第2話 お囃子部の立ち上げ
・ 響のワクワク
月初めの週末、下郷囃子連は練習日になっていた。響は誰よりも早く自治会館に向かい縁側で笛を吹いていた。しばらくすると小走りに文二がカギを開けにやってきた。響を見つけると「やぁ響ちゃん。今日はいつもより遠くから笛の音が聞こえてきたんで走ってきたんだ。なんかいいことでもあったんか?」
「文ジイさすが響のこと何でもわかっちゃうんだね。高校の同級生の本町囃子連の子と仲良くなって・・・」響きは会館に入ると太鼓を準備しながら文二に今月あった出来事の一部始終を熱っぽく話した。
「でも・・・他の町内の子も誘ったんだけどなかなかメンバーが集まらなくて」響は急にうつむき声が小さくなると文二は
「新しいことをやろうとするときは全部が順調なんてことはないさ。でも響ちゃんのテンツクが大好きっていう気持ちがあれば乗り切れないことはないさ。そうとなったら練習しようかのぉ。なにせ響ちゃんが『お囃子部』のエースなんだからなぁ」
「うん!」理由はないが文二に励まされると大丈夫な気がしてきた響はいつものように夢中になって練習に打ち込んだ。
・ 仲間たちの勧誘と反応
舞は悩んでいた。おとなしい性格の舞にとってお囃子は人前で自分を表現する数少ない場所であり、お囃子をやっているときの自分がとても好きだった。ただ、メイたちのいる本町囃子連は他の町内からはお囃子の技術や踊りの演技について評価が高い一方「テンツクマニア」とか「変わり者の集まり」と大人が話しているのをよく聞いていたので一緒にやることに興味はあっても踏み切れずにいた。
茜音には相談してみてと言われたがいざとなると自分の囃子連の大人たちにうまく説明できる自信もなかった。
八幡町囃子連の練習日、いつものように太鼓をたたく舞の姿があった。練習場のステージに同年代のメンバーで一通りの曲目を演奏し、大人のメンバーが腕を組んで聞いていた。
音の大きさ、テンポなど厳しく注意されることも多かったが、お祭り当日に多くの人前で演奏する感動を思い懸命に今までも練習してきた。
「舞も高校生になってずいぶんうまくなってきたなぁ。このままいけば次の大祭には大人にまじっても大丈夫かもなぁ」
珍しく大人に褒められ、舞は素直にうれしかった。その分、学校での出来事は大人たちには相談できなかった。
響、メイ、茜音はメンバー探しに奔走していた。そんな3人の前を一人の男子生徒が通り過ぎた。阪本勇気だ。勇気もメイたちの小学校からの同級生で山手町囃子連でお囃子を続けている。気弱な性格で頼まれると断れないタイプだった。
「いたぁ!」メイは後ろから勇気の肩をたたき勇気の振り返りざまに
「今度『お囃子部』作るから勇気もメンバーにするからよろしくね」
「え、えぇ」勇気は面食らったように驚いたがしばらく黙ったあと
「わかったよ。でも何すればいいの?」メイの勢いに押されて受け入れたのだった。
「あとは舞が入ってくれればなぁ・・・」
五人囃子と言われるくらいなので最低でも5人が必要である。3人は窓から見える奥武蔵の街を眺めながら舞の返事を待つことにした。
・ お囃子部の名前と活動開始
そんなメンバーの元に顧問となった吉本から嬉しい知らせが入った。学校から許可が下りたとの報告だった。ただし、実績ができるまで部費を伴わない同好会という形での許可であった。それでも活動の許可が早々に下りたことは嬉しい結果だ。吉本はそれに加えてあまり普段使っていなかった自身が管理担当している「物理準備室」を放課後の活動拠点として使えるようにも掛け合ってくれた。
「これで学校でお囃子ができるぞ」吉本は普段あまり見せない笑顔をみんなに見せながらこのことを伝えた。
「で、名前はどうするんだい?」吉本はつづけた。
「お囃子部・・・あっ同好会だからお囃子同好会かなぁ」茜音はピンとこない表情だった。
するとメイが「テンツクだよテンツク!響ちゃんいつもお囃子のことテンツクっていってるじゃない。私んトコでもおじさんたちはみんなお囃子のことテンツクって言ってるしテンツクがいいって『テンツク同好会』に決まり!」
「メイ、たまにはいいアイデア出すじゃん『テンツク同好会』賛成!」メイの意見に茜音も賛同し響にも聞いてきた。「響はどう?」
「テンツク同好会かぁ。いいね。楽しそう!」満面の笑みで返した。
勇気には誰も聞いてはいなかったが3人の後ろに立ちニコニコしながら大きくうなづいていた。
「奥武蔵高校テンツク部」高校生たちの冒険のはじまりだった。
・ 困難への挑戦
その日の放課後、例のフードコートにメンバー4人と光の姿があった。
4人はここまでの成り行きを光に伝えると
「実は頑張った皆さんにプレゼントがありまぁす」もったいぶる光にメイが
「何なんなのヒカリン。早く教えてよぉ」
「まぁまぁ焦りなさんな。なんとうちのオヤジに言って太鼓一式用意してもらいましたぁ。もちろん中古の代物だけどね。でもちゃんと音も確認済みでぇす。」
「すごい!本当にいいの?」響は興奮気味に聞いた。
「さすが辰ちゃん。いいとこあるねぇ」茜音が光を指さしながら笑った。
「響ちゃん、辰ちゃんおじさんはヒカリンのお父さんでウチの会長なの。ヒカリンの家はお囃子屋敷で何セットも太鼓やお面があるんだからぁ」メイが続けた。
「もちろん。この話したら2つ返事で『いくらでも応援したる』って掛かり気味だったよ。使えるもんは何でも使いましょうということで。そうとなったら勇気!運ぶのがんばってね!」
光のご指名を受けた勇気は「あっ、うん」と小さな声で答えた。もちろんに反対する理由も立場も無かった。
こうしてまた一つ困難をクリアした。響は文二が言っていた「テンツクが大好きっていう気持ちがあれば乗り切れないことはないさ。」という言葉を思い出していた。
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