第3話 かゆいうま

俺の実家は北海道で、農家をやっている。


人もそうそう来ないところだし、倉庫にはパンパンに非常食やら何やらを残しておいてある。


両親や、近所の人達はしばらく保つ……んじゃないのかなあ?


死んだらまあ、その時はその時だ。


俺もまともな人間なので、両親を助けておこうと思う気持ちくらいはある。


だが、前世を経験していると、今世の親とはいまいち距離感が掴めず……。いや、これは言い訳だな。


とにかく、実家に対してできることはやってやった。


あとは個人的に頑張って欲しい。




一方で、俺は今、東京にいた。


何故、おそらくは安全であろう実家に帰っていないのか?と言えば、本編開始時期が20XX年と明確ではなかったからだ。


しかし、パンデミックを恐れて北海道の田舎町に篭り続けているようでは、ステータスも技能も伸ばせないし、経験を積めない。故に俺は上京した。


もしかしたら、俺が寿命で死んだ後にゾンビパニックが起きるのかも?などと、淡い希望も持っていたのだが、そう上手くはいかないな。


今世の俺は、今現在、無職だった。


しかも、工業高校に通い、医大を出て医師免許を取得して、その後に自衛隊に入隊した後の無職だ。


前世においては、プレッパーズ兼ゾンビコンテンツオタクとして、無駄に身体を鍛えていた単なる機械技術者だったのだが、今世は「ステータス」の成長のおかげで無限に体力学力が上がるので、あっさりと海外の難関大学も卒業できた。しかも飛び級で。


こんな意味不明なめちゃくちゃ経歴を作った理由は一つ。


ゾンビサバイバルを生き残れるように、技能が欲しいから。


ステータスを見れば「技能:医学5」だの「技能:銃器取扱5」などが見られる。


俺は別に、医師になって人を救いたい!とか、自衛官になってお国の為に戦いたい!とか、そんなことは1ミリも考えていない。


全て技能の為だった。


工業高校から進路変更したのも、医師免許を取った時点で医師を辞めたのも、自衛隊に入隊してレンジャー部隊になった瞬間除隊したのも、全て技能の為。


ある程度勉強して、納得できるレベルまで技能を高めたら、速攻でやめた。


ステータスが見えるし、ステータスが高ければ技能も上がりやすいので、俺はほんの一、二年の訓練で一流と言えるレベルの医師、自衛官になれたのだった。


周りの人間は、勿体無いを通り越して「こいつ頭おかしい」とよく言うが、技能がないとマジで今後の世の中生きていけないと思うんだよね。


世界が崩壊すりゃ金なんて無意味。


偉いのは、畑を耕す奴、金属などの加工ができる奴、医学がわかる奴、戦える奴になる筈だ。


俺は幼い頃に、実家で畑の手伝いや家畜の世話をして農業スキルを上げて、工業高校で工業スキルを上げ……、とやってきた。


そして、今まで偉そうにしてきた政治家、大学教授、経済屋、芸能人、コンサル……そう言うのは全部クソ。


崩壊した文明では、金勘定の巧さや政治の手回しの力など、クソにも劣るからだ。


やはり技能、技能は全てを解決する……。




ああ、それで、そう。


世界が滅びた話だったか。


なんてことはない、今日の昼頃には世界が滅んでいたのだ。


ゾンビウイルスの流出は、どうやら夜中だったらしい。


何でも数日前に、海外のどこかでゾンビウイルスに感染してきたアホなユウチューバーが帰国して急にぶっ倒れ、国際空港で救急隊員や観光客を噛みまくり……。


で、今。


救急隊員が病院で発症しゾンビ化。


本来、その病人やらを治したり、ウイルスなどを解析する東京の医大でパンデミックが発生。


尚且つ、国際空港でゾンビユウチューバーが人を噛みまくったもんだから、感染拡大は一瞬だった。


空港だからね、観光客とかビジネスマンは、この空港から日本各地に移動する訳だ。……ゾンビウイルスに感染したまま。


初期の頃は風邪と同じような症状であるから始末が悪い。


頭がぼーっとする、熱っぽい、そんな初期症状は、風邪を引いたくらいで会社を休めない日本人諸君はもうバリバリ無視した。


で、頭がぼーっとして、ぼーっとしていって……、最後には何も考えられなくなり、生きた屍の出来上がりってね。


異次元からのポータルゲートも開き始めた。


いや、最初から開いていたのだろう。


一度、中華の実験で、異次元と地球が接続されたのは歴史に残っているが……。


その時にできたゲートは、エネルギー不足ですぐに消滅したのだが、一度この世界と異次元が繋がってしまえばもう全ては遅いのだ。


ゲートは間髪的に、地球の各地で開き、異次元宇宙や魔界の生物や物質を、少しずつこの世界に吐き出して……。


今、このゾンビウイルスも、恐らくは異次元由来のものだろう。


それに……。


世界の混乱、混沌。人の苦痛、悲鳴。


そういうのに反応した異次元ゲートは、そういうのが大好きな闇の住人達を嬉々としてこの世界に送り込んでくる。


外宇宙から来たジード星人、闇のデーモン、フローティングアイにオーガ、オーク。ゴブリンにコボルト、ダークエルフやワーウルフ。全て邪悪な敵対種だ。


無論、そういう闇の住人達は、まだあまり来ていない。


ゾンビもまだ進化していないし、数も少ない。


だが、最早、日本どころか全世界で同時多発的にパンデミック&ポータルゲート発生をしている今、人類に打つ手はなかった。


いやまあほら、自衛隊は強いけど、自衛隊基地の数の十倍の事件が起きれば無理じゃん?そういうこと。


そんな訳で、朝起きてネットを開くと、SNSで大量のグロ画像。


パンデミックをニュースやラジオじゃなくって、SNSで知ることになるのは、なんて言うか時代だねえ。


今のところ、ポータルゲートはそんなに多くないかな?


殆どがゾンビの出現に対して面白おかしく書き込みをする投稿ばかりだった。


ああ、まだあんまり信じていないんだな。


今日は平日だ、この調子だと、何も知らずに職場や学校に行ってる人も多いだろう。


朝はまだ、無能なマスコミやアホなインフルエンサーが面白おかしく茶化しており平気だったが、昼頃には街中でサイレンが鳴り響き、怒号と悲鳴が方々から聞こえてきた。


一方で俺は、脱出の準備を済ませていた……。

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