第53話 人間のお医者さん

白くてデカい塔の真似をしながら、病院を総回診してやった。


早く女達に、黒くてデカい棒を抜き差しするアクティビティを楽しみたいので、とっとと掃除しよう。


ミニマップには……、ヨシ!


『敵は』いなくなったな!


では早速、問題の薬剤保管室へ向かおうじゃないか……。




「……閉まってますね?内側から鍵がかかっているみたいです」


『鑑定』の魔法をサラッと使った冬芽が言った。


「だろうね」


「?だろうね、とは?」


「中に、生きている人間がいる」


俺が言った。


そう……、ミニマップ。


視界の端に映る小さな地図は、敵と、味方と、中立の存在の位置が光の点でマークされているのだ。


人間かどうかは分からないんだが、まあこんなところに立てこもる知能がある時点で人間であることは確定的に明らか。


俺はとりあえず、礼儀として声をかけた。


「もしもし?こちら、レオン・S・ケネディだ。生存者がいるな?出てきてほしい」


………………。


無言だ。


「我々は、近くに小さな街を作って生活している。しかし、持病がある人などがいて薬剤が不足しているので、病院にもらいに来たんだ」


無言。


「信じようが信じまいが勝手だが、このままここはこじ開ける。決定事項だ。ああ、それとこちらは銃もある。そちらが開けてくれるなら、手間が省けるんだが?」


んー?


「……今、開けます」


おお、扉が開いた。


中にいるのは……、医者か?


五人ほどの医者……暗くて見えないが、白衣であることはわかる。それと、十数人の女子供。


そして、扉の影から飛び出した男が組みついてくるので、腕を掴んで捻る。


「ぬっ、おおお!」


しかし男は、俺が捻る側に身体ごと飛んで、一回転して足で着地した。


ほう、やるもんだ。


だが、俺の膂力に掴まれたら、人の力では剥がせんぞ?


「はああっ!」


おっ、判断が早い。


俺の掴みから逃げられんと悟り、即座に膝蹴りを腹に放ってきた。


格闘家の人かな?


いや、喧嘩慣れしている……。


ストリートファイターか。


だが。


「無駄だ」


「ぐぬっ……!」


俺は素早く蹴りの軸足を払い、転ばせて。


その勢いで腕を後ろに回して押し倒し、無力化した……。


「人並外れた強さには感服するが、俺の方が強かったな。残念!」


俺は押し倒した奴を蹴り、転がして壁に叩きつけてやる。


そして、腰から抜いたレイジングブルを突きつけ、「詰み」を宣言した。


暗い薬品保管室に、外部からの光が入る……。


「なっ……、お、お前は!」


「あー……?」


おっと、こいつは……。




病院の前にて、俺達は、持ち込んだ保存食を食べていた。


本当は弁当を食いたかったのだが、人数が増えてしまったので行き渡らなかった……。


保存食?ブロッククッキーみたいなアレだよ。


「まさか、ここでお前に会えるとはな……」


そう言った厳つい大男。


こいつは、俺の医者時代の先輩……。


「滝沢ニキ」


「ニキはやめろ」


滝沢謙十郎だ。


「帰国していたのか?」


「ああ、最近はコロナもあったからな……」


この滝沢謙十郎は、腕の良い外科医のおじさん。


だが、意識が非常にお高く、この前までは国境なき医師団……要するに治安の悪い外国まで行って医療行為をするボランティアみたいな集団にいた、善人様なんだよね。


だから、外国語ペラペラで、護身のためにムキムキ、柔道と空手の黒帯持ち。


そんな人とは、まあ……、ソリが合わんよね。


あくまでも技能習得という私利私欲の為に医者をやって、すぐ辞めた俺。


人を救い、貧しい人でも医者にかかれるように、ボランティア紛いの仕事をやる滝沢ニキ。


真逆の存在だ。


だが別に、お互い憎しみとかそういうものはなく、腕そのものは信頼し合っている。そんな仲だな。


「お前は何故ここに?」


「薬品を集めに来た。ウチのコミュニティで使うからな」


「コミュニティ……と言うのはつまり、人を集めているのか?」


「そうなるな。今、港に客船を確保しているんだが、中がゾンビまみれで拙い。手下共に病院の滅菌服を着せて除染させたいと思ってな」


「滅菌服……。では、あれはウィルスか?狂犬病のようなもの……いや、医学的にそれはありえないはず……」


「この世界の医学ではありえないかもな」


「そうか!いつぞやの、中国の異次元ゲート接続の……」


「そういうことだ。異次元由来のウィルスだな。だが、滅菌消毒や抗生物質の投与は有効だ」


「ああ。俺も噛まれたが、抗生物質を投与したことで生き延びた」


「そんな訳で、薬品が必要なんだよ」


「ふむ……、分かった。協力させてくれないか?そして良ければ、助けてほしい」


おお、流石は人格者。


ちゃんと頭を下げて頼めるタイプの人だ。


「良いけど、俺は割と恐怖政治やってるからな。善意で反乱とかするんなら、本当に殺すぞ?」


性奴隷制度とか、文句言ってきそうなんだよなー、この人。


「……そうだな。お前は、殺すと言うのなら本当に殺すだろう。だが、それが最善ならば、私は従おう」


ふーん。


まあ、気が合わんでも、医者の存在は助かる。


ダメなら殺せば良いだろう。

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