第50話 そろそろ娯楽を配布しないと死ぬぜ!!!

病院を攻める。


そして、薬品の類を集めてくる。


防護服もだ。


期限切れの薬品も、なんだかんだアイテムとして認識はされるからな。


消費期限が切れて変質した薬品も、それはそれで使い道はある。ビタミンなんかは光で分解されてしまうだろうけれど、中には、劣化すると毒になったりするものもあって……、まあ、色々とな。


他にも、細菌の培地とか、研究用のウイルスとか、そう言ったものも欲しい。何かしらの役には立つ。


最悪、リンとか窒素とかのレベルで分解して肥料にすれば良いし、ゴミでもあって困るもんじゃない。


いやでも、マジでこの、インベントリ機能は謎過ぎるからな。UIは分かりやすいんだけど、原理がね?


俺の筋力依存でものを持ち歩けるんだけど、どこに物をしまっているのかは謎という……。


アイテムボックスのスキルかな?俺も本当なら異世界転生が良かったなあ……!


ファンタジー世界で奴隷ちゃんを買ってさあ!「俺、なんかやっちゃいました?」ってさあ!……んん?普通にこの世界でやってるなそれ。


で……、このインベントリの機能。


これ、マジで意味が分からなくてさ。


薬品を拾って専用の作業台で分解すると、本来なら単離できない成分が単離された状態で所持品に加わるんだよね。キモ過ぎる。


そしてそれを、相変わらず謎のクラフトコマンドから、何故か合成できてしまう……。


ゲームのレシピに準拠しているのでできないことの方が多いのだが、それでも圧倒的に便利なんだよなあ……。


本来なら、薬って、作るのにも保管するのにも大きな施設と電力と……と、色々必要なのは、それこそ素人でも分かるじゃん?


それが、過程をすっ飛ばして、原材料と作業台さえあれば作れるんだから本当にスゲェよ。


ついでに言えば、それを、インベントリに入れている間は常温でも保存できちゃうのも凄い。素晴らしい。


そして更に言えば、時折、アイテムIDの中にある「レシピブック」なる謎の小冊子を読むと、脳内にいきなり知らないものの作り方が思い浮かんで、クラフトできるレシピが増える。


いや本当に、時間は俺の味方だなあ。




だが、流石に、年単位でここに立ち往生って訳にはいくまい。


現状、手下共には、仕事を殆ど割り振れていないからな。


兵隊は、拠点に近付くゾンビを射殺(ゾンビが生きているかどうかの議論はもう面倒だからしない)したり、訓練をしたりと忙しそうだが……。


資材管理部は、資材がある今、記録をつけることだけしかしない。


人数も高々数百人。犯罪とかも中々ないし、裁判もない。


精々、盗み喰いをやったガキを裸にひん剥いて、革ベルトで鞭打ちしたくらいだ。


鞭打ち刑だなんて、中世みたいだなあ。実際、中世レベルの文明にまで後退しているから仕方ないんだが。


子供達は、とりあえず四則演算と文字の読み書きくらいはできないと困るので、勉強をちょっとやらせている。


が、まあ、大半の人間は、やることがない。


なので、俺が購入しておいた映画やアニメのデータを、他端末に違法コピー(まあもう法律は機能してないが)したもので、プロジェクターを使ったホームシアターをしたり……。


少量の木材や石材で作れるボードゲームなどを配布したり、後は廃棄された本屋、ネカフェなどから娯楽本を拝借して持ってきたりなどして、どうにか娯楽を提供している。


いや正直、娯楽って、ないと人間おかしくなるから……。


被災地の人間が娯楽を楽しんでいると「不謹慎だ!」とかいうキチガイがたまにいるけど、辛い状況こそ、気晴らしがないとマジでヤバい。


中世の軍隊にも音楽隊や娼婦がついてきていた、なんてことは、戦史を齧った奴は大抵知っているはずだ。


刑務所にだって、週に一度月に一度は映画を見せてもらえる、とかもよく聞く話。


コロニー経営ゲームみたいに、精神負荷で発狂した村人に放火されたりとか喧嘩が始まったりとかすると、マジでダルいのだ。


なので、俺の村人(予定)達のメンタルにも、ある程度気を配らなくてはならない訳だな。


そうやって、村人達に配慮をしたら……、そろそろ出発だ。




「えー、では、遠征をします。冬芽、透、エレクトラ、無子は俺に同行。威貴とミラは、拠点に残ってリーダーをやっておいてくれ」


「ま、待ってくれ!」


おや?


「どうした、ミラ?」


「わ、私も!私も連れて行ってほしい!必ず、貴方の役に立つ!私の価値を証明させてくれ!」


あー……。


ミラは焦っているみたいだな。


なんだかんだ言って、女達の中では出会ったのが遅かったからか一番弱いし、最近は事務とかもやっていて鍛える時間もあまりないらしいし……。


使えるアピールをして俺に気に入られないと、今の立場を失うと思っているみたいだ。


リーダーとして、相当な悪事もしたし、偉そうにもしていたらしいからな。それなりに恨まれているだろうよ。


俺に見捨てられたら、恐らくは最底辺に転落するんじゃないかな。


今はかなり弱肉強食な世界な訳で、法を守らせる警察もないんだから、立場を失うと人権侵害をされても文句言えなくなっちゃうのよね。


「ミラ、そんなに焦るな。俺はお前を信頼している。内務をしたり、人を動かしたりすることも、仕事として認めている。心配する必要はない」


「し、しかし!」


「……まあ、そこまで言うのなら、連れて行っても構わない。最初から、俺一人でもなんとかなる仕事だ」


「え……?」


ん?


ああ、そういうことね。


「冬芽達四人を連れて行くのは、こいつらが側近であるとかそういう話ではない。こいつらは頭がおかしいので、俺が側にいないと何をしでかすか分からないからだ。本当に戦力が欲しいなら、最も強いであろう威貴を選ぶよ俺は」


「ああ……、うん……」


「納得したか?まあ、来るなら来るで構わない。敵を倒すと効率的に成長できるしな。装備はあるか?」


「装備は、武器庫で管理されている。ライフルを使っても?」


んん?


こいつ、自分用の武器も持ってないのか?


……いや、自分を特別扱いしないことで、組織への服従を示しているつもりなのか。


偉いなー、この子。


俺のパーティメンバーで一番まともなサイコパスなんじゃない?


「ミラ、お前は兵隊達のリーダーになる、特別な人材だ。私的な武装を許す。お前用に装備を作るから、それを私物として所有して良いぞ」


「あ……、ありがとう、大リーダー!」


パッと明るく笑うミラ。


とても可愛いが、ちゃんとサイコパスなので安心してほしい。


俺の周りにいる奴らは、俺以外全員サイコ野郎だ。


「いや本当に、大丈夫だからな?ミラは射撃も上手くて体力もあり、人も率いることができて、事務作業もできる。ついでに、身体の使い心地も良い。このコミュニティに必要な人材だ、末長く大切にするぞ」


「だ、大リーダー……♡」


えぇ……。


好感度ゲージ爆上がりしてるんだけど。


これ、女の子が惚れる時の口説き文句じゃなくないか?


怖いよこの女も……。

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