第2節第5話『断章:線路付近にて』

『記録:20YY年MM月DD日第57事案。

事案詳細:午前TT時発・東京行の列車の第五車両にてロボットの暴走を確認。ロボットの出自は不明。製作元が書かれていたであろう場所が“見えなくなっていた”。乗り合わせていた高校生2人がこの事態を解決。1時間の事情聴取の後、彼らを目的地まで送り届けた。なお、これは事態解決に対する報酬とする』


「派手に暴れてくれたわね」


 書類に目を通し終えた、白雪のような美しさを持つ少女は吐き捨てた。少女の名はスノウ・ホワイトリリィ。『異端』を処断する“聖教会”のメンバーの一人だ。


「“ただならぬ魔力を感じた。念の為調査しておいてほしい”。布施さんから連絡を貰ったので来てみれば……」


 スノウは改めて、事態の起こった列車に視線を送る。車両には、『黒いシミ』が大量についている。出発前はこんなものをついていなかった、と乗客が言うので、これが走行中につけられたものであるのは間違いない。


「けど、違和感ね。どうやってこのシミがついたのか開目見当もつかない。セバスチャン、何かわかる?」


 スノウは隣に立つ男に問いを投げる。男の素顔は、黒子の頭巾を被っているため確認できない。そして、神父が着用するようなキャソックに身を包んでいる。


「お嬢様。お言葉ですが、これは魔力痕です」


「魔力痕……?」


 スノウは首を傾げる。


「非常に稀な例なので、お嬢様が知らないのも無理はありません。魔力痕は、高濃度の魔力が複数回、あるいは短時間同じ場所に接触した際に生じるものです」


「……そう。けどわからないわ。結局このシミは誰がつけたものなの?」


「私にも把握しかねます。ですが、可能性程度の予想なら考えられます」


「ズバリ、それは?」



 至って真剣な調子で、セバスチャンはそんなことを口にした。


「——は?」


 セバスチャンの言っていることがわからず、思わず膠着してしまうスノウ。それは、地球最後の日の昼下がりのこと。彼らは、惑星の『異変』にいち早く気づくこととなった。

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