第2話 I'm Prepperman

やっぱり転生したみたいだ。


目が覚めたら、知らない天井……。


……いや知ってるなこれ。


よく知っている天井に、よく知っている人の顔。


「よしよし、龍弥〜!大きく育つのよ〜!」


おふくろじゃん。


……実家だこれ?!!!




転生は、した。


但し、地球の現代の、鬼堂龍弥として。


これからつまり、俺は。


自分の人生を上書き保存していくことになる……。




変わったことは二つ。


俺の記憶、俺の人格は、既に形成されていること。


なので、俺の記憶は未来のそれであり、「色々と」活用できた。


……仮想通貨って儲かるんだなあ。


林檎の会社の株とか、ヒット作を出すモバイルゲームの会社の株とか、たまたま覚えてた速いお馬さんの名前とか……。


おかげで、金には困らなかった。


但し、友人などはあまりできなかったな。


過去に……いや、未来なんだが、とにかく俺の記憶にある過去で親交を持った人達と、深く関わろうという気にならなかったのだ。


どうしても、記憶にある友人の姿がチラつくからな。まともに向き合える気がしない。


なので、新しく友人を作ったりしたが、それはいいだろう。


その辺は気持ちの問題だから良いとして……。


第二に、変わっていることは、「チート」とやらを持って生まれたということだ。


つまりは、『コンソールコマンド』……。


俺の視界には常に、「HP」や「スタミナ」などの数値が可視化されており、宙空に浮かぶ俺だけが見えるボタンをクリックすれば「ステータス」が表示される。


鍛えれば「ステータス」が向上し、力と技能が得られる。


その他にも、端材から工業製品を生み出す「クラフト」や、視界の端に浮かぶ「ミニマップ」、そして周囲の出来事を文字で表す「ログ」……。


全身ゲーム機能の、ゲーム人間。ゲムゲムの実の能力者って感じ。


おまけに、コンソールの画面に「コマンド」を打つことで、アイテム呼び出しもできた。


……しかし、そのコマンドは不明で、呼び出せるものは安定しない。


要するに、俺は、どのコマンドを打てばどのアイテムが出るのか、知らないんだよ。


だからめちゃくちゃに、虱潰しにコマンドを打ちまくったが、その結果、いきなり放射性物質が出てきてビビったことも、所持していちゃいけないお薬が出てきてたまげたことも、一度や二度ではなかった。


あとそもそも、透明な液体とかは、容器のラベルなどで判断するしかないんだが、ラベルのない容器に入ったものとかはかなり困った……。


最終的に、分析装置を数千万円かけて購入するという蛮行で、その辺はクリアしたが。


もちろん、その分析装置でも分からないものが出たときはお手上げだ。高熱で焼いて灰にしてから、海や山に撒くしかない。




そんで、ビビったのは、その出したアイテムの中に『ゾンビウイルス』があったことだ。


ゾンビウイルスだとわかった瞬間、速攻で焼却処分したので問題はなかったが……、もしやこの世界にはゾンビウイルスが存在する?


気になって調べたところ……、出るわ出るわ、証拠の数々。


アメリカに存在する製薬会社を隠れ蓑にした生物兵器製作会社、『アンブラ社』……。


明らかになんかやばい匂いのするカルト宗教集団『星の叡智教会』『暁月の家』『太陽の花会』に、恐らくは何かしらの力を持つ『アトミック・サイエンス・インダストリー』『バイオニックメカトロジー社』『魔導師協会』などなど……。


おまけに、中国政府が『異次元ポータルゲート』の実験をして一瞬別次元に繋がっただとか、米軍がプラズマ兵器を持った大型パワードスーツとロボット兵器を正式採用しただとか、正気を疑うような情報がいくつか得られた。


そして気付く……。


この世界は、確かに俺がいた地球そのものだ。


だがそれに、異物が混じっているんじゃないか?と。


ぶっちゃけ、心当たりがあった。


このコンソール画面の……、ステータス画面などの元ネタは、「アポカリプスZ」……、俺がかつて作っていたゲームのそれだ。


そしてこの、アポカリプスZ……。


黙示録のZ(最後、もしくはゾンビの頭文字)名の通り、ゾンビゲームである。


異次元ポータルゲートから異世界のモンスターが飛び出し、ゾンビウイルスが撒き散らされ、暴走した警備ロボットが暴れ回り、世界が滅んだ後の世界で生き抜く、そんなゲーム。


サンドボックス系のゲームで、グラフィックはそこそこだが、たくさんのクラフト要素や魔法のパワーを取り入れて超人になったりだとかができる、俺の中では神ゲーであった。


事実、製作チームは俺と友人を含めた大学のゲーム研究部サークルの十人だが、売上の話をすればゲームの利益だけで億単位は稼げていた。無論、一人につき。


マルチプレイもできるし、MODなども入れやすくしてあるため、配信者受けしてかなり買ってもらえたっけ。


そんな、はちゃめちゃゾンビものの、クラフトと戦闘のゲームだ。


……つまり、俺の生きている世界と、アポカリプスZの世界が、混ざった?


俺のチートの影響で?


……そうとしか考えられない。


調べれば調べるほど、アポカリプスZの歴史と同じ事実が出てくる。作者は俺だ、覚えているとも。世界観の構築は俺がほぼ一人でやったからな……。


これは……、マズいな。


ちょっと本気で備える方がいいかもしれない。


本編開始の時期は、設定によると20XX年……。


生まれた時が大体九十年代だから、俺が大体、十代以降の時期だ……。




なので俺は、自分の人生を捨てて、ゾンビパニックに備えた。


まあほら、娯楽とかも結局前世と変わらないからね。わざわざ、二度同じ本や漫画を読む必要もないじゃん?


まだ発売されていない某海賊漫画の最終巻も俺は前世で読んだし、あえて今連載を追う必要はないかなーって。


そんな訳で、私生活をかなぐり捨てて、ステータスアップと技能習得に全リソースを振ったような人生を過ごして二十八年。




案の定、世界は崩壊した。

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