第28話 サマーシーズン到来!

漁業組合の吉岡を名乗るおっさんと、取引を始めた。


漁業組合の倉庫前に俺のトレーラーを停めて、中から米を提供する。


後、俺が大分前にコンソールコマンドで出した卵は、どうやら有精卵だったらしく、温めてみたら卵が孵った。その鶏を分けてやった。まあ、まだ卵を産めるほど育ってはいないけど、魚粉でも餌にすれば良いんじゃないかな?


吉岡はそれを喜んで、俺に大量の魚をプレゼントしてくれたし、釣具とかもくれた。


それで、堤防で、冬芽と透の二人と、釣りをして過ごす……。


しばらく休暇だな。


吉岡のおっさんから貰った魚は、全部捌いてもらって、冷凍庫に放り込んだり、干し魚にしたりと加工した。


素材レベルまで解体すれば、賞味期限もクソもなくなるから、物資はあればあるほどよい。無論、素材レベルまで解体すれば、加工なしでは食べれなくなるんだが。


この釣りは遊びでありつつも、吉岡のおっさんから習った釣りの技法を使って行うスキル上げでもある。スキル上げはライフワークだ、楽しいなー!


……にしても、もうすっかり夏だ。ここ数日で急に暑くなってきたもんな、やはりこの国に四季はねえ、極暑と極寒しかない。


とにかく、熱中症にならないように、二人には保冷剤をタオルで巻いたものを首に巻かせておく。


「世界が滅んでも、夏は来るんですね……」


「そらそうよ。世界が滅んだってのも人間から見たらの話で、大自然サマはんなもんこれっぽっちもお気にならさんだろうぜ」


「うう……、暑い……。夏なんてなくなれば良いのに……!」


「えー?アタシは夏好きだけどなー」


「嫌いですよ夏なんて……。何もいいことないじゃないですか……」


「そりゃ、冬芽姉様が陰キャだからでしょ?友達と海行ったりとかしないんすか〜?」


「海……?何故、泳げない私が、溺れる危険性のある海へ行く必要が?非論理的ですよ……」


「……姉様、マジで高校生だった?普通、彼氏とか友達とかと海行って、夏祭り行って、カラオケでオールしたりするじゃん?なんかアタシおかしいこと言ってる……?」


「ふ、不潔ですよ……!学生は学業に専念して、不純な異性との交友は避けるべきでしょう?!」


「えー?じゃあ姉様は、旦那に抱かれなくって良いの〜?」


「そ、それは……!お兄さんとの行為は、愛し合って行っているので問題ありませんからっ!私、お兄さんと結婚するので!」


「おっ、釣れた」


「「お刺身!!!」」


和やかに会話しながら、適当に釣り。


結構釣れたな、十匹くらいか?


昼頃には、全部捌いて刺身にする。


醤油はこの前出せたからな。刺身醤油じゃないのが惜しいが、まあ良いとしよう。


これと、山盛りご飯!


野菜が足りないが、それは、その辺のスーパーから回収した漬物パックを開いて食べる。


スープは、麩のお吸い物にした。麩もだし汁も、その辺の店で回収した干物と出汁の素だが。


「おおいひぃ〜!!!」


「うまっ、うまっ!もぐもぐもぐ!」


ちょうど季節の鯛と、あと鯵は乾燥ネギとニンニクチューブを混ぜて叩いてなめろう的なものにして、鱸とかはバター焼きにして。


久々の新鮮な魚の味は、本当に感動的だ。


氷でよく冷やした刺身はプリプリで、脂はとろけるように甘い。


なめろうの強い塩気は、夏の暑さで失った電解質を補充してくれる。ジャンクフードの強烈な塩気と油分ではなく、その時の身体に足りないものこそが本当に美味いものなのだと分からせられる。


バター焼きも良い味を出してくれているな、醤油を垂らすとご飯にバッチリ合う。


うめえ……!うめえなあ……!


残念なのは、マグロとかが手に入らないことか。


マグロは、岸からじゃ無理で、船で取りに行かなきゃ無理なんだそうだ。


船も、もう燃料がなくて動かせないとか……?


吉岡さんに聞いてみるか。




食後、俺は漁業組合の建物を訪ねた。


「吉岡さーん!」


「お、どうしたんだ?」


「マグロある?」


「いや、ねえなあ……」


ああ、やっぱり無理か……。


「燃料さえあれば獲ってこれるし、捌いてもやれるんだけどな」


「船の燃料っつったら重油でしょ?重油はねえなあ……」


「近くに重油を集積している会社があるが……、車がなあ。軽油ももうなくてな」


うーん……、そこまでやってやる義理もないしな……。


「まあ、重油が手に入ったら、北海道の湯越村を目指すと良いぞ」


「ん?どこだそこは?」


「俺の実家なんだよ。『鬼堂さんに会った』と言えば、受け入れてもらえるかもな」


「ふーん……、考えておくよ。けど、それならもっと、佐渡とかの離島が狙い目じゃないか?」


「耕す土地が無さそうだがなあ……」


「あー!そうかもな、飯が食えんのは辛いわな……。やっぱり日本人だからよ、白飯がよぉ……」


「ま、米の余裕ならあるから、魚の提供と、魚捌いて切り身にしてくれりゃあまだ渡せるぜ」


「おお!本当か?!じゃあ、うちのかあちゃん呼んでくるわ!かあちゃんは魚捌くの早えんだぞ〜?」


マグロは無理だったが、他の魚の用意はできた。


魚を漁業組合に避難している漁師一家に頼んで捌きまくってもらい、素材を大量ゲット。


『魚肉』や『魚骨』、『魚油』は、クラフトすることで肥料や魚肉ハム、燃料なんかにできる。


……味?味はまあ、普通に魚肉ソーセージ的なアレだ。


クラフトコマンドでできるのはサバイバル食や保存食なので、栄養価以外はあんまり担保されなくてね……。


刺身?寿司?煮付けにムニエル?


それはサバイバル食ではないね。


まあムニエルや煮物はできるけど、『魚肉』からはできない。素材アイテムではなく、フードアイテムの『魚』を料理クラフトして作るものだ。


因みに、料理クラフトは、クラフトコマンドなので一瞬でできるメリットがあるが、俺がちゃんと一から時間をかけて作った方が味は美味いから一長一短だね。


「まあ、軽油ならあるから、良かったら取引するか?」


「おお、軽油か!とすると、トラックは動かせるか……?いや、発電機に繋ぐのもアリだな。あ、魚でいいか?」


とにかく、俺はこうして取引をした。


理性的な生存者は助かるなあ。

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