第10話 魔法Lv1の女

どうやら、あの金の懐中時計は、かなり高価なマジックアイテムらしい。


一分間、時間を停止する、というアイテムで、使い切ったら急速に風化して砂になった。


「起動」の一言で、好きなタイミングで発動できて、「停止」の一言で時間を流せるというものらしい。一分間分使い切ると、その場で壊れる使い切りタイプとのこと。


「と、『時の黄金』は、高い。ど、こで?」


まだ回復し切っていないため、話すのが難しいらしく、意思疎通は難しかったが……、このアイテム……『時の黄金』は、買うと何十億円ってレベルの一品なんだとか。


「拾った」


適当に誤魔化しておこう。


「………………」


あ、また困惑された。


とにかく、これで分かったな。


こいつ……、冬芽は魔導師だ。


本人は「三流、です」とは言っているが、稀少な人材であることは確か。


今まで、「魔導書」などのアイテムも手に入れてきたが、魔法についての心得が全くないため、読んでも全然理解できなかったのだ。


それが今や、魔法の先生となってくれそうな女がいる……。


これは、優遇しなけりゃダメだろ。




一週間くらいだろうか?


そうすると、冬芽はベッドから起き上がれるようになってきた。


喋ることもある程度はできるようになっていて、色々と情報交換もした。


「私は、西洋の魔導四侯爵のシグマ家に連なる分家、志津摩家の次女です……。本家からはかなり遠いですし、歴史も精々三百年程度の新興魔導師ですので……」


まだ上手く話せていないが、話をまとめるとこんな感じのことを言っていた。


あー……、なんかそんな設定もあったな。


魔導師は大体西洋の爵位持ちで、歴史が浅い家は新興の成り上がり者だと馬鹿にされて軽んじられる、みたいな。


魔導師の力は遺伝するから、歴史が浅い=弱いってことになるからな。


「ふーん?なんでお前は、この本屋にいたんだ?」


「ここ、私の実家で経営しているお店なんですけど……、まあその、私は本が好きでして。どうせ死ぬのなら、好きなものに囲まれて死のうかな、と」


なるほどねえ……。


「俺にも魔法を教えてくれよ」


「あー……、えっと、まあ、良いですよ。本来なら、魔法は表社会から秘匿するルールがあるんですけど、もうこのような世界では……」


ああ、あったね。


魔法の秘匿。


とにかく冬芽は、簡単な魔法を俺に教えてくれた。


「『φως(灯火)』!……おお、できたぞ!」


「はい。初歩の初歩、灯火の呪文です。……あの、残念ですが、お兄さんの魔力ではこれが限界ですね」


「魔力が増えたら、もっと教えてくれるか?」


「増えませんよ。魔力は、生まれた時から増えないようになっているんです」


ふーん。


でも、こいつを見ても同じことが言えるかな?


ステータスをな!




更に一週間。


冬芽は、掴まり立ちが少しできる程度に回復した。


食事は、ちゃんとした粥を茶碗半分くらいだけだが、食べられるようになった。


そして俺は……。


「どう?」


「そ、そんな……?!あ、有り得ません!どうして、魔力が増えているんですか?!!」


増えないはずの魔力を、増やしていた。


理由は簡単だ。


プレイヤーのステータスは、使えば使うほど成長する!


最初はチンケな魔力しかなくとも、魔法を使いまくれば魔力が伸びるのだ!


「おっ、教えてください!凄いっ!凄いです!」


「ふふふ、どうしよっかなーーー?!!」


「何でもしますっ!わた、私っ!お兄さんの役に立ちます!魔力を増やせれば、もっともっとお役に立てますっ!お願いします!!!」


なんか土下座し始めたぞ?


「そんな卑屈にならんで、仲良くしようぜー?俺は戦いとサバイバルの専門家。お前は魔法の専門家。ほら、ぴったりだろ?」


お、困惑の目線。


「でも、私、見てきました。ゾンビが出て、人同士で争い合って、食べ物がなくなって……。飢えと渇きがないこと、そして安全なことは、今のこの世界では魔法なんかより余程価値が高いです……」


まあ……、そう言われるとな。


「確かにそうだが、魔法ってのは極めると有用だろ?」


「ですから、私は庶流の三流術師で……」


「なら、今勉強しろ」


俺は、アイテムを生成する……。


大魔導書、『ネクロノミコン』だ。


「なあっ……?!こ、ここ、これはっ?!!!」


たまげる冬芽に、本を押し付けて、俺は魔法の練習へと戻った……。


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