黒服【木村 則人】

第1話【Kgo's BAR】

 .。:.☆。_________________________。☆.:。.




【Kgo's BAR】


 飲み屋街から少し外れた場所にある

 カウンター8席と小さなテーブル席2つ

 マスターの趣味の JAZZ が流れる

 落ち着いた雰囲気の店内


 どうも……

 私、当店のバーテンダー

 木々岐キキキ 圭吾ケイゴ (39) です


 外の空気もすっかり暖かくなり

 日の出ている時間帯は

 汗ばむほどになって来ました


 私は必要な小物や食材を買い

 我がBARへとやって来ました


 営業時間は18:00〜2:00

 閉店時間は気まぐれです

 どうぞ気軽にお越しください



 開店30分前 店の狭いキッチンで

 お通しの仕込みをしていると…



 キイッ



 入口の扉を開ける音に

 顔を上げるとそこには……



「お? どうしたんだ?

 こんな時間に珍しいな

 もう仕事は終わったのか?」



 入口に立っていたのは

 4つ年下の従兄妹いとこ笹砂サササ ケイ だった



 ズッ……ズッ……



 顔を俯けたまま肩を落とし

 高いピンヒールを履いた足を引き摺り

 カウンターへと歩いて来る



「……ちょ…怖いんだけど」


 明らかに様子がおかしい……

 普段のケイは愚痴は多いけど明るくて

 前向きで男勝りで負けず嫌いで……


 私の前でこんな姿を見せるのは

 相当ヘコんでいる時だ……

 過去に一度仕事の関係者に裏切られ

 ヘコんだ時以来か……


 今回は何だ?


 カウンターにたどり着き

 ヨロヨロと座ると

 突っ伏し泣き出した



「うわぁあああああああぁぁぁん!!

 ケイちゃーん。゚。・゚(゚⊃ω⊂゚)゚・。°. 」


「……ほれ、水飲め」


「ヤダ!お酒ちょうだい!超強いやつ!」


「何言ってんだよ飲めないくせに……」


「ヾ(⌒(ノ 。> <)ノ ヤダヤダー!!

 飲むの飲むの飲むったら飲むー!」



 カウンターをバンバン叩き泣き喚く



「ガキか…いい年こいて……

 何があったか知らんが…

 ヤケ酒はするな、酒は楽しむものだ」



 そう言うとピタリと動きを止め

 カウンターに上体を預けたまま

 顔だけを上げると唇を尖らせて

 恨めしそうに睨む(๑˘・з・˘)



「……(´Д`)ハァ…分かったよ…」




 .。:.☆。──── ☆ ────。☆.:。.




 ケイは今幅広い年齢層に人気の

 アパレルブランド K の CEO 兼デザイナー


 昔から背が高かったケイ

 自分の体に合う着たい服が見つからず

 自らデザインして作るようになった


 ある時いつものように自作の服で

 TKGへ……(ん?卵かけご飯やん)

 T…… TG? なんだっけ?

 まぁいいや……

 ファッションのイベントへ出かけ


 某アパレルブランドの代表に

 才能を買われアパレル業界に入る


 しかしそこに在籍していた

 デザイナーに妬まれやってもいない

 盗作というデマをでっち上げられる


 泣く泣く退社することになったケイ

 持ち前の負けず嫌いと男勝りな性格で

 それまで以上に奮起し

 自らのブランドを立ち上げるに至った


 今じゃ泣く子も黙る

 業界トップクラスの人気で

 毎日相当忙しいはず……


 こんな時間にここに来るなんて

 余程のことがない限り有り得ない



 コト……



 出来たばかりのお通しを小鉢に入れ

 目の前に置いてやる



「あ!ケイちゃんのキャロットラペ♡

 久しぶりだァ♡ シャクシャク(*´ч ` *)」


「あ!こらお前1口で食うなよ!」


「えー!だって大好物だもん!

 もっとちょうだいよ〜!

 男だろぉ? ケチケチすんなし!

 よこせ!そのタッパーごと食ってやる!」



 ケイは体を伸ばし

 長い腕でタッパーを奪い取る



「あっ!ケイてめぇ!やめろぉ!

 食い箸を突っ込むなぁあああああ!」



( ° _ ° )チ ─── ン

 もうお客様への提供は無理だ……



「 ンア゙ア゙ッ !! もうっ!なんなんだお前は!」


「……シャクシャク……いいじゃん……

 たまには……付き合ってよ……グスン」


「……(´Д`)ハァ…それ作りたてだから

 味がまだ馴染んでないだろ?」


 私は残しておいた残りの人参1本を

 下ろしながら話を聞くことにした



「……確かに…でも美味い……

 てか酒はどうした?

 まさか忘れたとは言わさんぞ…?」


「……チッ( ¬_¬ ) 」


 ケイは本当に酒に弱いから

 独りの時には飲ませたくない



 潰れたら山善ヤマゼンさんに連絡するか…

 山善ヤマゼンさんはケイの会社の社員で

 ケイが信頼出来る人の1人だ




 .。:.☆。──── ☆ ────。☆.:。.




 開店準備をしながらケイの話に耳を傾ける



「はあ? ホストだぁあ???」


 信じられん……

 毎日休みなく働いているケイ

 ホストに熱を上げているなんて

 想像もしなかったことだった



「お前!まさか貢いで……」


「やめて!心優ミユウはそんな子じゃないわ!」


「いやいや、待てよお前」


 それはホストにハマった女たちが

 皆一様に言うセリフだろう……

 ケイは金なら浴びるほどあるだろうけど



 ……ん?



 今どこかで聞いたことある名前が…


 どこで聞いた?


 でもココで聞いたような…

 ……ホストの名前なら

 他の女性客の口からも出てるのかもな



「本当にいい子なのぉ……

 可愛くてカッコよくて優しくてね♡

 なんと言っても声が良くて〜♡

 耳元で囁かれると蕩けちゃうの(*´∇`*)♡

 色が白くてお肌はツルツルでさ

 細くてスタイルもいいから

 本当はウチのモデルになって欲しいけど

 そうしたら世の中のが全員

 敵になっちゃうし嫌じゃん?

 そんじょそこらの安っぽいホストとは

 レベルが違うのよ!

 絶対無理にお金を使わせたりしないし

 それにそれに〜♪ 黒服もレベル高いのよ

 彼がホストなら絶対乗り換えるのに♡」


「いやお前……話が長ぇよ

 まだカクテル1口だろ……」


「長くなーい!最後まで聞けー!

 木々岐キキキ 圭吾ケイゴぉ!」


「ぅるっさ!」


 人の名前を大声で叫び

 グラスを一気にからにするケイ



「 ぁあっ!? 」



 バタン……



 潰れる前に……

 そう思っていたのに秒で潰れたケイ

 こうなるとしばらくは起きない


 悔しいが身長で負けてる私には

 コイツは運べない……



「で? 結局なんでこんなに荒れてるのか

 1つも分からんのだが……

 そのホストに騙された?

 ……訳じゃなさそうだしなぁ

 あぁもう分からん!

 面倒くさい女だまったく……」




 いつの間にか開店の時間も過ぎている

 このまま放置して店を開くことにした






 .。:.☆。──── ☆ ────。☆.:。.



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る