第11話 7 仲直りの準備
・・・
次の日。……なんだけど。
い、行きづらい……。
僕は暗い気持ちでトーストを齧る。
学校が嫌というわけじゃない。むしろ学校に行きたくないわけではないんだけど……。昨日西条さんに暴言を吐いてしまった以上、彼女と顔を合わせづらい……。
あああああ、僕のバカ‼ 西条さんは何も悪くないのに……!
今更だけど罪悪感が襲う。そのせいでトーストの味を感じない……。
「……いつき? だ、大丈夫かい? そんな暗い顔して……」
おばあちゃんは僕の方をじっと見て言った。
「やっぱり、学校で嫌なことがあったのかい? そういや昨日の制服を汚していたし……」
「い、いや。嫌なことは無いけど。……あのさ、おばあちゃん」
「ん?」
「……仲が良い人を傷つけちゃって、謝りたいけど。……どうやって謝ればいいと思う?」
「喧嘩しちゃったのかい?」
「う、うーん。喧嘩ってわけじゃないけど。つい、僕が、相手に嫌なことを言ってしまって……。相手は何も悪くないのに、怒鳴ってしまったの……。だから謝りたいけど。どうやって謝ればいいのか分からない……」
我ながら結構めちゃくちゃな問いだよなあ……。僕が一方的に悪いわけだし……。でも、とにかく僕は今、どんな面で西条さんに会うべきか知りたい。
「そうねぇ……」
おばあちゃんは味噌汁をずずっと飲み、言った。
「いつきはちゃんと反省しているのだろう? なら、余計なことは考えずに、いつきが今申し訳ないと思っている気持ちを誠実に伝えたらいいと思うよお」
「……それで、相手は許してくれる?」
「分からないねぇ。許されるとは限らないけど。それでも、何回でも誠実に伝えていけば、相手も分かってくるさ」
「そういうものなの……?」
「ああ、そうさ」
おばあちゃんは大きく頷いた。
「……分かった。ありがとう」
僕はおばあちゃんの言う通りにしようと決意した。
西条さんに、きちんと。逃げずに昨日のことを謝ろうと。
「じゃあ、行ってきます」
「あ。待って、いつき」
おばあちゃんはバタバタと走りながら、何かを手渡してきた。
「これ、新しいお守りだよぉ。前汚れていただろ? また新しいの買っておいたからさ」
おばあちゃんは僕に「縁結び」のお守りを手渡してきた。
「……これ、いいの……?」
「ああ。お守りは何個持っててもいいからねえ」
「……ありがとう」
嬉しくて笑みがこぼれた。その心遣いというか気持ちが、僕にはとってもありがたいことだったのだ。
「行ってきます!」
僕は新たな決意を持って、家を出た。
……と、決意したものの。
「え? 西条さん今日休みなの?」
朝教室に入っても、西条さんの姿は無かった。朝の会が始まっても彼女は姿を見せなかった。なので先生に聞いてみたら休みだという答えが返ってきた。
「ええ。あの子。結構病弱でね……。今日熱出たって連絡が来てね。テストも別の日に受けるって」
「……そうですか」
「おっ。よー、いつき‼ どうしたんだ?」
後ろから背が低めの茶髪の男の子……杉本照くんと、黒髪で左目下にほくろがある渡辺かずきくんがやってきた。
「西条さん、休みなんだ……」
「何? あれ。いつき、西条に気があるの?」
「恋愛相談なら乗るよー」
2人はにやにやしながらやってきた。……って、じゃなくて……‼
「違うよ。あの、西条さんに言わなきゃいけないことがあって……」
「急ぎー?」
「急ぎ」……でも、無いけど。早く言ったほうがいいこと、かな。
まあでも、西条さんがいないのなら仕方ないかも……。
「なあなあいつき‼ 今日一緒に帰ろうぜ」
照くんが肩を組んできた。
「僕たち、いつきくんのことをもっと知りたくてさ。あ、家どこ?」
「えっと、ここらへんかな?」
僕は地図アプリを開いて、2人に見せる。
「あ。俺と方向一緒だ‼ つーか俺ん家の近くだ‼」
照くんが嬉しそうに言った。
「え、そうなの?」
「かずまとは途中で分かれるけどー……。でも、途中までは3人とも道一緒だな!」
「あー。もしよかったらさ、一緒に勉強会しないー? さっき照とも話しててさ。いつきもよかったら来るー?」
「いいの?」
「おう、つーか来てくれ」
「やった、嬉しい‼」
僕はついはしゃいだ。
僕としては、クラスの人ともどんどん仲良くしたいのだ。願ってもない機会で、僕は嬉しくなる。
そんな様子の僕に2人は照れながら笑っていた。
「まじで面白い奴だなー‼ いいぜー、行こうぜ‼」
「堅い人だと思ってたけど、なんか面白いねー」
僕も2人に笑顔を見せた。
もちろん、心からの笑顔を。
放課後。
僕はいち早く学校から出て、裏山に近付く。地図アプリを見ながら、裏山に近い、あのさびれた神社へと足を進める。
一緒に帰る約束をしていたあの2人は補習を受けている最中だ。結構かかるそうなので、その間も僕は気になっていることを解決しようと思ったのだ。
だいだらさんに用がある。日常に浸っていたいとは言え、だいだらさんの姿は自然に視えてしまう。仕方のないことだけど。
確か、だいだらさんは会話できるヤミだ。彼に聞きたいことがあるのだ。
だいだらさんは僕が神社に足を踏み入れた時から、山から顔を出していた。今も2つの目玉でじーっと僕を見つめている。
正直、この上から見られている圧はまだ慣れない。ぞわぞわしてしまう……。
「……ね、ねぇ‼ だいだらさん‼」
途端、だいだらさんは僕のいる方角に前のめりになる。
怖い……‼ で、でも、何かあったら、逃げる‼
僕はぐっと腹に力を入れる。
「あのさ‼ 西条彩月さんって……。本当に、風邪?」
僕は朝、気になっていたことを聞いてみた。
そう。西条さんはヤミと戦ってできた傷については、周りに「自分は不幸体質だから」と言っていた。
だから「熱が出た」と偽って、もしかしたらヤミと戦っている、もしくは戦った後に重傷を負って学校に来ていない可能性もあるのだ。
本当はL〇NEで聞きたかったけど、いつまでたっても既読がつかないので余計心配になったのだ。
だいだらさんは、ぶんぶんと首を横に振った。
……やっぱり。僕の予感は当たった。
「西条さんは、今家にいる?」
この問いに、だいだらさんは首を横に振った。
「……西条さんは、大きな怪我とかしてない?」
こくん。
だいだらさんは、首を縦に振った。
「よかった……」
その言葉を聞けて、僕はとりあえず安心した。
「じゃあ西条さんは、今どこにいる?」
すると、だいだらさんは首をかしげてしまった。その後にふるふると首を横に振る。
これは多分、西条さんの行方をだいだらさんは知らないか、それとも話せないのかどちらかなのかな……?
どっちにしても、これ以上西条さんのことについては聞き出せないかな……?
「……ありがとうございます。……最後に、だいだらさん」
僕はだいだらさんの目をまっすぐ見返す。
「僕を、襲うつもりはない?」
しばし、だいだらさんは動かなかった。
けれど、やがてだいだらさんは大きく首を縦に振ってくれた。
その瞬間、僕の緊張がほぐれた。西条さんの言う通り、危害を加えるようなヤミではないのだろう。
「……ありがとうね‼」
僕はとびきりの笑顔で感謝の言葉を言った。
するとだいだらさんは顔だけ真っ赤になる。そしてそのまま山の中へと入って僕の視界から消えてしまった。
「……?」
最後の反応はよくわからないけど……。とりあえず、知りたいことは知れた。
あとは2人と合流するために、僕は校門に向かった。
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