第39話 実を言うと、主人公はもうだめです。
伏見稲荷神社コミュニティ、その入り口である駐車場で、俺は取引をしていた。
缶詰を運び込み、人々の前に晒すと、大きな歓声が上がる。
大量のまともな食料を、コミュニティの住人全体に見せつける……。
これはそう言う策略だな。
いかに永見が凄いリーダーだとしても、まともな食料の山に熱狂した、コミュニティの全ての人々を完全に抑えることはできない。
目の前に、コミュニティ全ての人々の口に入る分の食料があるんだからと、コミュニティの人々は全員、永見に「取引を受け入れろ!」とせっついてくるだろう。
「……やってくれたな、お前」
永見がそう言いつつ、冷や汗を一筋流す。
俺の策略を理解したんだろうな。
「さあ、なんのことやら?それより、取引をしてくれないと、そちらのコミュニティの住人が暴動でも起こしそうだが?」
「ッチ!分かった!車でもなんでも持って行け!但し、缶詰はダンボール二箱分は最低でももらうからな?!」
「それで銃の方だが」
「銃は譲れん!」
「ショットガンと交換でどうだ?」
ショットガンは、弾薬は手作りだが銃本体は出せるからな。
「……分かった、それで良い」
そして、銃器弾薬を買い取ったその夜に、「銃器製造装置の設計図」と「弾薬製造装置の設計図」がアイテムIDガチャで出てきた。キエエーッ!!!!ぶち殺すぞ!!!!
折角なので、製造装置を作って動かしてみることとする。
まず必要なのは、製造装置に使う電力を生み出すジェネレータなのだが、まだレシピがない。しかしこれは、車にある軽油駆動の発電機で代用しようと思う。電圧?変圧器作るわそんなん。大した手間じゃねえ。
そして製造装置なのだが、必要素材が足りないのでその辺の工務店を漁ることにした。
銅、アルミ、ゴムと色々必要っぽくてな。
この「設計図」系統のアイテムは、幾らかの素材アイテムと組み合わせてクラフトすることで、施設や装置を作れるものだ。
「わざわざそんなの作る必要ある?」と言う疑問もあるだろうが、この「設計図」から作り出される装置は大抵、物理法則狂ってる系なのであった方が楽だぞ。
例えば、弾薬製造装置は、「肥料」「酸」「鉛」「真鍮」を使ってクラフトを実行すると、拳銃弾レベルなら大抵なんでもできちゃう。内部構造は完全に謎(設計図あるのに)だが、とても役に立つな。
まあ、素材集めには大して手間もかからん。
それに、一度作ってしまえば、先ほど手に入れた大型バンに載せられるサイズだし、故郷に戻った時にも継続して使える。そう思えば無駄ではない。
俺がいない間、女達やトレーラーが狙われるとめんどくさいので、トレーラーの車載M2ブローニングを軽く試し撃ちして見せたところ、誰も彼もがビビって近寄らなくなった。ヨシ!
で。
軽トラも神社コミュニティから購入したので、その荷台に工務店などからもらってきた素材を満載して、筋肉パワーで牽引してきた。
サバイバリストはショッピングカートに物を載せて移動するらしいが、俺くらいになってくると軽トラをショッピングカート代わりにできるのだ。筋肉は裏切らない!
ドン引きする神社コミュニティの連中を他所に、俺はクラフトコマンドでパッと一瞬で製造機を作る。
それに発電機を繋げて……、これで良し。
そこに、鉄板やプラスチック、肥料などのアイテムをどばどば押し込むと……。
謎のプレス機械が謎の煙を出しながら、謎の効果音と共に、銃器や弾薬をベロンと吐き出してきた……。
「……ヨシ!」
「良くないんだけど?!!!」
透が悲鳴を上げた。
「何……、この、何?どう、どういう……、仕組み?」
「俺にもよく分からん。けど動くのでヨシッ!!!」
「それエンジニアとして一番ダメなやつゥッ?!!!」
でもそうとしか言えないし……。
「その辺の話をすれば、お前の親戚なんて魔術師じゃん?魔術の方がよっぽど意味分かんなくね?」
「それはそうなんだけど……!」
頭を抱える透をスルーし、俺は次の仕事に取り掛かる。
次の仕事はもちろん、最初に言った通り、人材集めだ。
人材集めの告知をする為に、俺は社務所に出向く。どうやらここに人々が集まっているようだからな。
俺が社務所に入ると、人の波がさっと引く。
「人員募集の件はどうなった?」
神社コミュニティのリーダー、永見は、俺を見て言った。
「もういなくなったよ、そんなもん」
「何故だ?」
「アンタ正気か?いきなり機関銃を撃つようなヤバい奴に、誰がついて行くんだよ!」
おっと、正論。
ううん……、やっぱりこんな感じになるか。
俺達は最早、頭世紀末だから、正常な世界の姿がもう分からないのだ。
俺個人としても、まずは盗まれたり襲われたりしないように、獣が如く威嚇して格付けを済ませて、それからコミュニケーションを取るのが正しいとしか考えられない。
無論、所謂「正常」な人間は、そうは思わないのであろう。
しかし、もしこのコミュニティにも、俺と同じような世紀末思考の奴がいれば、ワンチャン狙いでトレーラーを襲撃してもおかしくはない……。
ヤバい奴がいる前提の動きをする俺も、普通の奴からしたらヤバい奴なんだろうが、もしもヤバい奴と出会った時の対処法はこちらがよりヤバい奴になるしかないんだよね。
「そう言われてもな。外の世界じゃ、これくらいやらないと襲いかかってくる奴なんてザラだぞ?」
これはマジ。
実際、秒で蹴散らしているから描写していないだけで、移動の最中に悪党に襲撃されたことも一度や二度ではない。
普通のアホは普通に襲いかかってくるが、頭使うタイプの奴は罠を仕掛けたり、言葉巧みに取り入ろうとしてきたりする。
そういうことが何度もあったので、俺はめちゃくちゃ警戒しているのだ。
そんなことを俺は説明した……。
「そうだとしても、もうアンタには誰も近寄らねえよ。取引はしたろ?頼むから、もう出てってくれよ……」
うーむ、とりつく島もない。
ならこうしようか。
「人員募集に当たって、まずは簡単な労働をさせたいと思う。日雇いだ」
「何を」
「対価は、まともな食料でどうだ?握り飯と水くらいは出すぞ」
瞬間、社務所でこちらを見ていた、コミュニティの住人達が騒ぎ出す……。
「米?米って言ったか?!」
「米なんて、もう三ヶ月は食べてない……!」
「水……?お母さん、水がもらえるの?」
そうだろうな。
このコミュニティで主食となっている、放射能変異野菜……。
アレは、不味い。
不味いし、野菜だけでは栄養バランスが偏る。
最低限のビタミンはあるだろうが、糖質不足で体力は底をつき、タンパク質不足で筋肉が落ちて細くなり……。
肌も荒れ、髪も抜け、全員が力を失っているのが分かる。もう三ヶ月もすれば、ゾンビと見分けがつかなくなるだろうよ。
調達部隊が外部から飲食物を探すのも、そろそろ限界なんじゃねえの?もう、漁れる所は漁り尽くしたでしょ。
とにかく、そんな可哀想な人々に、この俺が慈悲を与えてやろうってんだ。
「何か文句でもあるか?」
「いや……、ない……」
そういうことよ。
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