第4話 天下国家と分国の話。

世界史の話をひとつしたから、今度は日本史の話をしよう


ってな訳で。

みなさんは織田信長をご存じでしょうか


オイなごみてめぇふざけんじゃねえぞ、そんな有名人知らん奴おらんやろ!!!

と怒られること請け合いの質問だけども

実は私自身、織田信長という歴史上の人物を知ってる!と思っていた

むしろカッケエエエエ!!!と思っていた


ある一定以上の年齢の方ならば、お分かりいただけるだろう

織田信長と言えば伴天連織の派手な着物で、野生児さながら野山を駆け、野心たっぷりにあらゆる改革を行って領土を拡大し、破竹の勢いで日本を統一する一歩手前まで漕ぎつけた

今ならベンチャー企業が一代でグローバル企業に成長するような

キレッキレの改革者


そんなイメージを、持っていた


こういう「付いていきます(おめめキラキラ)」と人を魅了するキャラクターは上司にしたい戦国武将ランキングや、あなたが好きな戦国武将ランキングなんかの企画で織田信長が上位にいることからも、人気があるんだなぁ~とわかってもらえるはず


しかしである

詳細な年数は言いたくないがかれこれもう何十年も昔のこと、日本史をイヤイヤ学び、年号と人名と出来事を覚えることに必死だったあの頃から、織田信長という人物像はかなり変化した

そのきっかけが2020年に開始された解説動画「ゆっくり歴史解説 新説織田信長」(ニコニコ動画/太田うしいちさん制作)である

こちらはニコニコ動画にも関わらず最新学説の論文を含め、出典を明らかにした上で動画を制作するというかなり気合の入ったもので、全編28動画が登録されている


なっげぇ……


と思った方、大丈夫だ

ゆっくり解説であることから、字幕、イラスト、資料をふんだんに表示して、時折茶番や小ネタも挟みつつ進んでいく

何しろ大人になってからの学びはテストがない

好きな時に見て、好きなように楽しむ余裕がある


さて。

あれ、今回信長の解説だっけ???と思われた方もいるだろうので、ぼちぼち本題に入る

(はよ入れ)


そんな新説織田信長を見て、私は目から鱗がポロリしたことがひとつある

それが 国 というものに関する認識だ

私は日本生まれの日本育ちで、幸運にも日本が好きで生きている

日本食が好き、日本の文化も嫌いじゃない、なにより住み慣れているし、なんだかんだ治安が良くて文化水準が高い

どこに行っても清潔で、とても心地よい

お国自慢である


だから、これまで特に「国」などというくくりでものを考えたことがない

選挙や行政機関や裁判所なんかの手続きに「参加」することはあっても、よおし日本を良くするぞー!と意気込んで政治家を目指すとか、街の発展のために公務員になるぞー!なんてつもり、サラッサラなかった訳で

お前がぼんやり生きてるからだ

と、お叱りを受けるかもしれないが、私にとって「日本」というのは天下国家であり、私が暮らす、自分の手が届く範囲の分国とは切り離された存在だ、と改めて認識した訳だ


たぶん、急に天下国家を語りだす意味不明な奴だと思うだろう

まあ、待って欲しい、うん


この「天下」というものと「分国」というものが、つまるところ織田信長の時代には当たり前の価値観であった

天下とは天子さま、つまり天皇が治める朝廷機構をさし、

分国とは大名、つまり織田信長で言えば尾張の領土内をさす

更に言えば天下というのは、現在の日本列島全部!というような規模ではなく、狭義的に言えば朝廷そのものであり、やや広義で言えば京都の公家社会であり、だいぶ頑張って広げた最大限でも、せいぜい近畿ぐらいである


これを知って、目から鱗だった訳だ

何がやねん…と思うだろう、まあ待って欲しい(2回目)


統一国家となった日ノ本の国であるが、江戸幕府は確かに中央集権体制ではあったものの、すべての機能を行政が担っていた訳ではない

特に、商業の発展によって力をつけた商人達は、その財力を「まち」のために使うことが美徳であった

多くの公共事業が大商人達の音頭取りで行われ、また、寺子屋という私的教育機関の自主的な取り組みによって、いわゆる「読み書きそろばん」という基本的な能力は当時の世界トップクラスというよりも、もはや次元の違うレベルで浸透していた

江戸時代に日本にやってきた宣教師達が驚いたのは、農村であっても、道のかたわらで子供が黄表紙を読む光景だ

「文字」というものが一部の高等教育を受けた者達の特権であったヨーロッパでは考えられないことだった


一方、商いに於いても日本独特の「空気」があった

それが三方良しである

商売というものが、ただ儲けるためではなく、地域全体を豊かにするものという根底があった

それも当然だろう

当時の流通規模では、自分の利益だけ追及すれば、とたんに客から総スカンを食らって破綻しかねない

故に、大商人であればあるほど、儲けた財をいかに地域社会に還元するかを工夫した

同じく富を持つものが施しをせよというヨーロッパ文化のノブレスオブリージュとは少し空気が違う、と私は感じる

彼らは支配者であり、持つものが、持たざるものへ施すことで、言うならば天に対してアピールしている

一方、三方良しの商いは支配者から被支配者層への施し、ではないのだ

自らが暮らす「分国」の一員として、地域社会のためにやっているのである

無論どちらにも、持たざる者である末端労働者の恨みを買わない、暴動を起こされない、という予防措置の一面はあるだろう


こういった「分国」の概念は、明治維新を経て「地方」と言い換えられることにはなるが、概念的には消え去ったのではないかと思っていた

明治から昭和初期まで、多くの公共事業が大資本を持つ商人によって担われてきたのは事実である

だが、江戸の頃と違い、音頭号令を取っているのはあくまでも「国」であった

実働部隊は商人であるが、それを命じたのは政府である

つまり、その公共事業は政府の、国の威信につながる


こうして中央集権国家としての「日本」が定着し、東京を中心として、日本の指揮系統の下に地方行政が存在することが「あたりまえ」になった


だが、私を始め、そこに暮らす人の「国」という概念はどうだろうか


極端な話をする

5月1日から、アメリカの52番目の州になります

と、政府が発表したとしよう


私はええええええええええ???????と驚くが、反対はしない

というか、反対をする相手が誰かわからない

アメリカですから、公用語は英語です!と言われて、おそらく困るだろう

私は英語が流暢ではないし、まったくわからんレベルではないが、急にネイティブがネイティブスピードでペラペラ話しかけてきたら、脳がフリーズすること間違いない

ok,ok, slow down plz.

I'm not good English Speaker, ok?

などといって、スマホでdeep翻訳を開くことになる


公用語が英語ということは、役所に出す書類も英語になるのか

それとも州独自フォーマットということでこれまで通りなのか

それはもうアタフタとするだろう

市役所に行く度にげんなりするかもしれない


だが、5月1日から公用語は英語です!

と言われて、近所の人と英語で話すだろうか???

隣のAさん、向かいのBさん、道向こうのCさんと、あらまあ今日も暑くなりそうねえなんて世間話、絶対に日本語でするに決まっている


つまり、私にとって「えぇ…公用語変わるの…円はまだ使える? 預金はどうなるの」なんてことを考えるのが「天下国家」に関わることで、私が普段生活する範囲が「分国」つまり、自分の領土なのだ

非常にナチュラルに、あまりにも無自覚に認識していた為、私はこれまで自分の国について深く考えたことがない

私にとって自分の国とは、国会や行政機関の集まりである天下でなく、自分が暮らすとても住み慣れた地域社会のことだった


私は日本が好きだと思う

日本の食べ物が好きで、日本の文化が好きだ

自分では郷土愛なんてカケラも持ち合わせてはいない、と認識していたけれども、私は私が暮らす奈良という土地がとても好きで、不満がない訳ではないが、そこそこ便利で、そこそこ都会で、そしてそこそこ美しいと思う

ギリシャのような街並みはなくても、ちょっと歩けば薬師寺に興福寺に東大寺に春日大社と文化がてんこ盛りであるとも


もちろん、世界の様々な場所は美しく雄大で、日本を飛び出して世界へ羽ばたいて行く人も多いだろう

それは素晴らしい人生だ、と心から思う

だから、羽ばたける人はどんどん世界を知るのが良い

様々な国を知って、様々な文化を知って、様々な人を知って、世界中で活躍して欲しい

そして可能ならば、日本という国を自慢に思ってもらいたい


天下国家と分国の話。

国ってなんだろ????? と、そんなことを思った



2024.4.29  なごみ游

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