第26話 狂人:全てを失いし虚脱者

やっぱり、この世界ってゲームなんじゃないかな?


こんなの、絶対に現実じゃないし、多分ゲームだよ。


だって、ほんの一、二ヶ月前は、ママもパパも生きてたし、学校にも行ってたし、彼氏もいたし。


ゾンビ?バカじゃないの?あり得ないって。


だから、これはゲームで。


でも、アタシは。


ヒロインだから。ヒロインになれたから。


多分、死なないんじゃないかな?


そうだよ、きっと、そうだ。




だってさ、あの日はさ、なんてことなかったんだよ?


普通に学校に行ってさ。


彼氏と手を繋ぎながら登校して、友達に「おっ、ラブラブだねー!」とか、揶揄われて……。


そしたら、なんか。


急にゾンビ、ゾンビが出て。


学校になだれ込んできてさ。


だってさ、おかしいじゃん。


アタシの、アタシのさ、彼氏さ。


ゾンビになったアタシの友達に、目の前で、た、食べられ、ちゃって。


そんなの違うじゃん、変じゃん。おかしいじゃん!!!


み、みんな死んじゃって。あ、アタシ、逃げる、逃げてさ。


家に帰ったら、パパもママも、さ。死んで、死んでて、さ。


訳わかんなくて、自分のスクーターに乗って、とにかく人のいない方向に逃げてさ……。


だから、そう。


こんなのはさ、嘘なんだ。


ゲームなんだよ、この世界は。




で、そして今は、旦那に保護してもらえた。


ほら、やっぱり。


ゲーム、ゲームなんだ、全部。


本当に終わったような、本当に酷い世界なら、アタシのようなどこにでもいる、モブキャラ女が助かる訳ない。


アタシ……、アタシみたいな、何も凄くない、特別じゃない、弱くてバカで、弱虫でどうしようもない……、全部見捨てて怖くて逃げるようなクズが……!助かる訳、ないんだから!


だからこれは、ゲームなんだよね。


旦那も、ゲームのキャラみたいな人だもん。


旦那は、凄い。


夢みたいな人だ。


頭もキレるし、強いし、カッコいいし。


食べ物も水も、全部持ってて、アタシに優しくて。


辛かったな、って。優しく、頭を撫でてくれて。


えっちするときも、がっつかないで優しいし、痛くしないし、上手いし。


ご飯も美味しいのくれるし、服も作ってくれて、戦い方も教えてくれて。


銃もくれて……。


旦那は、きっと。


カミサマがこの世に遣わしてくれた、お助けキャラなんだ。


みんなを助ける為に来た、アタシみたいなのでも助けてくれる、凄いキャラなんだ!


いや、旦那が主人公で、アタシはヒロインかな?


とにかく、旦那がいれば、アタシはもう、もう、辛い思いをしないで済むんだ。


ゲームなんだから、アタシは、ゲームだから、救われたんだ。


主人公様に、救ってもらえたんだ……。


旦那は良い人だし、まあ、悪い人でもあるけど、でもアタシと冬芽姉様にはちゃんと優しいから、良いんだ。


あの人は、ゾンビなんて、モブの雑魚キャラと言わんばかりに蹴散らす。


あいつら、本当は強い。


足は遅いけど、見た目より力が強くて、一度掴まれると離さない。


痛みとか感じないんだ、ゾンビだから。


だから、掴まれると、物理的に骨を砕いたり、筋を切ったりしないと、逃げられない。


一体二体なら、遠い間合いから飛び道具とか、バットとか、なんかそう言うので攻撃して頭を潰せば倒せるんだ。アタシもそうしてた。


でもね!旦那は主人公だから!


銃で一発!パンチやキックで首をへし折って!剣とか鈍器で無双ゲー!


噛まれても効かないし、無敵で!


旦那は、だから、凄くて!


主人公なんだ!


そんな主人公の旦那に選んでもらえた、ヒロインにしてもらえた。


ヒロインになれば、死なないんだ。


きっと、そういうゲームシステムだから。


でも、ヒロインじゃなくなれば。


主人公を裏切ったら。


死ぬ、死んでしまう。ゲームオーバーだ。


それは嫌だ嫌だ絶対に嫌だ!


アタシはずっとヒロインでいるんだ!




カレシ、好きだったのに。


もう顔も思い出せないや。


友達も、親友だった。


でも、名前、分かんなくなっちゃった。


旦那に相談した。辛いんだって、言った。


「んー、そうか。まあ、これからは俺がいてやるから。冬芽もいる。仲間も増やす予定だし、友達だってもう一回作ってみると良い」


「でも……」


「安心しろ、俺がいる。俺は不死身で無敵だ。俺の下につく貴重な労働力は、死なせない」


ああ、うん。


そう、そうだね。


ニューゲーム、だもんね。


もうきっと、あの日あの場所で、アタシは、灘透は死んだんだ。


今ここにいるのは、ニューゲームのアタシなんだね。


ごめん、———君。


ごめんね、———ちゃん。


アタシ、ね?


アタシ、新しい世界で。


別の人生を送るから。


一緒に終わってあげられなくて、ごめんだけど。


アタシは……、旦那のヒロインとして、旦那に愛してもらって。


胸を張って「生きてるんだ」って、もう一度言いたいんだ……。

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