトリスタンは感じ取っていた。


 その2人は互いが見つめあって、優しく微笑みあっている。

 そして、自分に気付くこともなく、顔を赤らめながら匙を出し合って、とても幸せそうに弁当を食べて続けていた。


 トリスタンは2人の様子を見て羞恥を露わにしたが、その視線を外すことができなかった。

  

 彼は女神アフロディーテの魅了にかかっているから、是が非でも自分の目の前で起こっていることを強制的に見ざるを得ない状態に追い込まれていたのだ。

  

 勇者トリスタンには、自分に足止めをした正体なんて分からなかったが、邪気は全く感じなかったし、この足止めをした得体の知れない力が、敵意や殺意を持ったものではないことが明らかに分かっていた。


「ふふっ♡、恭介さん~~、こんなところにご飯がついてるわっ♡」

 言葉を放った彼女の目は、とても愛おしさに溢れていた。


 可憐で可愛らしい彼女の目の前にいた男は、心の底から彼女を愛していることがトリスタンには分かった。


 「陽葵、誰かが見ているし、恥ずかしいから止してくれっ~~~!」


 彼は懇願するように彼女に訴えたが、可憐で可愛すぎる彼女は、女神のように微笑むと、彼の頬に口づけをするように頬についていたご飯を食べた。


 トリスタンは、羞恥のあまりに目をそらしたかったが、体が動かなかった。

 そして、逃げたくても足が動かなかった。


 彼は恋愛感情に対して興味がゼロなんてことはない。


 仲間のシエラという1人の女性と魔王討伐後に婚約を決意した身でありながら、ここまで、まぶしすぎる愛を目前で見せつけられると、いてもたってもいられなかったのだ。


 トリスタンが、とんでもない羞恥心に包まれて、その場から逃げたくて叫びたい気持ちになろうとした時だった。


 後ろから複数のゴブリンの声と共に、仲間が叫んでいる声が聞こえた。


「トリスタンさま!!、そこの2人も危ない!!!」

 シエラが呼びかける声が聞こえるが、トリスタンは体が動けないから、ゴブリンがいるほうに動けない。


「なんだ!!、この強すぎる神気は!!!」

 イジスが素っ頓狂な声をあげると、キングゴブリンを含めた14体のゴブリンが怖じ気づいて足が止まった。


 それと同時にシエラとイジスの足も止まってしまった。


 「みんな!!。これは強力な神性の魅了よ!。なにが起こっているの??」


 賢者シエラは慌ててパーティーに注意喚起をするが、神格降臨級でかつ強い神性を持つ魅了を解除する術式なんて、とっさに出てこなかったし、関連する高度な魔術書を片っ端から読まなければ、何が起こっているのか分からない状況だ。


 そして、賢者シエラと聖騎士イジスも、勇者トリスタン同様、強制的に2人のカップルに注目せざるを得なくなった。


 その2人は愛おしそうにジッと微笑んでいた。

 もう、目を背けたくなるぐらいの勢いで互いが深く愛し合ってることが分かった。


 賢者シエラが羨ましく思うほど可憐で可愛げな女性が、顔を真っ赤にして愛する男性の唇に熱いキスをした瞬間だった…。


 「これは…!!!!!、女神アフロディーテさま!!!!!!」

 イジスがその神気に心当たりを見つけて叫ぶと、辺りが淡いピンクの光に包まれた。


 それは2人の熱く優しい愛に溢れた光だった。


 勇者トリスタンのパーティーはそれを見て呆然としていた。

 女神アフロディーテの魅了により動けなくなっていたが、その魅了がなくても、その驚きで動けなかっただろう。


 淡いピンクに染まった優しくて愛に溢れた光が、そばで動けなくなっていたゴブリンに照らされると、ゴブリンは砂のように崩れて形を失って、その場に魔石がストンと落ちた。


 次々とゴブリンが砂のように消えていくなかで、キングゴブリンは辛うじて姿を保っていたが、それは時間の問題だった。


 キングゴブリンは叫び声をあげるが、その愛に溢れた光が強さを増すと、その場で倒れて、他のゴブリンと同じように砂のように消えて、ひときわ大きな魔石を残して消えてしまった…。


 勇者トリスタンは、それを見て驚愕が止まらなかった。

『これは…次元が違う…。とんでもない力だ…。』


 そして、全てのゴブリンが消え去ると、可憐で可愛すぎる女性がその場でひざまずいた。


 「女神アフロディーテさま、そのご加護に感謝します。そして、私たちはいつまでも変わらぬ愛を誓うことをお約束します。」

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