第9話 シグマシーグマ

早速、童貞を捨てようと思ったが、こんな衰弱した女を無理矢理抱いたら死ぬなと思った。


流石の俺も、死体に対して腰を振る趣味はないからな。


そういうのはお互いが楽しんでやらなきゃ気持ち良くない。あれも一種のコミュニケーションでスポーツ、組体操みたいなもんだし。


なので、もう少し回復させるため、介護をすることとした。


ゆるーく煮たお粥の上澄液。重湯ってやつだな。


これを、起こした女の子に食べさせる。それも、ほんの少しだけだが。


いや、いきなり食わせたらマジで死ぬからな。リフィーディング症候群ってのがあってぇ……。


「あ……、あいがと、ごあ……、ます……!」


まだ呂律の回らない口で、しゃぶるように重湯を啜る女の子。


惨めでかわいいね。


自分より立場が低いやつを見ると、やっぱり気持ちいいなあ……。


自分に媚びる女を可愛がること以上のコンテンツは、男にはないからね?


必要とされたいというのは人間の根源的な欲求なんだよ。


今流行りの、「俺がいなくなったら職場が崩壊しましたざまあ!」的なのも、職場に居場所がいない社内ニートの妄想だろうしな。結局、要らない奴扱いが人間一番辛いよ。


《……tips!体質:サイコパスにより、メンタル減少なし》


うるせえな!俺は今一般論の話をしてるんだよ!何がtips!だ、視界に出てくるな!!!


《tipsの表示をしませんか?→今後はしない》


おらっ!ガイド消し!




で、今女の子は、服を洗濯中でバスタオルを巻いている。


女物の服は持っていないし、アイテムIDによって生成できるアイテムの中にも適切なのがない。……謎のサンバカーニバルの服とか、特大サイズウェディングドレスなんかはあるが。まともな服はない。


なので、着せないこととした。


痩せぎすの身体を、また別の乾燥したバスタオルで包んでおく。


うーん、エッチで素晴らしい!


身長230cmの俺と、身長160cm程度のこの子とじゃあデカさが違い過ぎるから、俺の服も着せらんないしね、仕方ないよねっ!


まあ、全裸だが、痩せ過ぎていてそこまで興奮はできなかった。アフリカの恵まれないコドモタチみたいな細さだよ。


服のサイズやブラのサイズを見るに、元から細身だったようだが……、特にこの子は、書店に籠って動かなかったのがよくないみたいだ。


後で聞いた話だが、飢えに飢えてクソ小便も出なくなり、先週の頭に降った雨水しか口にしてないとか。


で、一日座って体力を使わないようにしていたらしいが、そのおかげで筋肉が落ち切ってしまったらしく、身体が異様に細くなったようだ。


今は、俺が支えてやらないと立つことすら難しいという有様。


ちくしょー、やっとヤれると思ったのに!


しばらくお預けだな……。


もういい時間だし、女の子の隣で俺は寝た……。


ベッド一つしか用意してねーんだもん……。


いや、複数あるけど、資材置き場にしちゃってる。後で片付けるわ。




次の日。


女の子の服を脱がせて、ションベンをさせる。


女の子は、僅かに抵抗するが、便座に座らせてドアを閉めると排泄したようだった。


「ちゃんと拭けるかー?」


「あっあ、ふけ、ます!」


その後は、根性で腕を動かして自分で拭いたらしい。


服を着せてから、手を水で洗わせて、朝飯。


また昨日と同じ重湯だ。


「あ、てかお前、名前は?」


「う、うー」


女の子は、目をキョロキョロと動かす。


……ああ、そうか。


「そういや、財布がポケットに入っていたな。何々……?」


末国高校二年生、志津摩冬芽(しずまとうが)ね。


「冬芽ちゃん、ね」


「は、い」


ん?


じっ、と見てくるな。


俺も名乗れと言うことか?


「リック・グライムズだ」


「………………」


困惑された。


ンモー、冗談が通じねー女だなあ。


愛想笑いの一つもできんのか?


そんなんじゃ、社会に出てやってけないよ。


実際に社会に出てやっていけてない俺が言うんだから間違いない。


俺は冬芽に飯を食わせてから、本屋に入る……。




図鑑を手に入れた。


野草図鑑とか、植物図鑑とか。


レンジャー試験受かってるからサバイバル行動もできるが、それ専門って訳でもないからな俺は。


幅広い知識が必要だろう。


「……ああ!あのIDって、この植物だったのか!参ったな、後でエクセル表の書き換えをしなきゃ」


そんなことを呟きながら、俺は本を読む。


そして、その間、冬芽にはリハビリ運動をするようにと命じておいた。


横になりながらでも良いから、手足を適当に動かしておけ、と。


医療スキルがあるから、その辺のリハビリ手法はちゃんと分かっているのだ。


ああ、そうだ。


折角、本屋にいるんだから、しばらくここに駐留して、勉強でもするか。


どの道、冬芽も今立てないんだし、せめて歩けるくらいにまでは回復させてやらなきゃな。


そうそう、それとアイテムID探索もやろう。


一日100アイテムと言わず、200、300とやっていこうじゃないか。




「745E6650……ハッカ油。745E6650……おおっ!安物だが醤油!745E6650……バッテリー液か。745E6650……車用グリス。745E6650……?んん?なんだこれ、金色の懐中時計……?おしゃれアイテムか。いや、でもこれ、壊れてんな?ゴミじゃん」


今日も今日とて、アイテムIDの探求。


しかし、やはりゴミ率が高い。


それに、ダブりも実は多いんだ。


例えば、「りんご」が出たとしても、紅玉なのか富士リンゴなのか青リンゴなのか……と、品種違いの同じものが出てくるってケースが結構多い。


だから、種類そのものは中々揃わないってことなんだよな。


そんなことを考えながら、俺は出てきたゴミアイテムを捨てようと立ち上がる。


すると、後ろから……。


「す、捨て……ダメ!」


と、冬芽が突っ込んできた。


「おお、立てるようになったか?」


……いや、這ってきたみたいだな。


「そ、それ!ダメ!」


ん?


この、金の懐中時計か?


試しに与えてみる。


すると……。


「えぁ……えっ、えっ、『εκτόξευση(起動)』!」


おっ……これは?


窓から外を見る。


……鳥が、空中で停止してんな。


……あー?


これ、アレか。


時間停止マジックアイテム……?


……そういや、『魔導師協会』とか言う組織もあったよな。


まさか、この子。


『魔導師』なのか……?!

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