「いいよな。女は着飾ってにこにこしてりゃそれでいいなんて、羨ましい限りだ」と、言われましたので・・・
選択肢3.「では、旦那様の仰る通り。ただ着飾ってにこにこすることに致しましょう」と、にっこり微笑む。を、選んだ場合。
選択肢3.「では、旦那様の仰る通り。ただ着飾ってにこにこすることに致しましょう」と、にっこり微笑む。を、選んだ場合。
わたしは・・・
足早に部屋へと向かう旦那様の背中に声を掛けた。
「では、旦那様の仰る通り。ただ着飾ってにこにこすることに致しましょう」
「なにを言っている?」
「? 言葉の通りですが? では、わたしは失礼します」
「ふんっ、好きにしろ!」
と、旦那様が仰ったので、わたしも好きにすることにした。
旦那様は騎士団に所属していて、平民部隊の小隊を率いる隊長だ。
今回の遠征が終了して、無事に帰って来た。その旦那様に、久々に会えるからと少々張り切ったのだけど……どうやら旦那様は、わたしのこの格好が気に食わないようだ。
はぁ……
平民部隊は貴族の騎士様達のようにお城だったり大きなお屋敷でパーティーをすることはあまりないけど、無事に帰って来てくれたことを祝って、平民同士、小隊員の身内など親しい人達が集まって祝勝会が開かれるのが恒例となっている。
本来なら旦那様と話し合って、祝勝会の段取りや準備などを進める必要があったのだけど――――
あの不機嫌な様子だと、わたしの話は聞いてくれそうにない。
それに、あんな風に「はっ……いいよな。女は着飾ってにこにこしてりゃそれでいいなんて、羨ましい限りだ」だなんて言われて、わたしだって少しムカついている。
だったら、旦那様の言う通り。今回の祝勝会は着飾って、ただただにこにこしておきましょう。
平民騎士の奥様達にも、そう通達しておきましょうか♪
と、なにもしないまま三日が過ぎ――――
恒例の祝勝会が開かれないことに……不審を抱いた旦那様の部下が、旦那様に「祝勝会はいつやるのでしょうか?」と質問をしたらしい。
旦那様は慌てて、明日だと返事をしたそうで。
「なぜ祝勝会の手配をしてないんだ!」
と、わたしを叱り付けた。
「あら、だって
「~っ!? もういいっ! 俺が手配する!」
旦那様はそう怒鳴り、家を出て行った。
いつもは近所の公園や広場を貸し切りにして、祝勝会の会場にしているんだけど……事前に自治体に予約を入れておかないといけないのよね。今日言って、明日にすぐ貸し切りにできるかしら?
と、心配していたら案の定。公園や広場は貸し切りにならず、けれども一応使用許可が出たと言ったところ。
いつもは騎士の夫人や母親達が料理を持ち寄ったりお酒を差し入れしたりして、いい匂いを漂わせているのだけど……今日は、夫人達は着飾ってにこにこしているだけの人達が多い。
料理を持参している人がまばらにいる。旦那様は飲み物やグラス、カトラリーの手配もしていないようで、持参して来て人達の分以外は全く足りていない。
酒、肴、料理などが少なく、会場には祝勝会参加者以外の人達がなんだろうという風に見ている。中には、騎士の身内じゃない人が勝手に飲み食いしていたりもする。
いつになく段取りが悪く、そして険悪な雰囲気の祝勝会となった。
あちこちで喧嘩が起こり、旦那様が仲裁をして、仲裁が間に合わなかった人達は殴り合いにまで発展。騎士のクセに治安を乱すなとその場で謹慎処分が下されたり……などなど。
今回の祝勝会は、過去最悪のものになった。
まあ、それも当然のことだと思う。酒に酔って気が大きくなった人や、仲が悪い人達、酒癖が悪い人などなど。いつもは、そういう人達の夫人や母親達が宥めたり窘めたり、気を逸らしたり、間に入って仲裁したりと、折衝役を務めているのだから。
今回は、そういう騎士の身内の女性達が結託して、なにもしないでただ『着飾って微笑んで眺めているだけ』、にしていたのだから。
「なんなんだ、今回の祝勝会はっ!? こんな最悪な祝勝会は初めてだぞっ!! ……それもこれも、お前が準備をサボったせいだっ!! どう責任を取るつもりだっ!?」
なんて旦那様に怒鳴られたので、
「あら? 旦那様。女は着飾ってにこにこしていればそれでいいと仰ったじゃないですか。なのでわたし、着飾ってにこにこしているだけなのですけど? ふふっ、いつもより断然楽な祝勝会でしたわぁ♪」
「~~~っ!?」
にっこりと笑って言えば、旦那様は顔を真っ赤にして一人さっさと帰ろうとしました。
「あら、旦那様。どこへ行かれるおつもりで? まだ会場の後片付けが残っていますよ。ほら、ちゃんと綺麗にお片付けをしないと、今度から自治会から祝勝会やその他の行事の使用許可が下りないかもしれませんよ? いつもは、騎士達が飲み食いした後の片付けは女性陣が残ってやっていましたけど。わたし、今日は『着飾ってにこにこ笑っているだけ』の予定ですから。もう家に帰って休もうと思っていますの」
「っ!? 勝手にしろっ!!」
わたしや、日頃騎士の旦那に不満を持つ夫人達がにこにこ微笑みながら一斉に帰宅。
その翌日。
「ぅ、ぐぅ……っ!」
なにやら低く唸る声が聞こえて来ました。
どうやら、酷い二日酔いのようです。
いつもなら、あまり深酒をしないようにと注意をしたり、空腹状態で強い酒を飲まないようにと料理や肴を用意したり、確り水分を摂るようにと予防に気を付けていたのですが……
言わずもがな。今回はにこにこ微笑んで見ているだけです。
二日酔いに効く飲食物。薬の用意もしてあげません。存分に苦しんでいればいいのです。
そして、予想通りと言いますか――――
自治体の方から苦情が来ました。責任者の旦那様に、広場の清掃がキチンとされていない。更には、酔っ払い騎士がそこらに転がっている。あまりにも酷いから、警邏を呼んで連行させた、とのこと。
騎士と警邏は仲が悪い。
それから旦那様は、騎士達の失態を謝りに行かなくてはいけなくなった。二日酔いの青い顔で警邏隊の本舎へと出かけて行った。
それから数時間が経って、至極不機嫌そうな顔で旦那様が帰って来た。
なんでも、酔っ払って市民に絡んでいた騎士達は降格処分。旦那様も、責任を追及されて減俸処分。更に、広場の清掃を命じられたそうです。
旦那様も大変ですねぇ?
旦那様が苦しんでいる様子をにこにこと微笑んでただ見ているだけ。
恨めしそうな視線を感じますが・・・
「それで、旦那様? 女性は、わたし達はただ『着飾ってにこにこしているだけ』でしたか?」
「・・・悪かった。警邏の連中に、あまり奥方を蔑ろにすると離縁されるぞと脅された」
旦那様は、騎士夫人達が騎士達を色々とフォローしていることにようやく気付いたようです。
「まあ、いいでしょう。今回は、これで許してあげます」
ええ。今回は、です。
ふふっ、いつまでもわたしが、旦那様に尽くすのが当たり前だとは思わないことですね。
騎士の離婚率が高いのは、有名な話ですものね♪
騎士の元妻は救護院などによく務めていることが多いのよねぇ。わたしも、離縁した元騎士夫人に声を掛けられたことがある。
『旦那に愛想が尽きたらおいで。人手は幾らあってもいいからね』と。
だから、離縁後の生活もなんとかなると思うのよね♪
ふふっ、旦那様に愛想が尽きたらそのときは・・・
――――――――――――
破局匂わせな若干不穏エンド。(*`艸´)
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