走馬燈
鐸木
走馬燈
青く澄んだ海に、楕円に広がる青空。地平線。きらきらと光る波が涙の様だった。そこは、僕の人生の終幕には勿体無いくらい綺麗な舞台だ。僕の穢れた死体なんぞでこの海を汚染するのは可哀想だという気持ちと、今まで惨めな人生だったのだから最期くらいは美しく飾りたい、という相反した気持ちがぶつかり合い、結局は綺麗にフィナーレを決めたいという願望の方に軍配が上がった。波から遠い砂浜に立っていたのに、いつの間にか潮が満ちて波が僕の足元を掬った。白いスニーカーが波に埋まって、べちょべちょとした不快感がじんわりと広がった。もう使わないし、どうでもいいだろうとスニーカーを履いたままずんずん波の方へ進んでいく。右足、左足、右足、左足…。一歩一歩力を込めて、不安を掻き消すように歩いて行く。ふと、砂浜と海の境目の辺りで立ち止まった。
そういえば、今日学校に連絡入れないまま休んじゃったな。
水面には、不安げな自分の顔が映っていた。
陽が落ちる教室。言い訳をする様に一人で活字が動く本を読む自分。談笑、吹奏楽の音出し、体育館の運動シューズが擦れる音。惨めで死にたかった便所飯。席替え、体育の授業、グループワーク、修学旅行、受験……。
頭に駆け巡る最悪な思い出達。走馬燈って、もっと美しい思い出が煌びやかに流れるものじゃないのか。どれだけ綺麗な舞台でも、こんな思い出達だったら泥水に見えてしまう。ふと、制服のポケットの振動に気がついた。スマホが鳴り止まない。母からだった。
「学校から連絡が来たんだけどどこにいるの?」
「迎え行くから」
「不在着信」
「不在着信」
……。
僕は、通話ボタンを押した。
「あぁ、お母さん?…うん。港町のあの海にいる。なんでって…何となく。…泣いてないよ…。」
走馬燈 鐸木 @mimizukukawaii
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