第6話 ネアンデルタール人はなぜ滅んだ?

生き物の進化の歴史は面白い

かつてチャールズ・ダーウィンが種の起源を著した時も喧々諤々だったが、今でも進化のメカニズムがすべて解明されたとは言えない

その生物がなぜこの形質を持っているのか、なぜ獲得し、あるいはなぜ失ったのか

変化することのメリットとデメリットを調査し、丁寧に要因と結果を推察していくと様々な不思議に遭遇する


と、のっけから割と真面目に書き出した今回だ

地球上に生き物が発生してから人類が繁栄する現在まで、実に様々な生き物が現れては消えていった

今や地球上に80億は居るという人類も、神様が土塊から夏休みの工作のように作ったものではなく、連綿と続く進化の過程で誕生した


歴史に興味ない

学校生活なんて遠い昔に置いてきた

そんな人でもクロマニヨン人という単語には聞き覚えがあるのではないだろうか

そう、我々現生人類の直接のご先祖様である


引き締まった俊敏な体躯と大きな脳を持ち、持ち前のチャレンジ精神で新天地へと乗り出した


そんなイメージがある

人類の名称としてもう一つ有名なのがネアンデルタール人だ

名前の響きがかっこいい

一体どんな意味があるのだろう……そんな風に目をキラキラさせた時期があった

発見された場所がドイツのネアンデル渓谷だからである

ネアンデルは地名、タールは谷という意味

つまりネアンデル谷の人である

急に、斜向かいの田中さんみたいな親近感が湧く


そんなドイツ・ネアンデル谷の人だが、長く、我々現生人類の直接のご先祖様であるクロマニヨン人に駆逐されて滅んだように思われていた

生存競争に負けたのだ、と

他にも色々な人類が居たが、熾烈な生存競争に敗れ、生息場所を奪われたり追いやられたりして滅亡し、結果的にクロマニヨン人が生息域を広げて繁栄することになったのだ

つまりクロマニヨン人のほうが適応力が高かった、優れていた!

という理論である


種の起源を初めて読んだのは中学生の頃で、当然日本語訳されたものだが、当時通っていた学校の先生にお借りしたのを覚えている

日本語が難しくて読むのに苦労した記憶…


種の起源って何やねんという方もいるかもしれない

詳しい話を始めると連続講義第何回みたいな内容になるので、ここでは非常に簡略化して言う

生き物は、本人が「こうなりたーい」と進化するのではなく、生きてる環境に一番合致してる奴が多く生き残って進化するんだ

生息環境、つまり自然によって生き物は淘汰されてきた

というものである


今の日本で聞いても「ふうん?一理あるじゃん」ぐらいにしか思わないだろう、当たり前すぎて

だが当時はもう、それは大変なセンセーショナルな大事件だった

なにせ生き物の常識は、神様が自分に似せて人間を作ったり、こんなんおったらええなーwと楽しくジオラマ工作をせっせと頑張った結果、地球というものができた、である

それをダーウィンとかいうオッサンが

「いや生き物は単に環境に適応できたら残って、適応できんかったら消えただけやで。人間?人間も生き物やから、一番近い猿からこんな感じになったんちゃうか」

という訳である


事件にならない方がおかしい


自然が淘汰した多くの生き物のひとつであるということは、神の恩寵が入り込む隙間がない

当然のように教会は激おこである


それはさておき

環境に適応するか否かの例えでよく持ち出されるのはキリンだ

首の長い網目模様の黄色いやつだ

キリンの首は長い

あれも哺乳類だから、首の骨の数は人間と同じである

数が同じなのに長いのは、骨1この長さがめちゃくちゃ長いからだ

生物としてかなり無理をしている

何しろ首が長すぎて、頭が高くなりすぎたために、普通の心臓の働きでは血液を送りきれなくて260という脅威の高血圧を維持している

キリンにはこれが普通なので、別に彼らは高血圧症ではないのだが

また、首を下げた時、血圧260の勢いから更に加速した血液が脳に逆流しないよう逆流防止弁をつけ、ワンクッションとして細かい網目状に組んだ毛細血管の塊、ワンダーネットというサポート構造を発達させた


生物として、大変に無理をしている


なぜそんなに無理をして首を伸ばす!?

という疑問に答えを与えるのが、自然淘汰説である

首の長いキリンも、首の短いキリンもいた

長い首のキリンはより高い場所の草も食べられて、数が増えた

生息場所に高い木がたくさんあったからだ

だから適応した長い首のキリンが生存競争を生き残ったのだ

という流れになる

なるほど、一理あるね?


そんな進化論で「人類」を見てみると、ネアンデル谷の人が生存競争に負け、クロマニヨン人が生き残ったということは、当時の環境にクロマニヨン人のほうが適していたから、となる

ネアンデルタール人の集落に墓の跡が確認されている

洞窟内にも関わらず植物の種子がまとまって発見されたため、死者に対して花を供えたものと考えられたのだ

こういうエピソードが心優しいネアンデルタールと血気盛んな狩猟民クロマニヨンという私の中でのイメージに繋がっていた



だが、技術が進めば新しく解明されることがある

そのひとつがDNAだ

DNA、ミトコンドリアDNAが解析可能になったことで、ネアンデルタール人がなぜ滅んだのかという疑問に新たな回答が出現した


その新たな回答こそ、恋愛。である


お前が何を言っているのかサッパリわからん

そういう声が聞こえる

まあ、待って欲しい


DNAというのは不思議なもので、これの比較で血縁関係がわかる

親子だと似ている部分が多いのは何も見た目だけではないのだ

集落で暮らしていた個人を丁寧に分類していくと、クロマニヨン人の社会では女性が男性の集落へ引っ越すことで婚姻関係が成立していたとわかった

難しい手法はさておき、父方由来のDNAと母方由来のミトコンドリアDNAを比較していくと、そういうことがわかったのだ

へー研究者ってすごいなー、ふーん

で終わらせておいて構わない


ここでさっきの恋愛というキーワードが出てくる


ネアンデル谷の人は滅んだ訳だが、それはハリー・ポッター並に純血種というものを考えた場合である

どういうことか

ネアンデルタール人の男性が、クロマニヨン人の女性と結ばれるケースがあったからだ

生まれた子供はネアンデルニヨンみたいなものである

だいぶ強引だが


そうやって両者の形質を引き継いだハーフが、次世代を作っていく

化石が残るというのは非常に珍しい

うまく現代まで残ってくれたことが既に奇跡といっても良い

だからネアンデル谷の男がクロマニヨン女性と結ばれるなら、クロマニヨン男性と結ばれたネアンデル谷の女性も居ただろう

両者は純血種を守る異種族ではなく、婚姻関係を結ぶ交流ある異国人ぐらいの距離感だったのかもしれない


今、我々が探り、理解し、分類したすべての存在は便宜上、人の手によって系統立てて種類分けされているにすぎない

言語という力は人類の思考力と共有力を飛躍的に伸ばした

人は言葉によって物事を捉え、整理し、理解する

だが、言語の力で区分したものが、はたして本当に「異種」なのか

ネアンデル谷の気の良い人のところに

クロマニヨンの人が捕れたばかりの鹿を背負ってやってくる

そんな光景もあったかもしれない


ネアンデルタール人はなぜ滅んだか


現代を生きる私と彼らに、実はそんなに大きな違いなんて無いのかもしれない

そんなことをふと思った



2024.4.30   なごみ游

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