第3話

もしや、俺が殺し屋に所属していることに気付かれたのか?

俺が殺し屋に所属していることは企業秘密。

なんとか嘘をついて、この場を逃れようと思う。

「ねえ、そうですよぇ」

彼女は俺の鼻先まで顔を近づけてきた。

「…まあ…昔流行ったゾンビの…ゲームでな」

あまりに顔が近かったため、首を後ろに傾ける。

彼女の瞳の中には胡散臭い男が一人。

「嘘をついていますね…武器に殺し屋の紋章が刻まれていました」

殺し屋の紋章が刻まれていたことを忘れていた。

これが、何を言おうとも嘘をつくことが不可能になる、最強の切り札ということか。


「まあ、嘘をついてしまったということは、私の願いを一つくらい聞いてくれるということですよね」

彼女は奇妙な笑みを浮かべる。

「はあ?無理だ」

「あなたの嘘が下手だったからそうなったんですよね」


その時、ポケットの中から電話の着信音が鳴った。

「市一君、任務を伝えてから三十秒で暗殺だなんて、世界記録更新よ!!」

「嘘つかないでくださいよ」

銃を一発も撃っていないのに世界記録更新なんて……

「何を恥ずかしがってるのよ」

本部には俺が三十秒でターゲットを暗殺したと伝えられていたらしい。

「あ、失礼します」

俺はそれだけを言ってすぐに電話を切った。


その瞬間、彼女から声がした。

「この私との話を途中でやめてまでして誰と話していたのですか?もしかして彼女とか」

こいつなら殺し屋に関わることだとしても話してもいいだろう。

だってこいつはどうせ“こっち側の人間”なんだから。

殺し屋の紋章はこっち側の人間のみが知る企業秘密なのだ。

「殺し屋の本部と話していた。令嬢を暗殺する任務で、銃すら撃っていないのに暗殺の世界記録を達成してしまったらしい。あと、俺に彼女が居るとでも思ったのか?」

俺は、真実をすべて話した。

「それ、私がやりました」

令嬢を殺したのは私でしたとでも言うのか?

聞き間違いだろう。そう、聞き間違いである。

「感想をどうぞ」

どうやら聞き間違いではなかったらしい。

「思いつかない」

彼女はがっかりしたようにため息をつく。

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