第47話 通貨単位が猫の世界みたーい!

神戸港。


俺はここに、仮拠点を建てた。


コンクリートの二重防壁に、固定砲台のバリスタ(お手製)。


鉄の門に、木組の高台。


銃を持った防衛隊……。


港の倉庫いっぱいに物資を詰めて、開いた倉庫は仕切りを立てて寝床に。


足元のコンクリを「クラフトコマンド」の「解体」でくり抜いて、海水を汲み上げて浄水器に通して風呂を作り……。


同じく浄水器を通して真水にした海水を使って、煮炊きをしている……。


あ、この浄水器だけど、最初っからトレーラーハウスの下水タンクに付けてるアレだぞ。


なんか異次元由来の謎フィルターだな。塩水どころかゾンビウイルスすら濾過して、不純物を消滅させる謎の膜。こわいね。


さて。


季節は秋、それも暮れてきた頃。


俺はリーダー陣を集めて、今後のことを話し合う会議をすることとした……。




ホワイトボードや黒板などという、気の利いたものはない。俺もまだ出せない。


ないので、ガラス板の裏面に白いペンキを塗って、表面にマジックペンで文字を書くことで代用とした。


ガラス片は、そこらじゅうの建物をクラフトコマンドで解体しまくったので、かなり余裕があるし、白のペンキは近くのホムセンから。ペンはコンビニかな。


で、ボードに文字を書く。


ミッション、と……。


「まず、現在この神戸港に仮拠点を築き、生活が可能な最低限の施設を揃えた。これは、全員の間で同じ認識ができていると思う。そして、船が……」


俺は、船の絵を描いて、「おふね」と落書き。書いたのはもちろん、戦艦ドゴス・ギアだ。


「船は見つかったな。大型の、数百人が搭乗可能な、客船が」


会議をしている倉庫前からも、海に浮かぶ巨大な船がよく見える。


大型の豪華客船、日本でも十隻もない、最大クラスのもの。『明日葉一号』という船だ。


「俺達の目標として、北海道南部にある実家の『湯越村』を目指し、そこで永住する。これはいいな?」


全員が頷く。


「だが、これには問題がある」


俺は、ボードに文字を、赤ペンで書く。


《船が動かない!》


「船が動かないんだ。理由は三つ。『燃料不足』『整備不良』『ウイルス汚染』……」


具体的に言えば、この客船で逃げようとした人がいたらしいのだが、失敗したそうで。


内部は血とゾンビに塗れており、こんなに汚れていてはうちのコミュニティの人々を乗せられないのだ。ウイルス汚染がありそうだからな。


そして燃料もない。長々と放置されていたから、ちょっとした整備も必要……。


《燃料調達》

《整備部品調達》

《船内清掃》


で。


「船内の清掃だが、これをやるには人手が必要だ。しかし、掃除中にウイルスにやられてゾンビになられても困る。故に、『防疫服』と、ゾンビウイルス感染を治すための『抗生物質』が大量に必要だ。なので……」


《病院探索》


の必要がある。


そう、俺は宣言した。


正直、少量であれば、保管している素材を使って抗生物質やゾンビウイルスのワクチンもクラフトできるのだが、全員分にはとてもじゃないが足りない。


様々な薬剤を病院から根こそぎ奪って、なおかつ、防疫服なども手に入れないと、今後がキツいのだ。


「しかし、俺が長期でこの拠点を離れると、食材不足や不和が起きてしまうかもしれない。なので、これから三ヶ月かけて……」


《保存食生産》

《拠点内の安定化》


「この二つだ」


「あとはそろそろ冬なんで、防寒着なんかも欲しいっすねぇ」


威貴が言った。


良い意見だ。


《冬対策》


と、ボードに書き足す。


「そして、船の整備だが、これは俺が何とかする。しかし、機材やパーツが必要になるだろうから、その探索もあるな」


《船のパーツ探し》


こんなものか。


「……全部、貴方がやるのか?」


ミラが聞いてくるが……。


「だって、俺以外に任せたら死にそうだし……」


「手伝えないか?戦力になるはずだ」


「お前らは、北海道で畑を耕してくれればそれで良いよ。数減らさないようにして?人間は増やすのがめんどくさいから……」


これなんだよなあ、最大の理由。


ゾンビも、モンスターも、人間を媒介して増えたり繁殖力が高かったり、或いは次元の果てから無限に現れたりする。


対して人間は、一人前になるまで二十年はかかるだろう。


圧倒的に、不利なんだよね。


だからなるべく、数を減らしたくない。


減らすのは一瞬だが、増やすのは本当に難しいから。


人間牧場とかやっても、中身のない人間しかできんしな。人間を人間たらしめるのは、充実した教育、即ち社会システムなのである。


そんな訳で、人間は高価なパーツなので、なるべく大事にしたいのだ。


俺はそう説明した。


「……なるほど、貴方がそう言うのならば、是非もないだろう。ならば私は、留守を守ることとしようか」


うん、そうして。


「では早速、拠点の安定化を目指すぞ」


「え?病院が先じゃなくて良いんすか?」


威貴が手を挙げる。


「水薬系はもちろん全滅だろうな。だが、錠剤や、調合前の薬なら普通に常温保存されているはずだ。取りに行くのは年内ならいつでも問題ない」


後は普通に、腐ったり変質したりした薬も、作業台で解体してやれば「化学物質」系統の物資に変換できることは既に確認できている。


病院でスカベンジングをすれば、得の大小はあっても、損することは絶対にない。


「よし、じゃあ拠点の安定化の為にやれることを考えていくぞ。まず〜……」


こうして軽く話し合いをして、今日の午後から早速行動を開始するのだった……。

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