第46話 狂人:心なき君臨者

ミラ・グラーク。


ロシア系アメリカ人。


ロシア系とは言うが、ロシア人だったのは三代前で、今は混血が進み金髪の白人であること以外は目立つ人種的特徴はない。


背が高く、すらっとした体型。胸のサイズは控えめ。


金髪、ストレートロングで、碧眼。黙っていると怖いと言われることが多いので、意識して笑うようにしていた……こうなる前は。




別段、私はそこまで重く考えてはいなかった。


こうなる前、世界が終わる前では、私は可能な限り笑顔を維持し、敬虔なクリスチャンを装い、日本に不慣れな可愛い「ガイジン」を演じてきたが。


それは、その方が有利だったからだ。


愛想のいい女には、どんな男も、女すらも態度を軟化させる。自分の意見を通しやすくできる。


敬虔なクリスチャンであることも、その方がアメリカでは何かと都合が良かったし、両親も褒めてくれた。


特に、日本に不慣れな「ガイジン」を装うのは、本当に得をしたな。片言で喋って、ニホンゴ苦手ですーだなんて言えば、周りの人間達は勝手に私に忖度してきたものだ。


だが、世界が終わった今は違う。


笑わない、油断しない。敵は容赦なく、そして率先して殺す。


銃の扱い、ボーイスカウトで学んだサバイバル術。崩壊後はすぐに、ライフル射撃部の部室へ向かい、愛用のライフルと持てる限りの弾薬を持って殺しまくった。ゾンビも、敵も。


人間味を見せないこと、苛烈な殺戮を見せること。それは恐怖を与えると同時に、力を見せつけることとなる。故に、離反者は少なかった。


クズ共に寝込みを襲われないよう、罠を張り見張りを立てて一人で寝る。用をたす時も銃を抱えてした。


舐めた奴はリンチして、敵や離反者は処刑する。容赦なく……、そして大きな苦痛を与えて、残酷に残虐にだ。そうすると、腕力で私に勝るような男達も、仔猫のように怯えて逆らわなくなった。


私は強く、恐ろしいリーダーを演じた。


女らしい媚入れや猫被りではなく、純粋な強さと技能が尊重され、尊敬される世界になったからだ。


私は戦略を変えたのだ。


ドレスコードでカジュアルからフォーマルに着替えたようなものだ。何もおかしい話ではない。


ああ、なんだか「ミラちゃんはそんな子じゃないでしょ?」だの、「元のミラちゃんに戻って!」だの、訳の分からないことを言う女もいたな。そいつは使えないから、性奴隷にして男共にくれてやったが。


何にせよ、私の行動には一つも間違いなどなく、上手くやれていた。


大リーダーことリューヤ様の下についたのも、正しい選択だったと自負している。


拠点である高校を捨てて、足手纏いを連れての強行など正気じゃない。


が、しかし、漁業組合で見つけた、あの物資の量……。


大量の米、牛乳パック、フルーツに干し肉。


新鮮な「生」の食品の痕跡。


あの時点で、世界が滅んでからもう二、三ヶ月が過ぎており、保存食以外は口にできていなかった私に、「生」の食材の気配は驚きだった。


特に牛乳。


日本の牛乳は、アメリカのそれと違って十日もすれば腐って飲めなくなる。


今や、牧場経営などできる世の中ではないだろう。牛だって、生存している個体が日本にいるかどうか。


それが、何故かあった。


新鮮な牛乳が、どこからともなく生み出されていた。


製造年月日が印字されていないことも気になったな。まるで、「今作った」かのような……。


これを見て私は、「欲するものを作り出す」という規格外の超能力者の可能性を考えた。


超能力者自体も、存在することは知っていたしな。


「砂を生成して操る」「電気や電磁波を自在に操る」「触れたものを鋼鉄に変化させる」など、色々な能力者がいるらしい。テレビで見た。


とにかく、リューヤ様の力は本物だ。


私は、彼の下につくことにした。


部下共にも愛着はないしな。男共はクズだし、女達はまあ、一部は使える奴もいるが、私の身より優先する人間はいない。


そしてその後、チェックポイント……物資集積所に残された大量の物資の山を見て、私は、リューヤ様の部下になると完全に心を決めた。


あの物資の山は、そう思えるくらいに量が多く、質も良かったのだ。


特に、補充のアテがない武器の弾薬や、手榴弾の類を与えられたのは最高だ。


残弾を気にせず撃てるようになり、どんな敵も怖くなくなった。


リューヤ様の指示に従い、道中に出会した他のコミュニティから、若い女や子供、戦える男や技術者に医者などを引き抜いて、大量の物資を与えて懐柔。


そして、ライフルによる武力を見せつけて、下の連中が逆らえないようにした。


もしかして、全てが。


上手く、行くんじゃないかと。


こうなって初めて、希望を持てた……。




そして、リューヤ様と出会ってからは、それは確信に変わった。


230cmはあろう、筋肉の塊。


理外のパワー、鋼の肉体。


鷹揚ながらも冷酷な人格に、医療及び工学の知識……。


そして何より、虚空から物資を生み出す「超能力」……!


私は、彼になら身体を使わせてもいいと思った。


無駄に取っておいた処女膜を、彼に捧げて歓心を買おうと。


そんな、弱く浅ましい女が思うようなことを、本気で考えてしまうほどには、彼に惚れ込んでいた。


いや、それは顔がどうこうではない。確かに、顔も素晴らしいが、私はそこまで相手の顔にこだわりはないからな。


私が惚れ込んだのは、その能力だ。


彼になら、自分が集めたコミュニティの全てを委任しても安心できると思ったし、私も守ってもらえると、養ってもらえると確信できた。


だから私は惚れた。


誘惑などはやり方がわからなかったが、とりあえず、なんだかんだと理由をつけて彼に抱かれた。


初夜だからと、優しくお相手されたな。笑えるものだ、私のような非人間を、女扱いするとは。


私のことは、今後は愛人枠ということで、軍権を任せると言ってきた。


補佐にしばらくはイタカがつくそうだが、三年を目処に兵隊の総指揮を私に任せる、と。


それは、私が大リーダーの妻となることで、私のコミュニティとリューヤ様のコミュニティの融合を促進すると共に、私に大きな権利を与えて私のコミュニティの格を下げないという意味もあるだろう。


存外、政治もできる方だと感心した。


まだ、彼を愛しているかは分からない。


だが、優しく性行為してもらえると素晴らしいストレス発散になるし、物資や戦力の不足で頭を悩ませることももうない。リーダーとしての重荷からも解放され、生活の質も何倍にも上がった。


それは、少なくとも。


私が彼に、大きな尊敬の念を持つには、充分過ぎる出来事だった。


愛はまだない、しかし、尊敬はある。


このままの関係が続けられるのであれば、彼との間に愛が芽生える日も、そう遠くはないと思えた……。






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ゴールデンウイークも終わったし、書き溜めはもうねえよ。

はい解散!解散ー!

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