第27話 せっかく海に来たんだから、海に行こうぜ!
「メタクソに魚が食いてえ」
よく考えると、魚食ってねーわ。
そう、海。
海近いじゃん。
この辺だと四日市とかがデカい港かな?
「さ、魚、ですか?」
冬芽が言った。
「そう、魚!この時期は鯛とか美味いぞ!」
「鯛!良いなあ、アタシお刺身食べたい!」
透が言った。
「良いぞー、活け作りでもなんでもやっちゃるわい」
「やったー!」
「そろそろ夏だし、しばらくはバカンスするっかぁ〜!」
四日市に着いた。
道中のゾンビは普通に蹴散らして、海の近くに陣取る。
無論、砂浜には侵入せず、近くの道路に路駐した。
まずは、コンソールで周辺マップを開いて、周囲のゾンビを蹴散らす。
『ふご、ごが、あぁ』
あ、進化してる。
そろそろゾンビも進化する時期かあ。
このゲーム、ヌルゲー化を防ぐ為に、時間が経てば経つほどゾンビが進化する設定にしてあるんだよね。
初期状態では、「普通ゾンビ」「マッチョゾンビ」「デブゾンビ」「子供ゾンビ」「動物ゾンビ」の五種類が存在する。
それぞれの説明は不要だろう。
マッチョゾンビは力が強い、デブゾンビは肉で弾丸を逸らす、足立区民はチャリ盗むみたいな、そんな不思議生命体を引っこ抜いて戦わせるゲームみたいな歌に乗せて語っても良いが、正常なゾンビコンテンツ愛好家達は既に「知ってた」と返すはずだからな。
で、そんなゾンビだが、時間が経ったり、特定の条件下に晒されたりすると、『進化』という現象が起きて強化される。
普通のゾンビなんて、装備が揃ってきた上級プレイヤーからするとカス同然だからな。ゲームに飽きが来ないようにと、我々製作陣からの小粋なプレゼントだ!ってことよ。
時間経過では、それぞれのゾンビは「ランナーゾンビ」「怪力ゾンビ」「酸吐きゾンビ」「大声ゾンビ」「腐獣ゾンビ」に進化する。
つまり、ゾンビが走るようになる訳だな。
今までは、走って逃げて家のドアを閉めておけばどうにかなるゾンビだったが……。
これからは、ランナーゾンビが走って追いかけてきて、怪力ゾンビがドアを突き破り、酸吐きゾンビに遠距離攻撃され、大声ゾンビが他のゾンビを呼び寄せて、腐獣ゾンビが汚臭を撒き散らすということになる。
他にも、電気を浴びて進化して「電撃ゾンビ」とか、ウイルスを溜め込んで「毒吐きゾンビ」とか、そんなのに進化することもあるな。
あとは、なんか舌を伸ばして攻撃するやつとか、爬虫類と融合して大型化したやつとか、ハエと融合したやつとか、クソキモいのが山ほどいるぞ。
何にせよ、時間は人間ではなくゾンビの味方だ。
時間が経てばゾンビは腐って世界が平和に?そんなのヌル過ぎる。
これからはどんどん、異次元から侵略者も増えるし、ゾンビも進化する。生存域なんてもんはビシバシ減ってくぞ!
さてさて、そんなことより。
目の前の怪力ゾンビが、女の胴程もある腕で掴みかかってくるんだが……。
それを、俺は受け止めて、手四つに組み合う。
『ご、ああ、あ』
「どうしたどうした!変異ゾンビ様がそんな程度のパワーしかないのか?!」
怪力ゾンビのパワーは、精々、ダンベル何キロ持てる?かと問えば、ダンベル300kg持てる程度。「ヒト種」としては最大レベルだな。
見た目も、ボディービルダーのような奇形筋肉塊だ。しかも肌が剥がれていて、進撃してきそうな巨人にも近く、非常に気色悪い。
俺は最近更にステータスが伸びて、普通自動車を持ち上げられるようになったが、見た目はごく普通の平均的なゴリマッチョなので安心してほしい。アメコミの雷神様みたいな感じだ。俺は脳味噌が筋肉なので即ち全身脳味噌であり、お前より賢い。
「限界は見たぞ!オラ!死ね!」
そんなこんなで、俺は、怪力ゾンビの腕をへし折って、蹴りで首を吹き飛ばし、破壊した……。
ゾンビとの心温まる触れ合いの後、俺は普通に釣りをしていた。
魚が食いたいからだ。
……だが、ゾンビの妨害もあり、落ち着いて釣りができない。
それによく考えれば、近海の魚ってゾンビウイルスを媒介してたりしそうで怖いんだよな。
いや、ウイルスは火に弱いから、熱すれば平気か?
……分からん、専門家の話が聞きたい。
俺は釣りをやめて、近所を見て回った。
何だか、たまに学生らしき子供を見かけるのだが、彼らは俺を見ると半泣きで逃げてしまうのでダメだな。
確かに、血塗れのメイスを片手に持ち、ゾンビを殺しまくってる謎のハンサムゴリラとか怖過ぎるし残念だが当然である。
まあ学生のコミュニティはスルーしておく。
どうも内乱してるらしくてなあ……。
グラークさん?なる奴と、不良グループ?が争っているとかいないとか……?
その辺に学生服を着た死骸が転がってるとか、本当に世も末だなあ。
とにかくバタついているようだから、俺は手出ししないでおく。
冬、北海道で雪が降る前までくらいには、地元に戻りたいからな。こんなところで時間をかけてはいられない。
確かに、俺が出れば内乱なんてものは早期に終わらせる自信があるが、それをやるメリットがないからなあ……。
というか、ここに来るまでも、何度か人間同士の争いを見てきた。けど、手出しはしなかったよ。めんどくさいもん。
ここからも、魚の備蓄をしたら早めに移動するつもりだ。
まとまったコミュニティが、ストレートに「仲間に入れてくれ!」と言ってくるなら一考の余地はあるんだが、武力で制圧して〜みたいなのはちょっとね。
そういうのって後々の禍根になるし。百年間くらい分割統治してもポーランドみたいに復権してくるのが人間という生き物なので……。
そうして、周囲を探し回っていると、漁業組合の建物の側面に、魚が干してあるのを見つけた。
つまり、人がいるってことだ。
俺はそこに行き、声をかけた。
「すいませーん、誰かいませんかー?」
「ん?何だ?」
ハゲ頭のおっさんが出てきたな。
「おじさん、漁業関係者の人?」
「ああ、漁業組合の吉岡ってもんだ。悪いが、物資を分ける余地はないぞ?魚ならあるが……」
「いや、魚を捕ろうと思うんだが、ゾンビウイルスとか大丈夫かなーって」
「へえ、これってウイルスのアレなのか?俺はそういうのに詳しくないからなあ」
あ、そうなんだ。
そもそも、生存者達は「ゾンビウイルスで人間がゾンビになった!」ってことを知らないのか。
まあそりゃ、「噛まれたら人の心を失って化け物になる」ってのは皆分かっているようだが、聞けば、それがウイルスによるものと断定はできていなかったらしい。
それもそうか。皆が皆オタクって訳じゃないんだ。ゾンビを見て「噛まれたらゾンビになるぞ!」などと思う人間は、そこまで多くない。
中高年や女、子供なんかは、ゾンビウイルスなんてものを知らない可能性もある。
他の要因も考えられるしな。魔術的アンデッドとか、寄生虫とか。
それ以前に、「死体が動いている」って認知を普通はしない。平和な日本だと尚更、「殴り返したら逮捕されるんじゃ?」などと考えてしまいがち。
だからこうなったんですね。
「魚の生食ってしても大丈夫そうっすかね?」
「生で食ってるけど、問題はないなあ」
「因みに、そもそも魚って捕って良いのか?」
「本当は漁業権とかあってダメだけど……、今は非常事態だから仕方ないだろうよ。俺らも見なかったことにするさ」
なるほどね。
「なるほど、ありがとな、おじさん。これ、お礼だ」
俺は懐から、チョコレート菓子を一箱出して渡した。
「おお、助かるよ!魚以外をくれるんなら、うちで捕った魚をやれるぞ?」
「えー、真鯛ある?」
「あるある」
「じゃあお願いしようかなあ」
「本当か!米とかあるか?」
「あるよ、最近は鶏も……」
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