甘い罠に堕ちて

chiropei

きっかけ【三馬 心優】

前編【ストーキング】

 .。:.☆。______________________。☆.:。.




心優ミユウ…話しにくいかもしれないけど

 全部話してくれないか?」


「分かったよ則人ノリト

 僕が受けたストーカー被害を話すね」




 ・*:.。..。.:*・︎✿・*:.。. .。.:*・




 社会人2年目のこと



 相手は会ったこともない女性

 心当たりも全くない



 大学時代にバイトでやっていた

 ホストの宣材写真を

 相手が持っていたけど

 写真ならどこからでも手に入るし

 客の顔は忘れないから

 会うのは本当に初めてだった




 ・*:.。..。.:*・︎✿・*:.。. .。.:*・




 どこで調べたのか

 最初は社用携帯に電話が入った



 未登録ナンバーからの着信



心優ミユウ? やっと繋がれたぁ♡」


 明らかに仕事関係のノリではない



「……? あの、申し訳ありませんが

 どちら様でしょうか?」


「うふふ♡電話越しの声も素敵ねぇ」


「……っすみません、失礼します」


 なんだか気味が悪くてすぐに切って

 社用携帯だったから変えてもらった

 だけどすぐにまたかかってきて…

 本当に仕事関係の人かも と思ったら

 無碍むげにも出来なくなって



「あの、本当に申し訳ありませんが

 コレ、会社の携帯なんです…

 仕事の連絡じゃないのでしたら」


「……仕事の依頼をしたいの

 時間取ってもらえるかしら?」


 そして会うことになった

 相手が女性であること…

 平日の昼間の人の多い場所だったこと

 油断していた僕は1人で向かった



 某ホテルのフレンチレストラン

 もっとよく考えたら

 気付けたかもしれなかった

 仕事の依頼でフレンチレストラン?

 もっと注意すべきだった……



 ボーイに案内され着いて行くと

 個室に女性が待っていた



 部屋の真ん中に1組のテーブル席

 こちら側に背を向けて座る女性


 ボーイは部屋を出て行き

 彼女と2人きりになる



「お待たせしました……

 〇〇社の三馬ミンマです」


「どうぞぉ、おかげになって」


 何度か電話で聞いたクセのある声



「……はい」


 いざとなれば逃げ出せる

 それくらいの軽い気持ちだった



「失礼します」


 目の前に座り相手の顔を見る

 全く見覚えがない顔だった


 に綺麗な顔

 笑顔も引きつって見えて

 異様な雰囲気を感じた



「よろしくお願いします……」


 社会人お決まりの作業 名刺交換

 相手が受け取る際に手が触れる


 わざとだと気付いて相手の顔を見る



 背筋がゾッとした



 相手の女性が僕の手に触れながら

 恍惚の表情を浮かべたからだ



 やはり何かおかしいと気付き

 早く切り上げて帰ろうとするも

 相手は上手く仕事の話に持っていき

 なかなか席を離れることが出来なかった



 嫌な汗をかきながら

 味も分からないまま食事が終わり

 ようやく終わる、と安堵し

 席を立とうと腰を上げた



「では次の予定がありますのでこ…れで」



 すると視界が大きくグラリと傾き

 僕はその場で意識を失った


 ・

 ・

 ・


 再び意識が戻った時には既に日が沈み

 視界に入った窓の外には満月が見えて

 状況を把握するのに時間を要した



 僕はベッドに横になっていて

 そこは見覚えのない部屋

 ホテルのようだった

 部屋には誰もいなくて

 起き上がると頭が酷く痛んだ



「つっ……イテテ」


 そして掛けられていたシーツがズレて

 何も身につけていないことに気付く



「は? ……なんだよ、これ」


 何があったのか考えたくても

 頭痛が酷くて集中出来ない



「うっ……キモ…」


 頭痛のせいで吐き気が襲う

 ゆっくりと身体を丸め横になる

 次第に頭痛は治まっていく……



 カチャリ



 背中で部屋の扉が開く音がした



心優ミユウ?」


「 !? 」


 その声は昼間食事を共にした

 仕事の依頼主だった



「まだ寝てるのぉ?」


 そう言って女が腰掛けたのか

 ベッドが揺れる



 心臓がバクバクとうるさい

 自分がそんなに節操なしだったのかと

 冷や汗が出る

 でも食事した後の記憶がない

 アルコールは口にしていない

 じゃあ何故?


 早く退散したくて席を立とうとして

 腰を浮かせて……急に目が回ったんだ


 貧血?立ちくらみ?


 いや、先月の健康診断に異常はなかった

 いたって健康体!

 毎日快食快眠快便!


 倒れるなんて……まさか薬?



心優ミユウ♡」


 女の手が肩に触れた



 その手を掴み引き倒す



「きゃあん♡」


「っ!? アンタ……」


 女も裸だった



「やだぁ心優ミユウ♡まだ足りないのぉ?」


「……は?」


「いいわよ♡貴方が望むなら何度でもぉ」



 バサッ



 女にシーツを被せ

 素早くベッドを降りる


 頭痛は治まっていた


 周りを見回しても

 着ていた服が見当たらない

 部屋にはクローゼットもない

 扉へと向かう



心優ミユウ~♡どこ行くのぉ?」


 女が腰にしがみついて来た

 豊満な胸を押し当て

 僕の下半身を探る



「 っ !? やめろ!」


 その手を掴み捻り上げる



「キャアアア!痛い痛いっ!」


「僕に触るなっ!」


 女を突き飛ばして部屋を出る

 そこはリビングダイニング



「ホテルのスイートルーム?」


 クローゼットを見つけ開くと

 着てきた服や鞄が綺麗に収められていた

 素早く着替え鞄と靴を持って

 玄関ホールへ向かう途中

 視線を感じて振り返る



 女がさっき出てきた部屋の入口に

 後ろ手に組んで立っている

 目が合うと片手を胸の前で振る

 その手には僕のスマホを持っていた



「 !? 」


 一瞬 躊躇ったけどそのまま部屋を出た


 その足で警察へ


 尿検査するも怪しい薬の成分は検出されず

 女から受け取った名刺は見当たらず

 検索したが会社名も名前も偽名だった

 社用携帯はリセットされていて……


 ホテルに問い合わせても

 お客様の個人情報は明かせないの一点張り

 警察も実害が無いことからそれ以上動けず

 これぞ泣き寝入り……




 いつからなのか

 なぜ僕なのか……

 何一つ分からないまま





 気味が悪くて仕方なかった





 だけどその後は一切

 ストーカー女からの接触はなかった




 だから気を抜いていたんだ






 ・*:.。..。.:*・︎✿・*:.。. .。.:*・



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