第6話

次の日の朝、俺たちは二人でやる初めての任務へと向かった。

依頼は、始発の蒸気機関車の一等座席に乗車する予定の『マルージャ卿』の暗殺である。

彼は、我が国を敵国の支配下にしようと、裏で操作する『敵国のスパイ』だ。

そんなことを考えていると、隣からキスキの声がした。

「市一、切符はどうするのよ。ターゲットが乗る一等座席は二千ポンドも必要なのに……」

確かに、二百ポンドは日本円で約三百八十万円と、俺には到底払えないような金額だ。

だが俺には策がある。

「昨日の夜、一等座席の切符のレプリカを製造した。それでなんとか乗り切ろう」

俺は昨日製造した、偽の切符を二枚、キスキに見せてやった。

彼女はやたらと目を近づけて偽の切符を確認した。

「……座席指定券、四月一日、日常車駅発、市一、これだと絶対にバレないわ!!」

そう、この切符は絶対に素人には見破れない、いくつもの工夫が施されている。

「あ、よく時刻表を見たら運行停止って書いてあるわ」

なんてことだ。

俺は絶望のあまり、一瞬記憶が吹っ飛ぶ。

「はっはっはっはー!!今日は、エイプリルーフールということを忘れていたのかしら」

許さない。たとえエイプリルフールであったとしても。

俺は本気でビビっていたんだからな。

少し話しながら歩いていると、直ぐにタバコ臭いホームへと辿り着く。

「ここですか」キスキは白い拳銃を構えた。

いや、拳銃なんて構えてるやつがいたら、すぐに捕まってしまうからやめて頂きたい。

「おい、お前今は拳銃を出すな」

俺は耳元でささやく。

俺達は、乗車列の最後尾へと並んだ。

いつ順番が回ってくるのだろうか?

「長蛇の列ですね」

とにかく長い、切符切りの影すら見えないのだが。

「そうだな」

ホームには汽笛の音が鳴り響く。

「食堂車とかも楽しみですね」

彼女は足を弾ませる。

「おい、遊びに来たわけじゃ無いだろ」

そうこうしているうちに、切符拝見の順番が回ってきた。

何も起きていないかのように、偽の切符を差し出す。

(バレるな)

すぐに切符を切った音が耳に入った。

「成功しましたね」というかのように、キスキは最高の微笑みを見せた。

これから素敵な“殺人劇”が始まる。車内は悲鳴に満ち溢れるだろう。


俺とキスキは、車内に片足を踏み入れた。

おそらくこの蒸気機関車は、これから、山脈地帯を越え、敵国の街へと向かうはずだ。

360度、どこを見渡してもシャンデリア、有名な絵画、暖炉など、貴族の部屋にありそうなものが全て集結していた。

「市一さん!こんな所に来たのは初めてです」

よくこの雰囲気の中で喋れたな。

ここ、一等座席は恐らく貴族や金持ちの住処といっても過言ではないだろう。

「ああ、あのミステリ小説の主人公が乗っていた列車を実写化したみたいだ」

俺はキスキと喋りながら、座席へ腰をかけた。

キスキは俺の隣の座席へ腰をかける。

「私、一生この列車で暮らします!!」

何度も言うが、遊びに来たわけではない。

いつまでも一等座席を堪能している場合ではない。

計画を実行に移さなければ。

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