後編【きっかけ】

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 泣き寝入り……



 いつからなのか

 なぜ僕なのか……

 何一つ分からないまま



 気味が悪くて仕方なかった

 だけどその後は一切

 ストーカー女からの接触はなかった



 だから気を抜いていたんだ




 ・*:.。..。.:*・︎✿・*:.。. .。.:*・




 ストーカーの件からしばらく経って

 少し落ち着きを取り戻した頃

 これまでで1番長い付き合いの

 恋人の様子がおかしいことに気付く


 話を聞くと毎日異常な数の電話に

 悩まされていると言う


 もちろん知らない相手からで

 出ると聞いた事のない言語で話され

 しかも何故か相手は怒っている様子


 番号は海外からが中心で

 怖くて出れなくなった

 着信拒否してもキリがなく

 次から次へと番号を変えてかけて来る

 時間もバラバラで怖くて眠れないと



 仕方なく携帯番号を変えても

 すぐに同じことが繰り返された


 

 寝る前に電源を落とすことにして

 僕は彼女の部屋に泊まるようになった


 すると今度は彼女の職場に

 無言電話や覚えの無い誹謗中傷

 帰宅時に後をつけられたり

 電車で通う彼女を盗撮したと思われる

 写真がSNSに出回るなど

 嫌がらせはエスカレートしていった


 警察に相談するも

 嫌がらせの相手は特定出来ず


 ……時すでに遅し

 ついに彼女は壊れてしまった

 現実逃避するようになり

 僕のことが分からなくなってしまった

 当然仕事も出来なくなり

 遠い県外の実家に帰ることになった



 彼女が帰る日は駅まで見送りに行った

 彼女はもう僕を認知していなかったけど

 最後だからと思ってそうした

 ご両親が彼女を迎えに来た



「ごめんなさいね何故こんなことに……」



 そう言って母親が泣いて謝った


 彼女が僕のことをよく話していたそうだ

 本当に優しくて大好きな人だと

 今はお互い仕事が忙しいけど

 僕と将来結婚したいと……



「この子のことは忘れてください」



 ご両親は僕に頭を下げ

 彼女を連れて去って行った




 僕も泣いた……

 自分の無力さを痛感させられ

 色んな感情が入り交じり涙が出た




「っ……ごめんね」




 喉から絞り出すように声をこぼした



 傷付いたのは僕よりも彼女だった

 涙を拭って振り返り

 駅を出ようと歩いていると

 視界に入った が気になり足を止める



 気になった方向へ視線を向ける



 そこには……



「 っ!? 」


 あの女がいた

 数ヶ月前に僕に薬を盛った女……



 女と目が合い見開き固まっていると

 ゆっくりと近付いてくる



 ザ リ……



 固まって動かない足を

 無理やり後退させる




 人波を抜け女が目の前にやって来た




 女は僕を見上げると

 ニィっと口角を上げ笑う



 寒気が走る




「あ……アンタ……ここでなにして」



「おめでとう心優ミユウ♡」




「は? ……なにが」




 女の言葉の意味が分からず問いかける

 最近の僕に祝われるような出来事は

 何一つ起きていない



「やっと自由に でしょう?

 だからぁ、おめでとう♪ 」


 心底 嬉しそうに女は言う



「……は?」


 やっと? 自由に? どういう……


 僕は意味が分からず女を見返すと

 不自然に分厚い不気味な赤い唇を尖らせ

 イライラしながら話し出す



「やっと が消えたでしょう?

 って 言ってるのよぉ!!」


「 !? 」


「あぁもうっ!イライラするわねっ!

 本当にしぶとい女だったわ

 心優ミユウを我が物顔で側に置いてさぁ!

 せっかく私たち繋がれたのに

 邪魔ばっかりしてさぁ!

 この世から消したいくらいだったぁ

 ……でも私が犯罪者になったら?

 心優ミユウはどうなるの?

 貴方を独りになんてぇ……

 そんなの無理ぃ!

 心優ミユウも耐えられないわよね?」





 なんだ……コイツ





「アンタがやったのか?

 彼女への嫌がらせを、なんでだよ?」



「……なんで?

 質問の意味が分からなぁい

 私たちの邪魔をするからでしょう?

 え?

 嫌がらせされたのは私のほうよね?

 私から心優ミユウを奪ったんだからぁ

 やっぱり殺せば良かったかしらぁ?」




 ザワザワ




 駅という場所が良かった

 僕はついていた

 僕たちに気付いた何人もの人が

 遠巻きに撮影しているのが目に入った

 僕は大声で女のを暴露した



「……ねぇ…心優ミユウ……」


 女が僕に手を伸ばす



 僕が大きく1歩下がると

 空中で止まった女の手が握られる



「……やっぱりあの時

 帰すんじゃなかったわ!!!」



「あの時?

 アンタが薬を盛った時の話?

 意識を失った僕を部屋に運ばせて……

 服を脱がせたのはアンタか? 変態だな」


「あら♡心優ミユウは美しいもの

 全身どこから見ても綺麗だったわよぉ

 心優ミユウに関して変態なのは仕方ないわねぇ」


 そう言うと舌なめずりをしながら

 舐めるように身体を見られる



「っ……」



 気持ち悪ぃ……



「僕とアンタは何の関係もない

 アンタのやってる事はストーカーだ

 アンタはただの犯罪者だよ!」


「なんとでも好きなように言ってぇ

 心優ミユウならなんでも許してあげるぅ

 ねぇ、それより早くぅ

 2人きりになれる場所へ行きましょう?

 邪魔者も消えたことだし

 やっと私たち愛し合えるのよ♡」



 女は恍惚の表情を浮かべた




 狂ってる……




「悪いけど……アンタとは帰らないよ

 このまま警察に行ってくれる?」


「……いい加減にして心優ミユウ

 今度こそ閉じこめるわよ!」


「そんな事はさせない!

 アンタのやった事の証人は

 もう世界中にいるからな!!!」



 僕は周りに向かって叫ぶ



「どなたか今の動画をください」



 何人もの人がSNSにアップしてくれた

 おかげで警察はようやく動き

 女は連行された……




 ・*:.。..。.:*・︎✿・*:.。. .。.:*・




 でも僕の恋人が元に戻ることはなかった



 僕も女性が怖くなってしまって

 恋人は作らなくなった

 適当に遊んで寂しさをやり過ごした


 だけどたまに女性の笑顔とか

 慣れない大きなベッドとかで

 フラッシュバックしてまた怖くなって


 繰り返すうちに人をけるようになり

 知らない人と話すとか

 特に女性と2人きりになるのは

 無理になった……


 営業の仕事も続けられなくて辞めた


 でも食べていくには働く必要があったし

 どんな仕事をしようか考えて

 ホストにたどり着く


 経験があったし自分で いちから作れば

 ルールも自分で決められる


 僕の店は お客様との関係はクリーン!

 店以外で会うことはNG

 スタッフも僕が選んだ

 信頼できる人間で固める



 そうやって僕は


【 club 月光 】を立ち上げた






 ・*:.。..。.:*・︎✿・*:.。. .。.:*・



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